# 第十四話 ## 「勇者が倒れた夜」
# 第十四話
## 「勇者が倒れた夜」
「アレン!!」
ひまりの叫びが響いた。
ガキィィィン!!
怪物の爪と聖剣がぶつかる。
だが。
間に合わなかった。
鋭い爪がアレンの肩を深く切り裂く。
鮮血。
勇者の身体が吹き飛んだ。
「ぐっ……!」
地面を転がる。
「アレン!!」
レオンが顔色を変えた。
その瞬間。
怪物が再び飛びかかる。
赤い目。
巨大な牙。
殺意。
だが。
レオンの中で何かが切れた。
「――触るな」
低い声。
ゾワッ。
空気そのものが震えた。
兵士たちが青ざめる。
地面がひび割れる。
黒い魔力が、
嵐のように溢れ出した。
「俺の友達に」
レオンは怪物を睨む。
赤い瞳が光る。
「二度と触るなぁぁぁぁぁ!!」
ドォォォォォォォン!!
黒い衝撃波。
怪物の群れが一瞬で吹き飛んだ。
山が揺れる。
空が裂ける。
兵士たちは震えていた。
「な、なんだこの力……」
「これが……魔王……」
レオンは構わなかった。
すぐにアレンの元へ駆け寄る。
「おい!」
アレンは苦笑した。
「……そんな顔しないでください」
「馬鹿野郎!」
レオンが怒鳴る。
「なんで庇った!!」
アレンはゆっくり、
ひまりを見る。
「……だって」
優しく笑う。
「守りたかったから」
ひまりの目から涙が溢れた。
「馬鹿……」
アレンは少しだけ笑う。
「よく言われます」
その時だった。
ズゥゥゥゥゥン……
大地が揺れた。
誰もが空を見る。
黒い霧。
その中心。
巨大な影。
今までの怪物とは比べ物にならない。
山ほどの大きさ。
無数の目。
異様な存在感。
ゼルグが顔面蒼白になる。
「まさか……」
リシアも震えていた。
「嘘でしょ……」
レオンは歯を食いしばる。
「封印の核か」
最悪だった。
今まで倒していた怪物は、
ただの先兵。
本命はまだ現れていなかった。
巨大な怪物が口を開く。
その瞬間。
世界が悲鳴を上げた。
ドォォォォォォォン!!
黒い光線。
山が消し飛ぶ。
森が消える。
兵士たちは絶望した。
勝てない。
誰もそう思った。
その時。
アレンが立ち上がろうとする。
だが。
「やめろ」
レオンが肩を掴む。
「でも……」
「動くな」
アレンは悔しそうに拳を握る。
レオンは立ち上がった。
一人で。
巨大な怪物を見上げる。
「レオン……?」
ひまりが呼ぶ。
レオンは振り返らなかった。
ただ。
静かに言う。
「なあ、ひまり」
「……なに」
「お前、この世界に来てから」
少し笑った。
「楽しかったか?」
ひまりの心臓が止まりそうになる。
嫌な予感。
嫌な予感しかしない。
「何言ってるの……」
レオンは続ける。
「俺は楽しかった」
風が吹く。
「勇者と焼き鳥食ったり」
「やめて……」
「お前に説教されたり」
「やめてよ……」
ひまりの声が震える。
アレンも気づいた。
レオンが何を考えているのか。
「レオン」
アレンが立ち上がる。
「駄目です」
レオンは笑う。
「勇者」
「……」
「俺、魔王向いてなかっただろ?」
アレンの目に涙が浮かぶ。
「そんなことありません」
「あるよ」
レオンは空を見た。
巨大な怪物。
世界の終わり。
そして。
守りたいもの。
全部見つかった。
だから。
レオンは一歩前へ出る。
「魔王らしいこと」
黒い魔力が空を覆う。
「最後に一回だけやってくる」
ひまりは叫んだ。
「レオン!!」
だが。
魔王は振り返らなかった。
そして。
世界最強の魔力が、
夜空を埋め尽くした。
――続く。




