# 第十一話 ## 「魔王と勇者、サボる」
# 第十一話
## 「魔王と勇者、サボる」
国境の騒動から二日後。
魔王城。
「……帰りたくない」
レオンは机に突っ伏していた。
その周囲には。
山。
書類の山。
「魔王様。現実を見てください」
ゼルグが無表情で言う。
「嫌だ」
「逃げても終わりません」
「終わらない仕事が悪い」
完全に社畜の会話だった。
レオンは泣きそうな顔で書類を見る。
『戦争被害報告』
『領地問題』
『魔族議会抗議文』
頭が痛い。
その時。
コンコン。
「失礼します」
ひまりだった。
「……お」
レオンの顔が少し明るくなる。
「助けて」
「子供か」
ひまりは笑った。
机を見る。
「うわ、終わってる」
「俺の精神が?」
「部屋が」
レオンは真顔になった。
「ひどい」
一方その頃。
王都。
アレンも死んでいた。
「勇者様! 会議です!」
「勇者様! 演説原稿を!」
「勇者様! こちらにサインを!」
アレンは笑顔だった。
でも。
魂が抜けていた。
リシアが心配そうに聞く。
「……大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
即答。
だが。
次の瞬間。
アレンはふらっと倒れた。
「勇者様ぁぁぁ!?」
数時間後。
アレンは城の医務室で目を覚ました。
天井を見る。
静かだった。
久しぶりに、
誰もいない。
その時。
窓から声。
「生きてる?」
「!?」
アレンが飛び起きる。
窓の外。
レオンとひまりがいた。
「な、何してるんですか!?」
「脱獄」
「魔王が言うセリフじゃない」
ひまりが笑う。
「迎えに来た」
「え?」
レオンは少し照れ臭そうに言った。
「お前、死にそうな顔してたから」
アレンは目を見開く。
そんなこと、
今まで誰も言わなかった。
勇者は強くて当然。
頑張って当然。
そう思われていたから。
レオンは続ける。
「サボるぞ」
「……はい?」
「仕事なんか知らん」
「魔王がそれ言います?」
「今日くらい良いだろ」
ひまりも頷く。
「働きすぎ禁止」
数十分後。
三人は、
王都の外れにある湖へ来ていた。
静かな場所。
青い水。
風の音。
誰もいない。
アレンは呆然としていた。
「……本当に来ちゃった」
レオンは草の上に寝転がる。
「あー……平和」
「魔王が言うな」
「勇者も来てるだろ」
ひまりは靴を脱ぎ、
湖へ足を入れた。
「冷たっ!」
笑い声。
アレンはその光景を見ていた。
胸が、
少しだけ軽かった。
何もしなくていい。
戦わなくていい。
期待されなくていい。
そんな時間。
たぶん初めてだった。
その時。
ひまりが振り返る。
「ねぇアレン!」
「はい?」
「笑ったほうがかっこいいよ!」
アレンは固まった。
レオンが吹き出す。
「ははっ!」
「笑うな!!」
アレン、
珍しく真っ赤。
ひまりはケラケラ笑う。
レオンはその様子を見ながら、
ふと思った。
――こんな日が、
ずっと続けばいいのに。
魔王でも。
勇者でもなく。
ただ、
友達として笑える日々が。
でも。
世界はきっと、
それを簡単には許してくれない。




