第二章第四十九話「検査・発見・対策立案!」
明らかに難易度の高い討伐目標。
それによって得られるものは恐らくあんまり無し。
だが、そうした状況を理解しつつも、先程感じた不思議な力のせいもあるのか、紅葉は特に諦める気にはならず、むしろ、それが難しい事である事はわかりつつも、なんとなく何とか出来そうな気概に駆られて思考を纏める。
(実際は出現した直後に2秒以内で殺すっていう手もあるんだろうけど、あの分裂能力の詳細がまだ判明してないし、さっきの三回目の戦闘だと軍は予め準備してたのに逃した、って事を考えると、やっぱり捕獲、後、討伐、が、一番良いよね)
そうした状況は周りも同じらしく、無意識の内にその瞳に仄昏い赤い光を宿らせつつ、まずは全員で瑠璃の言った認識範囲外からの結界展開の為、『観測知性』の認識限界を探ろうとするが……、
その答えはすぐにライベリーの方から齎される。
「うーん、認識範囲そのものはそんなに広くなさそうですねぇ? ほら、この2回目の戦闘の時ぃ、紫陽花さん……、えーっと、私の店のウェイトレスが10km先から私のガンブレードで狙撃してたんですけどぉ、これ、背後1mぐらいの至近距離まで来て気付いたは良いものの、避けられずに当たってますよねぇ? これの認識能力ってぇ、もしかして、普通に五感しかないんじゃないですかぁ?」
そう言われて、皆がその再現模型を再度よく見てみれば、確かに画面外から砲弾が飛来し、それは、耳を動かし、音で気付いて振り向いたと思われる『観測知性』の顔面に直撃して吹き飛ばしている。
また、それだけでなく、当時は死体が消えて行っていた為、よくわからなかったが、よく見ると、周りの民間戦闘技能者や警邏隊からの砲撃や銃撃で負傷、ないし死亡している『観測知性』の分身も数多くおり、その推定『未来予知』の能力は、まるで完璧ではない事にも気付かされる。
それを鴉亜とアレックスが模型の計測器で再確認、再検証を行ってみるが、結果はやはり、ライベリーの予測と同じものである。
「ほんとだ……。聴覚で多少反応してる様な気はするけど、目線的に死角になってる部分からの攻撃にはほとんど反応して無い……」
「むむ! これは大発見ですねっ!! 学会で発表しましょう!!!!」
「いや、なんの学会……?」
何か鴉亜とアレックスが確認しつつじゃれ合っているが、これで確認は取れた。
これにより、観測知性の認識能力は、『未来予知』を除けばほぼ五感のみであると断定され、それにさえ気を付けて置けば、恐らく10mも距離を取るなら、単純な認識能力的には気付かれないであろう事が予測出来る。
「って事は、後は瞬間移動での移動距離限界、か……。どちらかというと、こっちの方が問題だよね……」
そうして、問題は次のフェーズへと移るが、単なる認識計測より、実質的には、こちらの方が問題は難しい。
なぜなら、認識計測は先程の様な飽和攻撃が為されていれば、その行動からある程度は予測出来るものだが、移動距離の限界については、対象が全力で移動した際の始点と終点がわからなければ、測れないからである。
かと言って、その移動距離限界がわからなければ、幾ら認識範囲外で結界を張り始めたとしても、展開中の結界に気付かれ、結界の範囲外に逃げられるという事も有り得る。
尚、ここで『観測知性』の時間操作能力が気になる所だが、そこは『観測知性』との戦闘の際、紅葉自身も気付いていた事ではあるが、この、時を操る術式というものは、対象の認識時間を変化させたり、対象の時間経過による変化を操作したりするものであり、実際の実時間には変化を齎さないものだったりする。
そして、『観測知性』の操る時空術式は、瑠璃の操る次元術式とは違い、対象の認識時間しか操作出来ない為、一度発動した結界を止める事も出来なければ、自身の時間を早めてラグを短くする事も出来ない。
この為、『観測知性』が結界の展開に気付いてから、結界が完成するまでの数秒を稼ぐ事が出来れば、『観測知性』の捕獲は完了となる。
(数秒有れば良いんだから、『観測知性』の瞬間移動距離限界の五倍ぐらいの距離を結界で囲えれば、約10秒の展開時間が出来て確実に捉えられるんだけど……)
そう考えて、紅葉は瑠璃や祇祁に移動距離の算出法を尋ねてみるが、どうもこれは、この二人でも少し難しい問題らしい。
「うーん、次元の狭間を使った方の移動については、ある程度の目安は付けられるんだけどね。単体の瞬間移動については観測記録が無いからわかんないなぁ」
「ですね。って、次元の狭間を使った長距離移動についてはわかるんですか?」
「ん? うん。そっちはわかるよ~♪ 実は……」
そうして嬉々として話す祇祁曰く、創誓世界の次元の狭間を構成するエネルギーの流れは、全体的に見れば乱気流に等しいものの、ある程度部分的に見れば一定の範囲でプレートテクトニクスに似た力場範囲で各部が分かれており、次元の狭間を使った移動では、一度にそのプレートの範囲を超える移動は出来ないのだという。
「もっとも、このプレートはある程度互いに重なり合ってるから、プレートを乗り継いで長距離を移動する事は出来るんだけどね? 実際、この世界にはこの気流を利用して超長距離を回遊する種族が結構いたりするから、その辺の事は知ってる人なら割と知ってる分野に入ると思うよ~」
そうした説明を行いつつ、祇祁が模型を操作して、今までの『観測知性』の移動履歴とそのプレートの範囲を重ねてみると、それは見事に一致し、確かに、『観測知性』の今までの超長距離移動は、そのプレートの範囲に収まる事が理解出来る。
だが……、それを見た鴉亜は、何かに気付いた様に模型へと身を乗り出し、祇祁に質問する。
「? 祇祁先生、これって何かおかしくないですか? これまでの襲撃は全部このプレート内で最低一つは行われているのに、緋煉には禊祓以外の襲撃が無い……」
「? あ、ほんとだ。なんでだろ?」
そうして鴉亜が指摘した点については、祇祁も疑問を持って眉を顰める。
というのも、緋練はその巨大さから、幾つものプレートを経由しなければ禊祓にまで到達する事は出来ず、緋煉の大都市は緋練大陸の何処にでも分布している為、必ず移動中に『観測知性』の襲撃対象である、SSランク程度の相手には遭遇する筈なので、一足飛びにいきなり禊祓に現れるという事は、それそのものが、今までの行動原理からは矛盾しているのである。
「むむむ! そうなるとっ! 一つ前に襲撃された都市から既に怪しい感じですね!?!? そこから行動原理が変わってますからっ!! どうだ!!!!」
そうして、それを聞いたアレックスは、その行動の矛盾から当たりを付け、禊祓よりも一つ前に襲撃された街を模型に作り出すが……、
そこには、特に何の変哲もない、陸土沿岸の大都市が浮かび上がる。
「??? 特に変わった点は無さそうですが……」
そうして、アレックスは首を捻るが、その隣でライベリーが何かに気付く。
「! あれ、これって何時のデータですかぁ? 今日は11日で、これが14日って事は、だいぶ前な様な……」
そうして、そのおかしな点に気付いたライベリーがデータを見ると……、
その襲撃日時は、12月14日。
パネルのカレンダーを見れば、現在は4月11日である為……、
それは現在よりも、4ヶ月近く前の出来事である。
「4ヶ月前……?」
その結果に、瑠璃が疑問の声を上げる。
「え? 『観測知性』って本来はそんなに襲撃間隔開けるタイプの賞金首なんですか? この都市だと昨日と今日だけで既に三回襲撃起こってる筈なので、長距離移動するだけでかなり頻繁に襲撃するタイプのイメージだったんですが……」
「その認識で合ってる筈……、今までの記録データを見ても『観測知性』が現れたのは、5年前の碧海南西、血肉種の森付近の群小国の都市での事……。そこからは国を大きく渡りながらだけど、ほぼ毎日、日に数回、ある程度間隔が開いた時でも三日に一回ぐらいのペースで何処かの都市を襲撃してるから、平均すると一日1回より襲撃回数は上……」
(少なくとも、4ヶ月前のその日までは1日1回以上のペースで襲撃してたって事か……)
そうして、一同は、再度、画面に映るよくわからない図形で記された地図を見て顔を顰めるが……、その地図とは別に、可変情景模型を弄っていたアレックスの隣でその模型を眺めていた瑠璃が何かに気付き、アレックスに話しかける。
「ん? アレックスさん、模型の縮尺もうちょっと小さく出来ますか? どうも。……その最後の襲撃地点の隣に出てる青色の帯ってなんです?」
「? 海ですね! 沿岸都市なので!!」
「「「「「!!!!」」」」」
この瞬間、察しの悪いアレックス以外のメンバー全ての中で、疑問が解けた。




