表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/74

第59話 揺れる視線、独占の温度


王族の船は、ゆっくりと水路を進んでいた。白い船体に施された金の装飾が、淡い光を受けてやわらかく輝く。花びらが水面を流れながら赤い帯を作り、王都の橋の上には花見を楽しむ貴族たちの姿も見えていた。


その視線が、次第にこちらへ集まり始める。


「……見られているな」


低い声。ローゼリアは水面を眺めたまま笑う。


「王族の船だもの」


「違う」


ルカリウスは短く言う。


「お前を見ている」


ローゼリアは少しだけ肩をすくめた。確かに、橋の上の若い貴族たちがこちらを見て何か話している。好奇心。羨望。そして少しの無遠慮。その視線が、ルカリウスの神経をわずかに逆撫でした。


「王女が乗っているのだもの。見るのは当たり前よ」


「……気に入らない」


即答だった。ローゼリアは驚いて振り向く。ルカリウスの瞳は静かなまま、少しだけ鋭い。


「理由は関係ない」


短く言い切る。


「お前を誰にも見せたくない」


その言葉に、ローゼリアの胸が少しだけ鳴った。


風が吹く。花びらが舞い、二人の足元へ落ちる。ローゼリアはふっと笑った。


「ルカ。嫉妬してる?」


ルカリウスは一瞬黙る。それから、わずかに息を吐いた。


「……そうだな」


あまりにもあっさり認めたので、ローゼリアの方が驚いた。


「否定しないの?」


「する理由がないだろ」


少しだけ近づく。距離が消える。船の上には、今この二人しかいないみたいだった。


「お前は、自分がどれだけ目立つか分かっていない」


「王女だもの」


「そういう意味じゃない」


指が、ローゼリアの頬に触れる。温かい。


「……綺麗だな」


小さな声。護衛騎士ではなく、ただの男の声だった。


ローゼリアの心臓が一拍遅れる。風に髪が揺れる。


「急にどうしたの」


無言のまま、ルカリウスはローゼリアの顎を軽く持ち上げる。


「ルカ?」


問いかける前に、唇が触れた。静かなキス。奪うようなものではない。──確かめるような。


水面が揺れる。花びらがゆっくりと流れていく。橋の上のざわめきが、遠くで小さく聞こえた。


ルカリウスは少しだけ離れる。けれど手は離さない。


「……これでいい」


「何が?」


「見せてやった」


低く、ほとんど聞こえない声で。


──触れていいのは、自分だけだと。


橋の上へちらりと視線を向ける。


「お前が誰のものか」


その言葉が、少しだけ重すぎることに、まだ気づいていない。


ローゼリアは思わず笑ってしまった。


「王女に言う台詞じゃないわ」


「今は、恋人だろ」


静かに言う。


その瞬間、左目の奥でほんのわずかに赤が灯った。一瞬だけ。すぐに消える。満月は、まだ遠い。それでも血は、静かに騒ぎ始めていた。



◇◇◇



舟はゆっくりと水路を進む。その先の橋の上で、ひとりの青年が足を止めていた。


金色の瞳。その隣には、絵筆を持った若い画家。


エリオだった。


「……へえ」


小さく呟く。


「楽しそうじゃん」


カチ、と秒針が鳴った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ