# 第十二話 ## 「帰りたくない場所と、帰りたい場所」
# 第十二話
## 「帰りたくない場所と、帰りたい場所」
湖での“サボり時間”から数日後。
世界は、
少しだけ変わっていた。
国境で、
勇者が魔族を助けた。
魔王が人間を守った。
その噂は、
ものすごい勢いで広がっていた。
もちろん。
良い方向だけじゃない。
---
王都。
会議室。
「ありえません!!」
貴族が机を叩いた。
「勇者様は魔族に騙されているのです!」
「魔王と共に行動したなど正気ではない!」
「討伐を続けるべきです!!」
怒号。
圧力。
アレンは静かに聞いていた。
その顔は、
疲れていた。
すると。
「……では聞きます」
アレンが立ち上がる。
空気が止まる。
「子供まで敵なんですか?」
貴族たちが黙る。
「助けを求める人を見捨てることが、“正義”なんですか?」
誰も答えられない。
アレンは、
拳を握った。
「僕は……」
声が震える。
「そんな勇者には、なりたくない」
静寂。
会議室が凍った。
一方その頃。
魔王城でも。
「魔王様!!」
幹部たちが叫んでいた。
「人間を助けるなど何を考えているのです!?」
「勇者と接触など危険です!!」
「魔王としての威厳が――」
「うるさい」
レオンの低い声。
全員止まる。
レオンは玉座に座りながら、
静かに言った。
「俺は、子供を見捨てろなんて命令した覚えはない」
空気が震える。
歴代最強の魔王。
その圧に、
誰も逆らえない。
だが。
レオンは少しだけ目を伏せた。
「……威厳とか、正直どうでもいい」
ぽつりと言う。
「守りたいものを守れない魔王に、意味あるか?」
幹部たちは言葉を失った。
その日の夜。
ひまりは、
小屋で一人座っていた。
窓の外を見る。
月。
静かな夜。
「……大変そうだなぁ」
ぽつりと呟く。
レオンも。
アレンも。
本当は優しいのに。
世界が、
それを許してくれない。
その時。
コンコン。
「入るぞ」
レオンだった。
「アレンも来てる」
後ろから、
アレンも顔を出す。
ひまりは少し笑った。
「なに、避難所?」
「ここが一番落ち着く」
レオンが言う。
アレンも頷く。
「同感です」
ひまりはきょとんとした。
「城より?」
「うん」
「はい」
即答だった。
レオンは床に座り込む。
「魔王城、肩凝る」
「王城もです」
「わかる」
二人とも遠い目。
ひまりは笑ってしまった。
その時。
アレンがふと聞く。
「……ひまりさんは」
「ん?」
「元の世界に帰りたいですか?」
静かになる。
ひまりは少し考えた。
日本。
家族。
友達。
学校。
帰りたい。
……はずなのに。
「……わかんない」
小さく言った。
「最初はすぐ帰りたかった」
レオンとアレンは黙って聞く。
「でも今は」
ひまりは、
二人を見る。
「ここにいたいって、ちょっと思ってる」
静かな空気。
アレンは優しく笑った。
レオンも、
少しだけ嬉しそうだった。
だけど。
その瞬間。
ズゥゥゥン……
地面が揺れた。
三人が顔を上げる。
外。
遠くの空が、
赤く染まっていた。
燃えている。
レオンの顔色が変わる。
「……あれは」
アレンも立ち上がる。
嫌な予感。
そして。
ゼルグが勢いよく飛び込んできた。
「魔王様!!」
息を切らしながら叫ぶ。
「封印が……!」
その後ろから、
リシアも駆け込む。
「勇者様!! 北の遺跡で大量の魔物が――!」
空気が変わる。
今までとは違う。
戦争じゃない。
もっと、
嫌な何か。
レオンが低く呟いた。
「……まさか」
アレンも青ざめる。
ひまりだけがわからない。
「なに……?」
二人は同時に、
最悪の名前を口にした。
「“黒の災厄”……」




