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愛され気質な逸般人の異世界奮闘記  作者: Mat0Yashi_81
間章:ひとつの時代の終わり
158/180

幕間:手を引くような

 例外であるからこそ、彼は己を認めない。

 それが虚無を見上げる行為であったとしても。




 



 偽りの空にも、夜はある。

 実質的に初めてに近い野宿は、本物の空の下ではなかった。


「ほら、食べな」

「はい。ありがとうございます」


 野宿のための装備はひととおり揃えてあるため、あとはどこからか転生者は美味い飯を食うのが好きだと聞きつけたアリーナから貰った、連邦で試作中のレーションを食べるだけ。

 少し前にひとつ食べて、いいなと思ったのでサキにも食べさせてみようと考えたのだ。

 どうも連邦軍事局からの要請という名目らしく、食べたらレビューをくれとの頼みだった。

 英雄という立場と、俺と懇意にしているという事実を利用して、アリーナのやつはさらに連邦の中での立場を確実なものにしていく。

 畏怖の対象すら利用しようという気概、恐らくは彼女のアイデアではないのだろうが、それでもすごいと思う。


「・・・・・」


 実際、サキの反応も悪くはない。

 転生者からの情報を参考にしたのか、パッケージからして現代の基準と遜色なく、しっかりと魔法技術が用いられた最先端の戦闘糧食といった趣で実用性も高い。

 メニューはなんだか北国っぽいというか、寒い気候であるためにやたらと油っぽいが、そこは現代でも同じだから問題はないだろう。

 ちらちらと俺の方を見てくるサキも、食べ始めてからすぐに半分くらいを食べ終えている。

 味も良い、子供の舌にも合う。

 少なくとも、目立つ欠点は見つからない。


「えっと、グレイア様は食べないんですか?」

「うん?」


 ふと、サキが不思議そうな表情で質問を投げかけてきた。

 どうやら、自分の分を準備するだけで開封せず、食べる姿をじっと眺めている俺の姿に違和感を覚えたらしい。


「いや、俺はまだいい。気を使ってくれてありがとうな」


 サキには悪いが、もう少しだけ食べる姿を見ていたい気分なのだ。

 あれだけ気を病み、隠れて復讐をしようとしていた少女が、俺のせいでちょっと躊躇ってはいるものの、しかしキッチリ食事をとり、量を食べている。

 だいぶ感慨深いというか、俺もチョロいものだと思う。


「なんでじっと見てるかって?」

「・・・はい。グレイア様らしくない、というか」


 しかもやっぱり、俺がじっと見つめてることそのものに疑問というか、困惑を覚えていたようだ。

 二人きりとはいえ、他人のことを気にすることができるようになったのなら、これもまた成長だと言えるかも。

 だがしかし、残念なことに俺は彼女の疑問に対する適切な言い訳を手元に控えていない。

 正直に「可愛いから見てた」とは言えないし。

 それっぽくはぐらかすか。


「・・・・・よく食べる子供を見ると、こっちまで満腹になるんだ」

「そんなおじいちゃんみたいな」

「いいの。そういうことにしておいてくれよ」


 まあ、たぶん俺の年齢は知ってるだろうし。

 その辺は冗談として受け止めてくれるだろう。


「ティア様に・・・」

「ん?」


 ここで唐突なティアの登場。

 俺が不在の時はゴリゴリにしごかれていたみたいだし、その辺で何か言われたのか。

 にしたって話の切り出し方が変だけど・・・


「ティア様に、妹みたいに思ってるって・・・言われて」


 ひとつ、心臓が焦って跳ねた。

 既に支払っていたはずの記憶が、前世の人格、亡霊が。

 俺の背後から、ぬるりと背中を這い上がってくるのを感じる。


「・・・・・そう」


 でもやっぱり、ティアは俺よりも心が大人だなと思う。

 ティアのやつはもう、乗り越えてしまったんだ。

 喪失を乗り越え、人の姉として自身を定義できるようになった。


「だから・・・グレイア様にもって、思ったんですけど。

 ちょっと違う雰囲気がして、私にはわかりません」


 対して俺は、情けないままだ。

 自覚しているというのに、認めたくはないと頭が拒む。

 こんなことを言えば、ティアはきっと俺を叱る。

 整理する機会がなかったからとか、そんなものは気休めなのに。

 俺は置いて行った側だ。


「・・・・・そうだな、違う。

 あいつが抱いてる感情と、俺が抱いている感情は」


 ティアは喪失を、空白を捉え、埋めることができたのだろう。

 対する俺は、捨てると誓ったものを抱え続け、ようやく自覚したかと思えば脳裏に張り付いて離れない。

 亡霊は俺の袖を引き、残してきた弟の影を直視させる。


「・・・似て非なるものだ。結果は同じでも、過程が違う」


 もう戻れない、聞けない、見れない人間の姿を。

 俺が死んで悲しんでいるかもしれないあいつに、してやりたかったことが、まだ、数え切れないくらいあったというのに。

 俺がいない世界で、あいつは大人になっていくから。


「でも、可愛いと思ってるのは確かだ。

 俺に妹がいたのなら、きっと、こうやって甘やかした・・・」


 ああ、これを口にしたのは久しぶりだ。

 性格から何度そう評価され、自覚し、反芻したか。

 ただでさえ甘やかし、良好だった仲を。

 俺は、この子に重ねているのか?

 だとすれば、俺は酷い人間だ。

 ひどく弱く、情けない。


「・・・・・そう、なんですか」


 サキは良い子だ。

 俺がどうしても隠せない感情を読み取りながらも、踏み込むべきではないと留まり、飲み込むことができた。

 本当に、偉いと思う。

 その頃の俺であれば、きっと不可能なことだったろうに。


「偉いな。お前は」

「・・・えっ?」


 俺が言うには烏滸がましいと、理解はしている。

 身の丈に合わない望みだと、過ぎた幸せだと分かってはいても。


「グレイア様・・・?

 その、恥ずかしいです・・・・・」


 手離したくないのだと、俺の心臓は強く叫ぶ。

 強く重ねた残像と、久しく感じていなかった、他人の頭を撫でる感触。

 取り繕うことが、精一杯。


「・・・・・仕方ないだろ。可愛いんだから」


 願わくば、そのまま真っ直ぐに成長してくれることを。

 あるいは俺の行動が、この子の成長を曲げてしまわないように。




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