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薔薇は満月に咲かない   作者: Rii
第19章:閉じてしまった円
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第70話 閉じてしまった円


盤が、強く光った。


三点が完全に接続する。円環が閉じ、歪みが消える。負荷が消える。あまりにも完璧な均衡が、静寂とともに降りてきた。


セラフィオンの視界が、一瞬だけ白く染まる。


「……成立」


静かすぎる成功だった。


声が落ちる。成功だ。理論は、正しかった。──なのに。


胸の奥が、焼ける。痛みではない。もっと深い場所で、何かが歪む。


「……っ」


膝が、わずかに揺れる。遅れてくる代償だった。


「……フィオ?」


ローゼリアの声が遠い。はっきりと分かる。今までと違う。


──近すぎる。身体が熱い。


「リア……」


呼ぶつもりはなかった。言葉が、わずかに遅れる。


ローゼリアへ。気づいたときには、一歩踏み出しかけていた。


……止める。


理性で、押し戻す。


まだ、壊れていない。──そう思い込む。


「これは……必要な処置でした」


繰り返す。その言葉は、もう支えにならない。自分で踏み越えたことを、知っている。これは処置だ。必要な接触だ。──そう定義しなければ、壊れる。


もう、とっくに壊れているのに。それでも、壊れていないふりを続ける。


ローゼリアの指が、そっとセラフィオンの唇に触れる。


「……温度、違う」


静かな声。拒絶ではない。理解でもない。ただ、気づいている。


──残酷なほどに。



◇◇◇



その瞬間。遠く、ルカリウスの瞳の奥で赤が弾けた。


距離を越えて血が騒ぐ。──奪われた、という感覚。


「……セラフィオン、あいつ」


低く、名を呼ぶ。その声は、誰にも届かない。それでも確実に、何かが始まった。



◇◇◇



カチ。エリオの懐中時計が鳴る。今度は、ズレない。ぴたりと、正確に。


「……あーあ」


楽しそうに笑う。でも、どこか呆れたように。


「閉じちゃった」


円環が完全に成立した。均衡は完璧だ。だからこそ、壊れる。


「次は、選ばされるね」


誰が。どちらを。あるいは──何を壊すか。


秒針は、もう戻らない。


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