# 第十話 ## 「世界で一番、不器用な握手」
# 第十話
## 「世界で一番、不器用な握手」
国境の村。
壊れた家々。
泣き声。
煙。
その中心で。
人間の子供と、
魔族の子供が、
並んで座っていた。
ひまりは二人に毛布を掛ける。
「寒くない?」
小さく頷く二人。
アレンは周囲の怪我人を治療していた。
人間も。
魔族も。
関係なく。
その姿を見て、
兵士たちはざわついていた。
「勇者様が……魔族を?」
一方。
レオンは瓦礫を持ち上げ、
閉じ込められていた人々を助けていた。
人間を。
魔王が。
「こっちにもいる!」
ひまりが叫ぶ。
レオンは即座に動く。
巨大な瓦礫を、
片手で持ち上げた。
助け出された老人は、
震えていた。
「ま、魔王……」
普通なら恐怖する。
だが。
レオンは不器用に言った。
「……怪我、ないか」
老人は呆然としていた。
その時だった。
「魔王なんか信じるな!!」
怒鳴り声。
人間兵の一人だった。
若い兵士。
目に強い憎しみがある。
「魔族は敵だ!!」
空気が張り詰める。
魔族側も睨み返す。
また始まる。
誰もがそう思った。
だが。
ひまりが兵士の前に立った。
「じゃあ聞くけど」
兵士が止まる。
「さっき助けられてたおじいちゃん、敵だった?」
「……っ」
「勇者は魔族を助けてたよ?」
兵士は言葉に詰まる。
ひまりは続けた。
「敵って何?」
静寂。
誰も答えられない。
兵士は悔しそうに拳を握る。
「でも……俺の兄は魔族に殺された……」
その声は震えていた。
憎しみじゃない。
悲しみだった。
レオンの顔が曇る。
アレンも俯いた。
戦争は、
誰かの日常を壊してきた。
ずっと。
その時。
今度は魔族兵が口を開く。
「……俺の親も、人間に殺された」
空気が止まる。
誰も悪者になりきれない。
誰も正義だけじゃない。
ひまりは、
苦しくなった。
簡単に「仲良くしろ」なんて、
言えない。
でも。
だからって。
ずっと憎み続けるのか。
その時だった。
「……はい」
小さな声。
みんなが見る。
人間の女の子だった。
彼女は、
隣の魔族の男の子へ、
震える手を伸ばしていた。
「おともだち……なる?」
静寂。
男の子は目を丸くする。
「……いいの?」
「うん」
小さな手。
震えている。
男の子も、
恐る恐る手を伸ばした。
そして。
ぎゅ。
握手。
たったそれだけ。
でも。
その瞬間。
なぜか、
誰も言葉を出せなかった。
レオンは目を細める。
アレンは静かに笑った。
ひまりは泣きそうだった。
大人たちが何年もできなかったことを。
子供たちは、
一瞬でやってしまった。
敵とか。
正義とか。
悪とか。
そんなものを飛び越えて。
「……すげぇな」
レオンがぽつりと言う。
アレンも頷く。
「僕たちより、ずっと」
風が吹く。
灰色だった空から、
少しだけ光が差し込んでいた。




