# 第五話 ## 「世界最悪の逃走劇」
# 第五話
## 「世界最悪の逃走劇」
「待てぇぇぇぇ!!」
背後から響く怒号。
石畳を蹴る音。
鎧のぶつかる音。
魔法の爆発音。
夜の城下町は、
もはや戦場だった。
「なんでこうなるのぉぉぉ!?」
ひまりが半泣きで叫ぶ。
「俺に聞くな!!」
レオンも叫ぶ。
「右です!!」
アレンが前を指差す。
三人は路地裏へ飛び込んだ。
直後。
ドォォォン!!
背後の壁が吹き飛ぶ。
「ひぃっ!?」
ひまりが飛び上がる。
レオンは舌打ちした。
「人間側、本気すぎるだろ!!」
「魔王相手ですから!!」
「お前もいるだろ勇者!!」
「今それ言います!?」
走る。
とにかく走る。
ひまりはもう限界だった。
「む、無理……!」
「止まるな!」
「女子高生にこの運動量は無理ぃぃ!!」
その時。
前方から魔族兵が現れる。
「魔王様!! ご無事で――」
レオンは即答した。
「見逃せ!!」
「え?」
「今すぐ!!」
魔族兵が混乱している間に、
三人は横を駆け抜ける。
「ま、魔王様ぁぁ!?」
アレンが息を切らしながら聞く。
「いいんですかそれ!?」
「あとで怒られる!!」
「自覚あるんですね!?」
再び爆発。
石畳が砕け散る。
ひまりが涙目になる。
「私、今日まで普通に学校行ってたんだけど!?」
「災難だったな!!」
「他人事!?」
「いや俺もだいぶ災難だぞ!?」
アレンが小さく呟く。
「僕もなんですが……」
全員被害者だった。
その時。
行き止まり。
「うそ!?」
ひまりが叫ぶ。
背後からは兵士たち。
完全に囲まれた。
騎士団長が前へ出る。
「勇者様。そこを離れてください」
魔族側の幹部も現れる。
「魔王様。人間どもは我々が始末します」
空気が張り詰める。
アレンは剣に手をかけた。
レオンも魔力を纏う。
戦えば、
ここは血の海になる。
ひまりは震えていた。
怖い。
当たり前だ。
昨日まで、
テスト勉強していた普通の女子高生なのだから。
でも。
彼女は二人を見た。
魔王。
勇者。
二人とも、
戦いたくなさそうな顔をしていた。
その顔を見て。
ひまりは。
「……もう、やだ」
ぽつりと言った。
その声は小さかった。
だけど。
なぜか、
その場の全員が聞こえた。
ひまりの目から涙がこぼれる。
「なんでそんなに戦うの……」
震える声。
「怖いよ……」
静かになる。
兵士たちも。
騎士も。
魔族も。
動けなかった。
その時だった。
レオンが前へ出る。
「……下がれ」
低い声。
魔族たちが固まる。
「ですが魔王様――」
「下がれ」
空気が震えた。
圧倒的な魔力。
誰も逆らえない。
今度はアレンが前へ出る。
「剣を収めてください」
騎士たちが驚く。
「勇者様!?」
「これは命令です」
真っ直ぐな目だった。
その目に、
誰も逆らえない。
やがて。
カチャ。
一人の騎士が剣を下ろした。
続いてもう一人。
魔族側も武器を収め始める。
静寂。
ひまりは涙を拭いた。
レオンは頭を掻く。
「……なんか、すげぇ疲れた」
アレンも苦笑する。
「同感です」
そして。
二人は同時に、
ひまりを見た。
レオンが言う。
「……お前、変なやつだな」
アレンも頷く。
「でも」
「……はい」
「あなたが来てから、少しだけ」
アレンは小さく笑った。
「世界が変わった気がします」
ひまりはきょとんとした後。
「いや、まだ何もしてないけど?」
と言った。
その瞬間。
レオンとアレンは吹き出した。
そして、
ひまりもつられて笑う。
夜の路地裏。
戦争寸前だった場所で。
初めて三人は、
ちゃんと笑い合った。




