# 第十三話 ## 「黒の災厄」
# 第十三話
## 「黒の災厄」
夜。
風が止まっていた。
遠くの空を染める、
不気味な赤い光。
まるで、
世界そのものが悲鳴を上げているみたいだった。
ひまりは不安そうに聞く。
「……黒の災厄って?」
誰もすぐには答えなかった。
レオンの顔は、
今まで見たことがないほど険しい。
アレンも、
静かに拳を握っていた。
やがて。
レオンが低い声で言う。
「昔、この世界を滅ぼしかけた存在だ」
空気が重くなる。
「人間でもない。魔族でもない」
アレンが続ける。
「ただ、全てを壊すためだけに現れる怪物」
ひまりは息を呑んだ。
「……怪物?」
ゼルグが地図を広げる。
「北の遺跡で封印の一部が破壊されました」
リシアも険しい顔。
「すでに周辺の村が襲われています」
レオンは舌打ちした。
「最悪だ……」
ひまりは二人を見る。
「そんなにヤバいの?」
沈黙。
そして。
アレンが静かに言った。
「……昔、“黒の災厄”が現れた時」
「人間も魔族も、関係なく滅びました」
ひまりの背筋が冷える。
それはもう、
戦争じゃない。
世界の終わりだ。
その時だった。
ドォォォォォン!!
凄まじい揺れ。
小屋が震える。
ミーナが悲鳴を上げた。
「きゃあっ!」
レオンが即座に立ち上がる。
「近い!」
外へ飛び出す三人。
夜空。
そして。
山の向こう側から、
巨大な“何か”が現れた。
黒い霧。
無数の赤い目。
地面を這うように進む、
異形の化け物。
その姿を見た瞬間。
兵士たちが震えた。
「なんだ……あれ……」
「化け物……」
ひまりも息を失う。
怖い。
本能が叫んでいる。
“逃げろ”と。
その時。
怪物の群れが、
近くの村へ向かって動き出した。
子供の泣き声。
逃げ惑う人々。
レオンは歯を食いしばる。
「……クソ」
アレンが剣を抜いた。
聖剣が光る。
「行きます」
レオンも黒い魔力を纏う。
「ひまり」
「……え?」
「絶対、前に出るな」
真剣な目だった。
アレンも頷く。
「僕たちから離れないでください」
次の瞬間。
二人は同時に走り出した。
勇者と魔王。
敵同士だった二人が。
今は同じ方向へ走っている。
その背中を見て。
ひまりは胸が苦しくなった。
怖い。
でも。
二人を失うのは、
もっと怖かった。
村では、
すでに怪物が暴れていた。
家が壊される。
悲鳴。
炎。
その中心へ。
レオンが飛び込む。
「どけぇぇぇぇ!!」
黒い魔力が爆発した。
怪物が吹き飛ぶ。
だが。
数が多すぎる。
アレンも剣を振るう。
光の斬撃。
怪物を切り裂く。
兵士たちは呆然としていた。
魔王と勇者が、
背中を預け合って戦っている。
ありえない光景。
その時。
巨大な影が、
ひまりの後ろへ現れた。
赤い目。
牙。
怪物。
「……っ!」
動けない。
怖くて。
次の瞬間。
ドン!!
誰かが、
ひまりを突き飛ばした。
「きゃっ!」
地面へ転がる。
そして。
目の前で。
アレンが、
怪物の爪を受けていた。
「アレン!!」
血が飛ぶ。
勇者の白い服が、
赤く染まった。




