表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/65

第52話 代償の再配分


研究塔の最奥、記録室。窓はない。月も入らない。燭台の炎だけが、乾いた空気の中で揺れていた。


ここは観測をする場所ではない。選択をする場所だ。


セラフィオンはひとり、古い文献を広げていた。王族性分散理論。禁忌干渉の残滓。混血触媒仮説。紙は乾いている。インクは古い。なのに、読むほど体温が奪われていく。


机の上には三つの波形。ローゼリアの基底値は微減、安定。ルカリウスの共鳴値は増幅、残滓固定。そして満月暴走時の円環波形。一瞬だけ現れた、完全安定の記録。


「……やはり」


王族性は崩壊していない。移動している。破壊ではなく、再配置だ。


「肩代わり……」


混血は王族になれない。けれど王族性に拒絶されない。保持はできない。だが、一時的に受け止めることはできる。


──触媒。


ルカリウスは、ただの器ではない。重さを別の場所へ流す“継ぎ目”だ。継ぎ目はいずれ摩耗する。王族性は重い。禁忌の代償は軽くない。受け止め続ければ、肉体か、精神か、血統か──どれかが先に壊れる。


セラフィオンは、ゆっくりと目を閉じた。


第三の媒介を入れればいい。


王族。血族。観測者。──その位置に、立つ。


理論上は可能だ。ローゼリアからルカリウスへ流れている直線構造を、三点へ組み替える。


ローゼリア→ルカリウス→セラフィオン。


王族性の負荷を分散し、代償もまた分ける。


成功率は低い。失敗すれば、血が焼ける。それでも。


「……合理的だ」


低く吐く。王族性の安定維持。王家の保全。均衡の維持。そう言い聞かせる。

──言い聞かせる必要がある時点で、もう遅いのに。


指先が、わずかに震えていた。


もし成功すれば。ローゼリアの減少は止まる。ルカリウスの暴走も抑制できる。そしてその血に、ローゼリアの王族性が混じる。


その可能性に、胸が一瞬だけ熱を帯びた。


「……愚かだ」


吐き捨てる。これは救済だ。奪取ではない。──そう定義しなければ、手が震える。


本当に?


ルカリウスが抱くローゼリアを、血で繋ぐこと。それは救いか。それとも──奪う形になるのか。


机上の盤が、微かに光る。三点構造式を描く。中心にローゼリア。左にルカリウス。右にセラフィオン。


線を引く。


その瞬間、盤がわずかに強く脈打った。拒絶ではない。応答だ。


セラフィオンの呼吸が止まる。


「……成立可能」


理論上は可能。代償は未知数。だが、やる価値はある。


問題は、彼らの同意ではない。観測式の中に組み込めばいい。二人は気づかない。負荷が軽くなるだけだ。


気づかれないまま、守れる。


その発想が浮かんだ瞬間、境界線が紙一枚ぶんだけ薄くなった。


理性はまだ崩れていない。けれど境界は、もう曖昧だ。


彼女が死ぬよりは、ましだ。


それが最初の一歩だった。 削る覚悟。そして──奪う覚悟。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ