表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミミック・ワールド ~宝箱の魔物は能力を喰らい、世界を喰らう~  作者: シンパチ
第一章 ダンジョンの王
12/26

第十一話 成長

「フライ。」


 風魔法を発動する。


 身体の下に風が集まり、箱がふわりと浮き上がった。


 まだ、空を自由に飛べるほど使いこなせてはいない。


 少しでも魔力の制御を誤れば、すぐに床へ落ちてしまう。


 だが、身体を軽くできるだけでも十分だった。


 箱から数十本の触手を伸ばす。


 壁。


 床。


 天井。


 触手の先で次々と掴み、身体を引き寄せる。


 ゴトゴトと床を這っていた頃とは、比べものにならない速度だ。


 軽くなった身体が、弾むように通路を飛び進んでいく。


 進行方向に、甲虫のような魔物が現れた。


「ウィンドカッター!」


 風の刃が飛ぶ。


 甲虫の硬い羽へ命中し、その身体を真っ二つに切り裂いた。


 さらに、天井から巨大な蛾の魔物が襲いかかってくる。


「サンダーボルト!」


 放たれた雷が蛾を貫く。


 黒く焦げた身体が床へ落ちるより早く、触手を伸ばして掴み取った。


 死骸と魔石を回収し、そのまま箱の中へ収納する。


 動きを止める必要すらない。


 飛び進みながら魔物を狩り、触手で戦利品を拾っていく。


「随分、楽になったな。」


 以前なら、1匹を倒すだけでも命懸けだった。


 相手が近づくまで待ち、喰らいつき、力尽きるまで耐える。


 今では遠くの敵を魔法で倒せる。


 触手も増えた。


 身体能力も上がった。


 空中を移動することさえできる。


 ゴブリンキングを倒してから、一か月ほどが過ぎたと思う。


 あの戦いを境に、俺は飛躍的に強くなった。


 キングとその配下を倒して得た経験値。


 多種多様なゴブリンを捕食して得た能力。


 なかでも大きかったのは、ゴブリンメイジから手に入れた魔力操作だ。


 それまで俺の中に魔力はあっても、まともに扱う方法が分からなかった。


 魔力操作を覚えたことで、ようやく意識して魔力を動かせるようになった。


 火。


 土。


 風。


 雷。


 水。


 複数のゴブリンメイジから吸収した属性魔法を、少しずつ練習した。


 最初は、キングへ放った小さな火球が精いっぱいだった。


 今では移動しながら魔法を放ち、複数の敵を同時に狙うこともできる。


 もちろん、俺が急に魔法の天才になったわけではない。


 同じ魔法を使っても、威力や精度はゴブリンメイジと大して変わらない。


 だが、触手や収納と組み合わせれば、使い道はいくらでもあった。


 火で視界を奪う。


 土で足場を崩す。


 風で身体を軽くする。


 雷で動きを止める。


 水で汚れを落とす。


「水魔法は便利だけど、戦闘では微妙だな。」


 もっと強い使い手を捕食すれば、威力も上がるのだろうか。


 今後の課題だ。


 俺はさらに探索範囲を広げていった。


 以前は見つからないように息を潜めていた相手にも、自分から戦いを挑む。


 巨大な蜘蛛の魔物。


 粘着質の糸を吐き、八本の足で壁や天井を自在に移動する厄介な相手だった。


 だが、糸を火魔法で焼き払い、逃げ道を触手で塞いで捕食した。


 糸を生成するスキルを手に入れた。


 角の生えた鬼のような魔物。


 正面から殴り合えば、ゴブリンキングにも劣らない怪力を持っていた。


 しかし動きは単純だった。


 触手で天井へ逃れ、魔法で牽制しながら背後へ回り込む。


 最後は首筋へ喰らいつき、悪食で仕留めた。


 筋力強化と痛覚耐性を手に入れた。


 熊のような魔獣。


 猪のような魔獣。


 岩に擬態するトカゲ。


 音もなく天井から襲ってくる大蛇。


 どいつも一筋縄ではいかない相手だった。


 それでも、ゴブリンキングほど苦戦することはなかった。


 俺が強くなっていることもある。


 相手が1体なら、攻撃の方向も限られる。


 群れを統率し、役割を分担して追い詰めてきたキングの軍勢は、やはり特別だった。


「今なら、キングともう一度戦っても勝てるだろうな。」


 以前のような死闘にはならない。


 魔法で視界を奪い、フライと触手で死角へ回り、悪食を当てる。


 もっと安全に倒せるはずだ。


 それだけ俺は成長していた。


 新しく得た能力の中でも、とりわけ役立ったものが2つ。


 1つは、《回復魔法》。


 クラゲの魔物から手に入れた。


「ヒール。」


 淡い光が箱を包む。


 先ほど甲虫の角で付けられた小さな傷が、ゆっくりと塞がっていく。


 これを手に入れたことで、継続して戦える時間が一気に長くなった。


 以前は大きな傷を負えば、住処へ戻って休むしかなかった。


 今では戦いの合間に傷を治せる。


 もう1つは、《音波探知》。


 こちらは、コウモリの魔物から手に入れた。


 このスキル初めは、索敵と被るかと思ったがまるで違った。


 周囲に音波を飛ばすことによって、地形を把握することができる。しかも、範囲も広めだ。


 音波探知で白黒の地図を作成して、索敵で地図上に敵をマーキングする。このスキルは2つ合わせて真価を発揮した。


探索力と継続戦闘力を強化できたお陰で、効率的にダンジョン攻略出来るようになった。


 その結果、この辺りに生息していた魔物は、ほとんど狩り尽くしてしまった。


 ここはダンジョンだ。時間が経てばまたどこかから現れるのだろう。


 だが、何度も捕食した相手から新しい能力を得られる可能性は低い。


 今の俺がさらに強くなるためには、別の場所へ進む必要がある。


 音波探索を発動する。


 甲高い音を周囲へ放ち、返ってくる響きを捉える。


 視界の届かない場所まで、通路や部屋の形が頭の中に浮かび上がった。


 この能力を得てから、ダンジョンの構造をかなり把握できるようになった。


 そして、改めて思う。


「このダンジョン、めちゃくちゃ広いな。」


 俺が最初にいた場所など、全体のほんの一部にすぎない。


 通路は複雑に枝分かれし、いくつもの巨大な空間へ繋がっている。


 どこまで広がっているのか、音波探索でも全貌は捉えられなかった。


 探索済みの範囲の端には、二つの巨大な扉がある。


 一つは、上層へ続く階段の先。


 もう一つは、地下へ続く階段の先。


 上か。


 下か。


「まずは、上を見てみるか。」


 弱い敵から順に攻略する。


 それが基本だ。


 俺は上層へ続く階段を進み、巨大な扉の前へ到着した。


 分厚い石の扉。


 中央には、炎を吐く狼の彫刻が刻まれている。


「分かりやすいな。」


 ボス部屋なのだろう。


 触手を何本も扉へ当て、力を込める。


 重い扉がゆっくりと開いた。


 むっとする熱気が流れ出す。


 扉の向こうは、赤く焼けた岩に囲まれた広い空間だった。


 床のあちこちから炎が噴き上がっている。


 部屋の中央で、巨大な獣がゆっくりと立ち上がった。


 狼。


 ただし、その身体は赤い炎で形作られている。


 燃え盛る体毛。


 口から漏れる火の粉。


 俺より何倍も大きな身体。


「上層のボスってところか。」


 炎の狼が咆哮する。


 部屋中の炎が一斉に激しく燃え上がった。


 次の瞬間、獣が床を蹴る。


「速い!」


炎の塊が一直線に迫る。


 触手を天井へ伸ばし、身体を持ち上げる。


 狼は俺の下を通過しながら、身体から炎を噴き上げた。


「あつっ!」


 直撃は避けたが、箱の底が焼かれる。


 ヒールを使うほどではない。


 俺は天井から魔法を放つ。


「ウォーター!」


 水が狼へ降り注ぐ。


 ジュッ!


 激しい蒸気が立ち上った。


 だが、身体を覆う炎が少し弱まっただけだ。


「相性が良くても、この程度か。」


 俺の水魔法では威力が足りない。


 狼が再び跳びかかってくる。


 今度は避けない。


 触手を左右へ広げ、その身体を迎え撃つ。


 炎が触手を焼く。


 痛い。


 だが、構わず巻き付ける。


 逃がさない。


 狼が暴れ、全身から炎を噴き出す。


 箱の表面が焦げ、触手が焼き切れそうになる。


「キングに比べれば、大したことない!」


 触手を縮め、自分の身体を一気に引き寄せる。


 炎の狼の首元へ喰らいついた。


「悪食!」


 牙が炎の身体へ食い込む。


 本来なら触れることすら難しい炎の肉体を、防御も特性も無視して喰らい取る。


 首から胸にかけて、大きく抉り取った。


 狼の身体が崩れる。


 炎が急速に弱まり、最後には小さな魔石だけが床へ落ちた。


『炎獣を倒しました。』


[スキルを取得しました]

・獲得スキル:『炎熱耐性・中』


「やっぱり、キングの方が強かったな。」


 多少の火傷は負った。


 だが、悪食の一撃で終わった。


 これなら、上層へ進んでも大きな危険はないだろう。


 扉の奥には上へ続く階段がある。


 索敵・下級を使う。


 その先から感じる魔物の気配は、どれも今の俺なら対処できそうな強さだった。


「上へ行けば、安全に強くなれるかもしれない。」


 そう考えた。


 だが、すぐに首を振る。


「違うな。」


 安全な場所で、既に持っている能力を強くする。


 それも悪くない。


 だが、新しい力を得るなら、未知の敵がいる場所へ行くべきだ。


 それに、このダンジョンは深く潜るほど敵が強くなるらしい。


 なら、ダンジョンの王を目指す俺が進むべき方向は一つだ。


「下だ。」


 俺は上層へ続く階段に背を向けた。


 炎獣の魔石を収納し、来た道を引き返す。


 そして、下層へ続くもう一つの扉の前へ立った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ