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地の文「なんか私が見える小娘が主役みたいですよ?」  作者: 咏柩
第二章『咎人と断罪者』
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第二章第三十八話「高所得低価格世界の謎!」


 ライベリーの収入に対して何か失礼な事を口走る紅葉に対し、空気を呼んだ瑠璃は即座に真顔でツッコミを入れるが、紅葉としては腑に落ちない方が優先らしく、軽く両手を上げて落ちつけの意を示しつつも、その理由を告げる。



「え、だって……、まずライベリーさんの店って収容人数自体がカウンター十席、テーブル四人掛け十席の最大五十席だし。さっきは満員になってたけど私達が食べてる間はずっとその半分以下の人数だったから平常は20人ぐらいだとすると、開店時間が確か7時で閉店時間が14時だったから営業時間は1日7時間で20人が1時間毎に入れ替わるとしても1日の来客数は140人ぐらい。もし全員が1万ヴィストずつ食べてたとしても日収100万の1年は420日だから年収は5億8800万でかなりギリギリじゃない? この世界の収入の計算がどういうものかはわからないけど、そこから休みの日とか引いて行ったら普通に5億届かなくなると思うんだけど……」



 そうした、もろ理系な感じの紅葉の計算式に、当のライベリーは「むむぅ~」と不服気味に腕を組みながらも、その計算式が確かに正しい事を認める。


「まぁ確かにそうですねぇ。この世界の収益換算は本人の手取りになりますから、

そこから店の維持費や店員の給料とか引いて行ったら、私自身の収入はこの店だけだと5億には到底届きませんねぇ。それ以前に私のお店って週1でしか開けてませんので年間60日しか開店してませんしぃ? 一日の収益自体は羽振りの良いお客様や大食いのお客様が毎日1人2人ぐらいは来ますので200万ぐらいはありますけどぉ」



 そうやって口を尖らせつつ話すライベリー曰く、ライベリーの珈琲店は週1開店の功労稼ぎ用の店らしく、来客数は1日100人弱の収益は1日約200万。


 年収としては約1億2000万程度の中流店舗であり、それを午前と午後の二交代制のライベリーを入れて計十人で運営しているらしい。


 その為、給与が一人当たり年間約1000万の合計約1億。維持費としては材料費が十分の一の年間約1200万、水道光熱費は年間約100万、その他雑費も年間約100万の合計約1400万で、店の純利益は収益の5%の約600万だけになり、その純利益は企業貯蓄として貯蓄される為、この店でのライベリーの給料は他の店員達と同じ、年収約1000万程度なのだそうだ。


 週1勤務で年収1000万と聞けば相当な気もするが、ライベリーが稼ぐべき年収5億には到底届かない。



「ま、店の売り上げを見破られたのはなんか癪ですけどぉ。私も本業は航空機造るのが仕事ですしぃ、そっちとこっちで収入に差があるのは当然ですかねぇ?」


「航空機?」


「あぁ、そういえば、さっきの事情聴取で普段は姫城機械工業で機械弄ってるとかなんとか言ってたっけ」


「よく聞いてますねぇ……。えぇ、私の本業はその姫城のエンジニア兼製造作業員ですよぉ。戦闘機とかも取り扱ってるので収入のほとんどはそっちのですねぇ」


「! 戦闘機、なるほど……」


「しかも設計と製造両方やってるんですか……、それは5億も納得ですね」


 尚、この世界の戦闘機は常世界のものよりかなり格安であり、量産機であれば、軽戦闘機で10億、重戦闘機で100億ぐらいのものだが、ライベリーはそれを単体、または数人程度の人数で、軽戦闘機なら10日程度、重戦闘機なら100日程度で製作出来る為、材料費などのその他諸々を引いても、その十分の一から百分の一程度は収入として得る事が出来るらしい。


 そして、それは旅客機なども同様であり、小型旅客機は1機1億程度、中型は10億程度、大型で100億程度なのだが、ライベリーはそれを戦闘機と同程度の効率で、小型であれば1日、中型なら10日、大型なら100日程度の間で製造出来る為、それによりライベリーの基本収入は日収100万~1000万程度となり、大抵は年間100日も働けば<プラチナ>の最低収益である5億程度は楽にクリア出来るのだそうだ。


(あぁ、だから功労180日の内、100日弱働いて最低収入が足りた後、足りない日数の60日ぐらいを珈琲店で稼いでるのか……)


 そうして紅葉はそれに納得するが、今度は瑠璃がその経営に疑問を持つ。


「ふーむ、完全な功労稼ぎ用の店舗って事ですか……。ん? でもそれだとなんで珈琲店の方で店員さん達に給料1000万も払ってるんですか? 功労稼ぎ用なら完全な名称だけのダミー店舗で良いのでは?」


 それは瑠璃の魔界で培われた明らかな搾取型の経営戦略だが、金銭のみを目的としている場合はそれが正しい。


 だが、それに対しては、また新たな制度が浮上する。



「それは私のお店が中流企業だからですねぇ。この世界、階級によって会社作るのにも制限あるんですけど、上流階級だと中流以下の企業運営出来ないんですよぉ。そして、中流企業は中流階級の功労日数分の労働で中流階級の最低年間収益を保証しないといけないのでぇ。中流企業同士での雇用競争になると結果的にこんな感じになっちゃうんですよねぇ~……」


 ライベリーによると先程の階級制度による制限はそんなところにも及ぶらしく、その階級ごとの企業運営制限は以下の様なものらしい。


[

『下流企業』

週1日労働で年収100万を保証する責務と従業員最低1名を雇う責務がある。

※これが保証出来ない場合は企業失格である為、取り潰し対象になる。

中流階級層はこれ以下の階級の店舗を運営できない。


『中流企業』

週2労働で年収1000万保証する責務と従業員最低10名を雇う責務がある。

上流階級層はこれ以下の階級の店舗を運営できない。


『上流企業』

週3労働で年収1億保証する責務と従業員最低100名を雇う責務がある。

支配階級層はこれ以下の階級の店舗を運営できない。


また、例外として従業員を雇い入れず、個人として店舗を運営する場合、その店舗での労働は功労日数に換算されない代わり、上記の企業としては認識されない為、企業としての責務を保証する必要も無い。そうした店舗は、建前上企業として扱い『零細企業』と呼ぶ。※中流階級層はこの『零細企業』の運営が出来ない。


※運営者が複数存在する場合、その中で最も階級の高い者の中から一名を選出して代表最高責任者に登録し、その代表最高責任者を基準としなければならない。


尚、企業の運営者側がその企業で従業員としても働いている場合、その数は従業員として換算する事が出来る。

]


(運営出来る企業の責務が一つ下の階級の功労を保証する形になってるのか……)


「勿論? 私とかだと、功労稼ぎとして企業立ち上げた後は1億払って従業員10人雇って遊ばせとくとかでも良いんですけどぉ。せっかく企業立ち上げたのに収支にしかならないとかありえませんしぃ? それならある程度しっかり運営して収入にした方が良いと思いませんかぁ?」


 これを聞くと、ライベリーが功労稼ぎ用の店をかなり真面目に運営している理由も良くわかる。


 階級を維持する為には功労が必要だが、他者の雇われでは楽は出来ない。


 もし、楽して功労を稼ぎたければ、自分で居心地の良い企業を立ち上げ、そこで働いて功労を稼ぐしかないのだ。


 当然ながら、自分が楽にする事でその皺寄せが従業員に行くようなら、従業員は集まらず、雇用義務数も満たせなくなる為、従業員の福祉は充実させねばならず、運営出来る企業の階級制限の為、最低限の運営でも企業の質が要求される上、企業を円滑に回す為の質の良い従業員は、当然同階級の企業との取り合いになるので、下手に賃金を最低収益に留める訳にもいかない。


 これは、そのようにして上位階級から下位階級へ、滞り無く給与としての賃金を回し、経済そのものを豊かにする為の政策なのだろう。


 だが、その代わり、その豊かさをより多く享受する上位階級にはそれだけ多くの責務が求められ、更に多くを得ようとすればする程、責務は一層重く増し加わる。


 そう、この世界では、ただ生きていくだけなら……、


 何の責務も発生しない。


 だが、それ以上に何かを得ようとするのなら……、


 それに足るだけの責務が発生する。



 『等価交換』。



 多くを得る為には、それに足るだけの代償が必要なのである。


 そして、代償が払えないのならば……、当然、それを得る資格も無い。



 それは極めて合理的で、紅葉としても受け入れやすい論理に基づく制度なのだが、ここで紅葉は、その論理そのものには納得しつつも、やはり現状の制度に何処か紅葉の知る常識とは決して噛み合わないであろう、得体の知れない不自然さを感じ、その不自然さの元となっていると思われる事実を指摘する。


「なるほど? うーん。でも私としては何かその辺、違和感あるんだよね。だって普通みんながみんなお金持ちになっちゃったら、相対的にお金の価値が減少して物価とか高くなっちゃわない? その辺ってどうなってんの?」


 そうして告げられた論理は、ごくごく普通のインフレーション論理。


 そう、この世界の経済円滑化システムは確かに理想的だが、逆に理想的過ぎて、個人への給与配給量が多過ぎるのだ。これでは市場に貨幣が溢れてしまう。



 通常、市場に貨幣が溢れれば、購入される物資が底を突き、その品薄の影響から、どんどんと物価は値上がりしてしまうものなのだが、この世界ではそれが起きておらず、不自然なまでに価格が低みで安定している。


 有態に言えば、この世界では、経済学的には絶対に在り得ないであろう、全体的な高所得低価格が実現しているのである。


 それは、物価が安いと儲けようが無いので高所得には成り得ず、物価が高ければ高所得には成れるが多くのものが買えないという、経済の基礎に矛盾する。



 だが……、それに対してもライベリーはこの世界の、また別のシステムに言及し、それによって、その疑問と不自然さは、霧消するかの如く解決する。


 やはり、この世界のシステムは、根本的に常世界のものとは異なるのである。



「あー、それはこの創誓世界では金本位制や銀本位制なんかが同時に生きてるからですねぇ。貨幣価値、変わらないんですよぉこの世界」


 そのライベリーの言葉に対し、紅葉は一瞬言葉に詰まり、そして驚く。


「え゛、え……、えっ!? いや、金本位制と銀本位制が同時に生きてたりしたらそれ本位制じゃなくない!? それに貨幣価値が変わらないってどういう……」


「あああー。まぁ驚きますよね普通ぅー」


 その驚き様は来訪者の反応としてはよくある事なのか、ライベリーはけらけらと笑っているが、普通、金本位制と言えば金の価値を基準として物の価格を決定する制度であり、銀本位制と言えば銀の価値を基準として物の価格を決定する制度の事なので、本来、複数の異なる量りを基準として設置する事は不可能な筈なのだが、ライベリーはその謎を解き明かす様、笑いながら説明を始める。


「そうですねぇ~。まずぅ、この世界の通貨制度はぁ~、価格締結本位制、または物資本位制って言うんですけどぉー」



 そうして、ライベリーが唇に人差し指を当てつつ話した、この世界の通貨制度はこうである。


 まず、この制度ではその名の通り、物資が価値の基準となっており、この世界には、世界政府ヴィールドによって予め価値が不動に定められている『本位物資』と呼ばれる物資が存在するのだという。


 そして、先ほど挙げられた金や銀も、そのヴィールドによって定められた、本位物資の一つであり、この創誓世界では常に金は1g5000ヴィスト、銀は1g50ヴィストの価値を持つものとして、常時ヴィールドの運営する施設で取引されており、その価格は決して変動しないのだ。


 それと同じく、ヴィールドは銅や鉄、米や麦といった主要鉱物や主要作物も全てその本位物資に定め、常時同じ値段で取引し続けている為、この世界ではその本位物資はそれ自体がヴィストの価値の裏付けとなると同時に、ヴィストの側もまた、

本位物資の価値の裏付けとなり、これらの価格は動かないのだという。



 勿論、本来であれば、そうした本位制は、金本位制であれば金が貨幣との交換分に足りなくなり、銀本位制であれば銀が貨幣との交換分に足りなくなる事によって崩壊するものなのだが……。


 そこはあくまでも超技術による無限の物資製造を可能とする世界政府ヴィールドが取引の中心となっている事により、金も銀も、銅も鉄も、米も麦も、本位物資となっている物資は一切尽きる事無く、無制限に供給され続ける為、ヴィストの貨幣価値はいつまでも変わらず、逆に、諸々の国や企業や民間が、ヴィストを得る為に本位物資以外も含む様々な物資をヴィールドに売却し、その為にヴィールドが大量のヴィストを発行したとしても、それらの発行されたヴィストの価値も変わらないのだという。



 そう、この世界の貨幣の価値は、信用ではなく、物資そのものであり、その取引様相は、信用取引ではなく、……物々交換なのだ。



「まぁ、ヴィールド程じゃなくても物資本位制は基礎工業力か資源力のある国なら何処でも取り入れられますしぃ? 黄泉様の冥府本国とかでも米味噌醤油と酒芋塩卵とかの生活最低限度の品を本位物資に指定した上で集中生産して、物資の低価格安定保ってたりしますけどねぇ?」


「あぁ、別に無限じゃなくても足りるだけあれば良いんですもんね。ふむ」


(……基本的な物資が全部本位物資として価格固定されてるから値上げ出来ないのか……。しかも、仮に値上げされたとしても、本位物資そのものなら、ヴィールドから直接買えば良いし、買い叩きしようとしてもヴィールドに売れば適正な値段で取引されるから買い叩けない、と……。さっきの階級維持功績とかから考えても、土地の領有権が主張出来るのはヴィールドからの監視が付く上流階級からだから、誰かが土地を占有して周りの製造力を落とす事も出来ない……。全てがヴィールドの掌の上な感じはあるけど、確かに理屈としては説明が付く、か……)


「なるほど……」


 だが、そんな創誓世界の経済事情に関して、紅葉はその在り方に一歩間違えればディストピアまっしぐらなただならぬ気配をも感じ取るが……、その思考は、説明しながら後ろ向きに歩行していたライベリーが急に上を向いて立ち止まり、それにぶつかった事で、霧散して掻き消える。


―ぽふんっ―


「わぷっ、え、なに?」


「着きましたよぉ? って、紅葉さんそういうのが好きなんですかぁ? すけべ」


「あっ! 紅葉さんずるい!! ライベリーさん! 私も挟まりたいですよ!?」


「えぇ……? ……べあはっぐー」


「んぎゅ!? 幸せだけど籠手が痛い! 背中に刺さってます! 籠手外して!」


「注文の多い猫さんですねぇ……」



 何か瑠璃とライベリーがじゃれているが、紅葉は先程思いっきりライベリーの胸に突っ込んだ照れ隠しに、猫の様にくしくしと顔を洗いながら、会話の合間に何時の間にやら到着していた、当初の目的地に目を上げる。


「! 黎明学園ってこれ……」


 そうして見上げた先、巨大で横に長い、上下開閉式の牙の様な金属門と高い壁。


 そして、その奥に見えるのは、何輌もの戦車に装甲車。それも先程の戦闘で沢山いた防衛用の10m級のものではなく、最後に軍が使用していた20m級のものや40m級のものに加え、そうした車体全長ではなく、身長が20m級や40m級の人型兵器の類までもが数多く並んでいた。


 また、校舎らしき建物の屋上に見える幾つもの電光塔や魔力塔、対空砲台の類は街中にもあったものなのでもう見慣れたが、ここには、その更に上に、無数の巡回戦闘機が飛び回っており、多数の空中戦艦、そして空中要塞の類が停泊していた。


 そう、そこにあるそれは、紛れもなく……。


「軍事基地……」


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