表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/75

第68話 秒針は待たない


研究塔は、静かだった。


だがその静けさは、以前とは違う。セラフィオンは盤の前に立っていた。指先が、わずかに震えている。


見ているのは数式だ。波形だ。構造だ。だが──それだけではない。


「……近すぎる」


三点構造。ローゼリア。ルカリウス。そしてセラフィオン。


距離が、縮まっている。数値では説明できないレベルで。共鳴が強すぎる。


まるで──自分が中心に引き込まれているような。


「違う」


小さく吐く。理論上ありえない。自分は触媒だ。調整役だ。均す側だ。


中心になることはない。それでも。胸の奥が、焼けるように熱い。


指先に力が入る。


視界が、ほんの一瞬だけ揺れた。


「……っ」


息を止める。机に手をつく。崩れない。まだ。


盤が脈打つ。いつもより強く。反応している。──ローゼリアに。


そして。ルカリウスに。同時に。


「……やめろ」


誰に言っているのか分からない。止まらない。共鳴が深くなる。自分を通って。流れていく。


そのとき。盤とは別の感覚が走った。


直接。血が、反応する。距離を越えて。ローゼリアの鼓動。ルカリウスの熱。それが、はっきりと“分かる”。


ジュニパーの青さの奥に、知らない熱が滲む。


「……っ、は……」


息が乱れる。観測ではない。これはもう。体感だ。


──混ざり始めている。


観測者ではいられない。それを、身体が先に理解していた。



◇◇◇



庭園は、昼の光に満ちていた。白薔薇のアーチの下。


エリオはベンチに座り、懐中時計を弄んでいた。


カチ。

カチ。


音は正確だ。いつも通りに。それなのに。


「……ズレてる」


ぽつりと呟く。時間は進んでいる。けれど。何かが、先に行っている。


秒針が一拍遅れた。また戻る。またズレる。繰り返す。


「うわぁ……」


笑う。楽しそうに。でも目は冷たい。


「これ、待たないやつだ」


満月はまだ来ない。本来なら、まだ時間はある。準備も。選択も。全部、間に合うはずだった。


なのに。もう間に合わない。そんな感覚がある。


「最初に壊れるの、誰かな」


軽い声。けれど、その問いは正確だった。


ルカリウスか。セラフィオンか。それとも。ローゼリアか。


「……研究者さん、かな」


カチ。


秒針が、強く鳴った。その音だけが、やけに大きく響いた。


満月は、まだ来ない。けれど。もう、始まっている。


誰も止めないまま。


誰も止められないまま。


均衡は、静かに限界へ近づいていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ