# 第九話 ## 「戦場にいた、小さな敵」
# 第九話
## 「戦場にいた、小さな敵」
国境付近。
空は灰色だった。
煙が上がっている。
焼けた匂い。
崩れた柵。
剣を構える人間兵。
牙を剥く魔族兵。
怒号と殺気が渦巻く場所。
ひまりはその光景を見て、
言葉を失った。
「……これが」
戦争。
ゲームでも、
映画でもない。
本物。
怖かった。
人が本気で、
誰かを傷つけようとしている。
その中心へ。
レオンとアレンは歩いていく。
「魔王様だ!!」
「勇者様!!」
両陣営がざわつく。
普通なら。
ここで戦いが始まる。
だが。
レオンは叫んだ。
「全員武器を下げろ!!」
アレンも続ける。
「これ以上戦うな!!」
だが兵士たちは混乱していた。
「しかし魔族が!」
「人間どもが先に!」
憎しみ。
恐怖。
積み重なったものが、
簡単には消えない。
ひまりは歯を食いしばる。
その時だった。
小さな泣き声。
「……え?」
瓦礫の奥。
誰かいる。
ひまりは走った。
「おい危ない!」
レオンが叫ぶ。
だが、
ひまりは止まらない。
崩れた建物の隙間。
そこにいたのは――
小さな男の子だった。
まだ五歳くらい。
魔族の子供。
小さな角。
涙で顔がぐしゃぐしゃだった。
「ママ……」
ひまりの胸が痛む。
周囲を見る。
誰もいない。
逃げ遅れたんだ。
その時。
ヒュン!!
矢が飛んできた。
「危ない!!」
アレンが飛び込む。
ガキィン!!
剣で弾いた。
兵士の一人が叫ぶ。
「魔族の子です! 危険かもしれません!」
その瞬間。
レオンの目が変わった。
ぞわり。
空気が凍る。
「……今、なんて言った?」
低い声。
兵士が震える。
レオンは怒っていた。
本気で。
「子供だぞ」
魔力が漏れる。
地面が軋む。
「そんなものに、“危険”とかあるか」
誰も動けない。
ひまりは、
初めて見た。
優しい魔王が怒るところを。
アレンも静かに前へ出る。
「……武器を下ろしてください」
その声は、
優しかった。
でも逆らえない。
「この子は敵じゃない」
兵士たちは、
ゆっくり武器を下ろした。
男の子は震えていた。
ひまりはそっと抱きしめる。
「大丈夫」
その時。
別方向から叫び声。
「人間だ!!」
今度は魔族兵だった。
瓦礫の向こう。
小さな女の子。
人間の子供。
泣きながら座り込んでいる。
魔族兵が構える。
だが。
レオンが叫んだ。
「やめろ!!」
全員止まる。
レオンは少女の前へ立った。
「この子も敵じゃない」
静寂。
アレンは、
その光景を見ていた。
魔王が、
人間の子供を守っている。
周囲の兵士たちも、
言葉を失っていた。
ひまりは思った。
なんだ。
やっぱり。
この世界の人たち、
本当は優しいんじゃん。
ただ。
怖かっただけなんだ。
傷つけられるのが。
失うのが。
だから先に、
敵を作っていた。
その時。
人間の女の子が、
震える声で言った。
「……ありがとう」
レオンは少し困った顔をした。
「……別に」
でも。
その顔は、
どこか嬉しそうだった。




