# 第二話 ## 「焼き鳥と、世界平和は相性が悪い」
# 第二話
## 「焼き鳥と、世界平和は相性が悪い」
夜の城下町。
屋台通りには、
香ばしい匂いと笑い声が溢れていた。
「はい、焼き鳥二本お待ち!」
店主の声。
レオンは串を受け取り、
隣に座るアレンへ一本渡した。
「ほら」
「あ、ありがとうございます」
二人は並んで座る。
知らない者同士として。
まさか、
世界最強の魔王と勇者だとは、
誰も思わない。
「……美味しい」
アレンがぽつりと言った。
その顔が少しだけ緩む。
レオンは笑った。
「だろ? この店、塩加減が神なんだよ」
「あなた、常連なんですか?」
「まあ、たまに」
実際はめちゃくちゃ来てる。
魔王城の料理長より、
ここの屋台のほうが好きだった。
「……あなた、仕事帰りですか?」
アレンが聞く。
「そんな感じ」
「大変そうですね」
「そっちも」
アレンは苦笑した。
「……まあ」
そこで会話が途切れる。
だが不思議と、
気まずくなかった。
屋台の灯り。
夜風。
遠くの笑い声。
その空気が、
二人の肩の力を抜いていた。
レオンが串をくるくる回しながら言う。
「辞めたいって思ったこと、ある?」
アレンの手が止まる。
「……え?」
「仕事」
あまりにも自然に聞かれた。
だから。
アレンも、
つい本音が漏れた。
「毎日」
レオンは吹き出した。
「即答じゃん」
「あなたは?」
「俺も毎日」
二人で笑う。
初対面とは思えないくらい、
話しやすかった。
アレンは少し考えてから言う。
「……本当は、普通に生きたかったんです」
「普通?」
「はい。小さい店とか開いて」
「いいなそれ」
「パン屋とか」
「最高じゃん」
「朝早いですよ?」
「無理だわ」
笑い声。
アレンは気づく。
こんな風に、
何も考えず笑ったの、
いつ以来だろう。
「あなたは?」
「ん?」
「本当は何したかったんですか?」
レオンは少し空を見た。
「……小さい喫茶店」
「え?」
「静かな店。猫がいて。昼寝できる感じの」
アレンは思わず笑った。
「似合わないですね」
「うるせぇ」
でも、
少しだけ嬉しかった。
誰かに笑われても、
否定されても。
“本当の自分”を話せたことが。
その時だった。
「――勇者様ぁぁぁ!!」
アレン、凍る。
遠くから、
鎧姿の騎士たちが走ってきていた。
「探しました!!」
「会議の時間です!!」
「全国放送の演説もあります!!」
アレンの顔から血の気が消える。
レオンは察した。
(こいつ、社畜だ)
「じゃ、じゃあ俺はこれで!」
アレンは立ち上がる。
だが騎士の一人が言った。
「……そちらの方は?」
空気が止まる。
レオンのフードの奥。
わずかに見えた赤い瞳。
騎士が目を細めた。
「……お前」
アレンも気づく。
レオンの瞳。
その色を、
彼は知っていた。
魔族特有の、
深紅の瞳。
そしてレオンも見た。
アレンの腰に隠された剣。
勇者だけが持つ、
聖剣の紋章。
沈黙。
世界が止まったみたいだった。
「…………」
「…………」
騎士たちが剣を抜く。
「ま、魔族だ!!」
ざわめき。
空気が一瞬で変わる。
アレンは反射的に、
レオンの前へ立っていた。
「待ってください!」
「勇者様!?」
「この人は――」
言葉が詰まる。
敵。
そう言えば終わる。
でも。
焼き鳥を食べながら、
夢を語った相手だった。
レオンも静かに立ち上がる。
「……悪い」
低い声。
その瞬間だけ、
空気が震えた。
圧倒的な魔力。
騎士たちの顔が青ざめる。
「ま、まさか……」
誰かが震える声で言った。
「魔王……?」
静寂。
アレンは目を見開く。
レオンは苦笑した。
「……バレたか」
その時。
空が光った。
眩しい光。
全員が空を見上げる。
そして――
「ぎゃあああああああああ!!」
空から、
女子高生が落ちてきた。




