第二章第四十八話「技術捜査と地学室」
長さ約5m、幅約2m、高さ約1m。
およそ10m×10m四方の小さな教室の中で、何やら意味深に中央を陣取るそれは紅葉や瑠璃は見た事の無いものだったが、これもやはり使い方を知るらしき鴉亜とアレックスは、率先してその砂の入った水槽の様な構造物の脇にあるコンソールを触り、入ってすぐに起動させた地学室用のコンピューターに、先程の『観測知性』の移動ルートの情報を入力し始める。
すると、その入力情報に合わせ、何の変哲も無かった水槽の砂は、流れる様に形を取って、何処かで見た事のある様な街を作り出す。
「! これってミニチュア……?」
「! しかもこの店の形……、ライベリーさんのお店じゃないですか。もしかしてこれ、地形を再現する魔導具か何かです?」
そうして、さっきまではただの砂山だったものが、緑と高層建築溢れる禊祓の街の一角となった事で、二人は容易にその用途を理解する。
これは、その土地を、小さく再現する為の、道具である。
「そうですね! 動力は電光力だった気がするので、魔導具ではないですが、地図を立体として再現する道具です!」
「可変情景模型って言って、このカメレオンチップっていう変色する砂を操作して縮尺模型を疑似的に作り出す装置なんだけど……、知らない?」
「仮想で再現する拡張現実の奴や複合現実の奴なら知ってるけど、リアルに造形物を作り出すタイプの装置は知らないかな。へぇ……、ただの砂だったのが色も付いてるし、これ、表層だけじゃなくて、街の地下まで再現されてる……」
「私も遠くの風景を水に映し出す水面鏡の魔法とか幻影の類なら知ってますけど、これだけ精密に再現するタイプは初めて見ましたね。……と、あ、ほんとですね。器が透明だから地下も横から透けて見える……」
二人共、超科学文明と超魔法文明から来た来訪者である為、似た様なものは当然知っているが、それでも、理想世界とまで言われる、この創誓世界の、その一般にまで普及した高度な技術体系には興味が尽きない。
その技術に興味を持った紅葉は、瞳の内側にある透明な瞬膜を閉じ、その厚さを調整して、顕微鏡の様に視覚を拡大してから、そのカメレオンチップと呼ばれる砂の内部を観察してみるが……、
その内部には、中央に赤青黄の三色からなる口の繋がった風船の様な物体が三角形に並んでおり、その三角形から、更に上下、双三角錐状に、先程の三色の風船と口を合わせる形の、白と黒の風船が繋がっている。
そして、変化していない砂は、それらの五色の風船が均等に同じ大きさで、遠目にみれば茶色い砂の様な色合いをしているが……、
赤色に変化した砂は、風船の中の赤いものだけが元より膨らみ、後は萎んでおり、青色に変化した砂は、風船の中の青いものだけが元より膨らみ、後は萎んでいる。
(! なるほど、内部の色の付いた風船の大きさで目に見える色彩を変化させてるのか……。そして風船の大きさは内部物質の移動で変化させてる、と……)
だが、別にこの地学室へは技術鑑賞をしに来たわけではないので、とっとと本題に入り、模型には禊祓の都市監視システムが記録していた、この場所での戦闘映像を立体で映し出しながら『観測知性』の行動を観察する。
……とはいえ、その戦闘は既に一度見て経験していた為、特に新しい情報は何も無い様に感じる。
「うーん、分裂してからの移動はわからないけど、単体だった時の瞬間移動では、一度移動してから、次に移動するまでかなり時間の差がある感じ? ……連続移動が出来ないって事は無いと思うんだけど、連続して移動する時に2秒以上のラグがあるっぽいね。その間に結界張って閉じ込めれば捕まえられるだろうけど……」
「時空術師でしたからねぇ……。こいつの認識範囲内で結界張ろうとしたら、時間加速や時間停止の類で結界阻止されて逃げられますよこれ……。まぁ時間系の能力なんて、対象の認識時間や経過時間を変化させてるだけですから、認識範囲外から気付かれない様に捕まえればいけると思いますけど……」
「んー、私はこの兎初めて見たけど、これ、確かに戦闘力は推定SSランクあるし、結界の方もそれに対応した相当強固な結界じゃないと、そのまま実力で破られるよこれ。見た感じ、SS相当の結界は必須かなぁ……」
「SS相当の結界になると、展開と構成に数秒は時間がかかりますしぃ、構成中に逃げられない様に瞬間移動出来る範囲の外側から起動させる必要もありますねぇ。後、そうなると、あれを結界範囲内に留める為の囮とかも必要かとぉ?」
そうして、紅葉と瑠璃、そして祇祁がそれぞれ意見を出して行くが、それを纏めると、つまりはこうである。
[
・『観測知性』の瞬間移動と瞬間移動の間には、少なくとも2秒のラグがある為、その間に結界を張って中に閉じ込めれば確保が可能。
・ただし、『観測知性』が認識出来る範囲で結界を張り始めると、恐らく時間加速や時間停止によって結界の展開を阻止されて逃げられる為、結界は『観測知性』の認識範囲外で張り始めなくてはいけない。
・また、『観測知性』は単純な実力もそこそこ高い為、捕獲するには少なくとも、SSランク相当の結界を張る必要があり、それ以下の結界だと、例え張ったとしても内側から破られる可能性が高い。
・SSランク級の結界は構成に時間がかかる為、構成途中に瞬間移動で結界範囲外に逃げられない様に『観測知性』の瞬間移動距離限界より外側から結界を張る必要があり、尚且つ、展開の最中は、その範囲内から『観測知性』を移動させない為の囮が必要になる。
]
(これはー……)
その内容を理解した紅葉は、片眉を上げつつ、若干げんなりとする。
そう、それは……
簡単に言えば……、
難易度がベリーベリーハードな案件なのである。




