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地の文「なんか私が見える小娘が主役みたいですよ?」  作者: 咏柩
第二章『咎人と断罪者』
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第二章第四十六話「戦いの思想」


 瑠璃の『幸運』の権能の存在により、『観測知性』討伐の目算が立った一行は、先程の瞳の赤黒い光は何処へやら、和気藹々と地学室へ向かう。



 とはいえ、その様子に紅葉は、先程の赤黒い光から見えた攻撃性の事も相まって疑問を抱いた為、その移動の最中、祇祁とライベリーにその事を少し尋ねてみる。



「そういえば街の人達もみんな兎が敵だって認識した途端、全員攻撃しに行ってたけど、この世界ってなんかそういう義務とかあるの?」


 それは、他者の心の分からない紅葉が、紅葉なりに敵対生物へ対処する際の行動原理を考えての質問だったが、それに対し、問われた祇祁とライベリーは、互いに顔を見合わせ、頭に疑問符を浮かべながら返答する。


「? 討伐の義務は特にありませんよぉ? 敵が出現した際の義務は通報だけですねぇ。通報したら、後は警察と軍の仕事ですしぃ?」


「うん。討伐した際に防衛報酬とか謝礼金が出る場合はあるけど、義務は特にないかな? というか討伐が義務だったら避難とか出来ないし、討伐作戦に参加するかしないかは個人の自由だね♪」


 だが、そうして話す二人の答えに、実情とはかなり違う面があるのを見て取った紅葉は、そこで更に話題を深く掘り下げる。


「?? さっきの戦闘だと、街中のほとんどの人が討伐に出てた気がしたんだけど……、じゃあその防衛報酬や謝礼金っていうのが結構おっきい額だったりする感じ?」


 そうして紅葉が深く尋ねるのは、その戦闘に参加していたのが、目の前で瑠璃と話している勇者ペアの様に、明らかに若く、尚且つ、戦闘能力自体も『観測知性』と比べれば、かなり劣るであろう相手が大半だったからである。


 勿論、それらの相手も、戦闘の中で自身の実力不足を感じた場合は、即座に戦線を離脱して避難しており、戦闘開始直後に、そうした者達が即座に反応して戦線を築き上げたからこそ、その後、『観測知性』に対抗出来るだけの者が集まり始めるまでの時間が稼げ、『観測知性』を縦横無尽に暴れさせる事無く、戦いやすい広場に封じ込めれた、という点は大きいのだが……。


 普通、生物は何らかの義務を負っているのでも無い限り、自分の命を最優先するものなので、極力面倒事や争い事には関わらない様にするものなのである。


 それは、特に、あの『観測知性』の様な、普通に戦ってもまず勝てない、得体の知れない相手が敵として現れた場合は顕著であり……、そうしたものを相手にした生物は……、普通、逃げるのである。


(アレックスさんや鴉亜さんは割と強くて、推定AA~AAAランクぐらい……。この都市の一般的な人々のランクはAランクって所だから、推定でもSSぐらいはある『観測知性』相手じゃ、大半は逃げてなきゃおかしい……)


 そうした疑問の下、或いは金がそうした命の危険を上回っているのではないかと考えたが、それについては否定される。



「うんにゃ? 防衛報酬や謝礼金は都市が出してるものだし、突発クエストみたいな感じで金額自体は普通の依頼のものとそこまで変わんないよ?」


 少なくとも、防衛報酬や謝礼金がそれを覆すものではないらしい。



 それを聞いた紅葉は、その得体の知れなさに悩み、悩んだ後に、悩んだ所で仕方が無いと結論付けて、その答えを率直に二人に聞く。


「……うーん、じゃあ、なんで皆、こんなに協力的なの? 普通、義務でも無くて、報酬もそこまででもないんなら、戦う意味、無くない? それこそ全部軍や警察に丸投げして自分は避難しとけばいいんだし」


 そうして問う紅葉の問いは至極真っ当なものであり、普通であれば、民間はまず避難し、そうした敵の対処は軍や警察に任せれば良いだけなのである。


(だから、わざわざ自分が危険を冒す必要は無////い、んだけど、『観測知性』は邪魔だから、倒しときたいし……、協力してくれるなら理由を、……………………って、あれ?)


 だが、そうした、ある種の核心に触れる質問を紅葉が行った所で、元々の情動が薄い紅葉は、自身も含め、この場にいる全員に対し、その本来の感情だけではない、何らかの誘導的な力が働いている事を感じ取る。


[何らかの誘導的な力が働いている事を感じ取る。]


(? そういえば、なんかこの話題になってから、やけに高揚感が溢れるというか……、身体がビリビリする気がするな…………。何か、そうしなければならない、というか……、そうしたい、というか……)


 滑らかに、弾む様に進む、『観測知性』討伐の件に加え、全ての者がまるで一人の者の様に行動する、その仕草。


 思想も種族も感性も違うのに、どうしてもこれに関しては全ての者が同じ方向を向き、話す。


 その感覚は、決して嫌でも不快でもない、むしろ極めて好ましい多幸感を齎しながら、全ての者の感覚と考えを、同じものへと至らせる。


(みんな、同じ……?)


 それに気付いたのは紅葉だけであり、紅葉以外は気付いてもいない、心の動き。


 それは、紅葉にとっては、初めての。


 昨日戦った、シロや水路生物、また瑠璃に対しては、一切抱かなかった、


 燃える様な、薄ら昏い、感情。



 邪悪に対する、明確な敵愾心。


 また……、


『咎人を処断せよ』という、明確な殺意である。



(!?!?)



 それを、紅葉が感じた所で、その力の出所は判明せず……、


 紅葉の放った質問の答え自体は、機械生物でありながらも感情の機敏はある程度わかるらしき、ライベリーの方から齎される。



「……街の人が一気に戦闘態勢に移ったのが疑問なんでしたらぁ、それは義務とかじゃなくて、この世界特有の思想のせいだと思いますよぉ?」


「特有の思想?」


「えぇ、特有の思想。


『逃げて無意味に生き延びるより、戦って死ぬ事を徳とする』


『ただ薄汚く生きるより、華々しく死ね』


『無価値な生より、意味ある死を』


 ……この世界、生きる事より死ぬ事の方が価値あったりするんですよねぇ。勿論、特定の場合において、ですけどぉ?」



 そうして語られた思想は、今までこの世界で聞いて来た、平和的な思想とは一線を画す、過激な生死感。


 とはいえ、それは何も極端に歪で受け入れがたいものではなく、ある意味戦士であるならば、誰しも自然に辿り着いてしまう思想の流れを汲んでいて……。


 それを説明するかの様に、ライベリーは言葉を連ねる。


「まぁ、事件の際に、被害者として扱われるのか、その場で敵と戦った英雄として扱われるのか、どちらが良いかって事ですねぇ。別に被害者の立場が悪いってわけじゃありませんけどぉ? それよりも英雄の側になりたいのは当然ですしぃ?」


 その考えには、何処か生物としての根本的な原理が抜けている気がするが、そこは話を理解した祇祁が、その考えの根源となっている、決定的な事実を補足する。



「ま、それに、例え死んだとしても善良な市民なら、その内ヤィヴュミが丁度良い時に生き返らせるって法則があるしね♪ むしろ死んで蘇った後の方が良い状態になる確率高いから、命が惜しいなんて子はあんまりいないんだよね♪」



「……………………え?」



 ………………この世界では、善良な市民は蘇るらしい。


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