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地の文「なんか私が見える小娘が主役みたいですよ?」  作者: 咏柩
第二章『咎人と断罪者』
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第二章第三十七話「道行く合間の経済談話」


 時刻は昼過ぎ。


 黄泉と常夜による事情聴取から解放された瑠璃と紅葉は、同じく保護対象として指定されたライベリーと共に指定された軍の施設へと赴く。


 幸い、街の至る所にある鳥居型の転移門を使えば移動はすぐであり、学園の場所もライベリーが知っている為、ライベリーについていけば問題は無い。


 また、ライベリーの方も、国からの避難命令だけあって補償はある程度充実しているらしく、Sランクらしいロケットランチャー持ちの赤髪アホ毛のウェイトレスさんと、その他数名いるらしいSランク以上のウェイトレスさんを保護施設に先行させた後、店の方はガンランス持ちのギャルっぽいウェイトレスさんに任せ、武器を元のガンブレード二刀流に戻して、避難用と思われる大きめのバックパックのみ店から持ち出して、割と上機嫌にるんるんと黎明学園に向かって歩を進めて行く。


 とはいえ、そんなこの国の補償制度など知らない瑠璃は、そのライベリーの様子を見て、当然の様に疑問を抱いて質問する。


「なんかライベリーさんご機嫌ですね。避難先の黎明学園ってそんなに面白い場所なんですか?」


 そうして問われたライベリーは、先程の気怠げな様子は何処へやら、にしし笑いではあるものの、やたらと楽し気に振り返って、その理由を話し始める。


「避難先が黎明学園なのもそうですけどぉ、やっぱり一番は国からの避難命令って所ですねぇ♪ この世界、基本的に功績が権利に直結してますので、下流階級以上になると階級維持の為の年間功績が必要になるんですけどぉ、それが国からの指示で阻害された場合、その国が阻害した分だけ保障として免除になるんですよねぇ♪ 今回の場合だと私はレアリティ<プラチナ>の上流階級ですのでぇ、それを維持するには、年間5億の収益と年間420日60週間の内、基本的に1日8時間労働を基準の功績と換算して毎週3日労働の年間計180日分の労働日数が必要なんですけどぉ、それが国の避難命令での退避期間中は1日当たり24時間、3日分の労働が免除になるのでぇ、実質その退避期間中はある意味有給休暇みたいなものなんですよぉ」



 そうして語られるこの世界における階級維持の為の功績は以下である。


[

『非知性体』※重罪を犯して無産階級以下に落ちた罪人。確定死刑囚。

階級無し。権利無し。当然保障もあるわけ無し。

権利が無いので功績を上げても意味が無く、功労の概念も存在しない。


『無産階級』<Notカラー><クラリティー>

市民階級内における最下位階級。

生存権しか保障されていない代わり、一切の義務が存在しない。

ある意味一番自由だが、それと同時にある程度過酷な階級でもある。

創誓世界全体の二割程度がこの階級。

※<Notカラー>は来訪者などで未だ身分登録をしていない状態の者の事なので、実質無産階級の大半は<クラリティー>。


『下流階級』<グレー><アイアン>

市民階級内における一般階級。

階級の維持には年間最低100万の収益と、毎週1日8時間を基準とした年間60日分の功労が必要。

創誓世界全体の七割程度がこの階級だが、大国や地域大国になるとより上位の階級が一般的となっている事も多い。

この階級になると最低年収が保証されている為、金銭的な信用が存在し、電光決算用のキャッシュカードが作成出来、銀行への預け入れが可能になる。

また、レアリティ<アイアン>になると、年間最低収益が500万必要になる代わりに<アイアン>ランク以上のランク制限が付けられた品物の購入が可能になる。


『中流階級』<ブロンズ><シルバー><ゴールド>

市民階級内における選良階級。

階級の維持には年間最低1000万の収益と、毎週2日16時間を基準とした年間120日分の功労が必要。※最低収益は<シルバー>では5000万、<ゴールド>では1億。

創誓世界全体の一割にも満たない階級層だが、大国や地域大国では一般市民全体がだいたいこの階級である事が多い。

この階級になると文化享受権が保障され、<ブロンズ>でテレビやラジオなどの受信機、<シルバー>で携帯端末やノートパソコンなどの送受信機、<ゴールド>でデスクトップパソコンなどの個人用放送設備の購入権利が得られる。

※通常、創誓世界ではレアリティによって購入に制限がある品物も存在し、これらのテレビや携帯端末、パーソナルコンピューターの類は購入制限品。

なので、中流階級未満の市民は通常、図書館や漫画喫茶、ネットカフェの類に金銭を支払う事で文化を享受しており、品物自体の入手手段はジャンク屋等で処分品のパーツから作成するか、遺跡等から発掘する以外に無い。尚、創誓世界では生産性を伴わない中間業者の存在が丸ごと禁止されている(横領扱い)為、高レアリティ所持者を経由した代理購入は禁止。譲渡や相続、修理は可能。


『上流階級』<ホワイト><プラチナ><ブラッディ>

所謂所の貴族階級。

階級の維持には年間最低1億の収益と、毎週3日24時間を基準とした年間180日分の功労に加え、領有する土地の半分を民間に解放した上で世界政府ヴィールドからの承認と定期監査の受け入れが必要。

※最低収益は<プラチナ>では5億、<ブラッディ>では10億。

創誓世界全体の1%にも満たない階級層であり、極小国や辺境国では存在しない事も多い。

この階級になると世界政府ヴィールドから正式に権威として認められ、ヴィールド公認の爵位や領地としての土地の入手が可能になる。

※中流階級以下には土地の権利が無く、例え家を買ったとしても土地は国家やその土地を所有する上流階級以上の領有者のもの。


『支配階級』<オーロラ><ブラック>

階級の維持には年間最低1兆の収益と、毎週4日32時間を基準とした年間240日分の功労に加え、領有する土地の九割を民間に解放した上で世界政府ヴィールドからの承認と定期監査の受け入れが必要。

この階級になると世界政府ヴィールドから正式に領有する土地の統治権を認められ、領有する土地に住む人々に対し、独自の法を敷く事が出来る様になる。


尚、功労の獲得上限は1日最大16時間(2日分と換算)週40時間(5日分)まで。

毎年1月1日までに収益と功労が間に合わないとレアリティがワンランク下がる。

]


 そうしたシビアってレベルじゃねーぞ、な説明を受けた瑠璃は、そこで役所神社のお姉さんの話を思い出してげんなりとする。


「な、なるほど……、役所神社で言ってた労働の義務はないけど権利や保証を得たければ別途功績が必要っていうのはそういう事ですか……」



 義務はない、義務は無いが、保障も無い。


 故に、文化的な生活が送りたければ、進んで功労を果たさなければならない。


 そして、その為の階級が上がれば責務も上がる。


 この世界は、そういう世界なのだ。


「まぁ、この世界の思想は基本的に『高貴さは義務を強制する(ノブリス・オブリージュ)』、『主たるものは進んで仕えよ』、『働かざる者食うべからず』って感じですからねぇ。非常時以外では有給休暇は勿論、功労休暇なんてまずありませんしぃ? 兎がどのぐらい持つのかはわかりませんけど、こういうのって結構助かるんですよねぇ」


 そう、ライベリーは楽し気に話すが、そこで紅葉は一つの疑問に行き当たる。



「うーん、でもそれっておかしくない? 確かにシステムとしては理想な気がするけど、普通そんなの貴族側が功労ボイコットしてシステム自体が崩壊するのがオチじゃないの?」



 そうして、聞いた事を携帯端末にメモりつつ語る紅葉の指摘はもっともであり、普通であれば、そうした権威者側に不利なシステムはシステムとして成り立たず、例え一時的に成立したとしても、すぐさま権威者側の悪徳によってに踏み潰されるものなのだが、ここでライベリーは、紅葉達が知らなかった別のシステムについて語りだす。



「お、鋭いですねぇ。確かにそうやって貴族達がこのシステムを退けた国や地域もありますよぉ? でも身分証を管理してるのはヴィールドですからねぇ。功労無視すると身分は自動的に剥奪されますしぃ。<クラリティー>の状態でもし私兵とか使っていざこざ起こそうものなら、『非知性体』にはならないまでも流刑や追放になって都市から追い出されたりはしますから、そうなるともう後は野原や森の中で蛮族として暮らすか、野垂れ死ぬしかないですねぇ」



 勿論、そうでなく、同じ<クラリティー>の相手を集めて野に下り、そこで自ら都市を築いて生活する様な者もいなくはないらしいが、そうした都市や国家は扱いとしてはやはり極小国としても認められない雑多集団として扱われ、他の国家との戦争が起こった際には調停等も受けられずに強制退去が言い渡されるのだという。


 それを聞いた紅葉は(……まぁ、上流階級以上じゃないと領有権が認められないって事は領域・人民・権力の三要素の内、少なくとも領域が存在しないから当然か……)と、納得するが、ライベリーはそれに更に、もう一つの要素を付け足す。


「それにぃ、正式に功労を納めて上流以上の階級に居座ってればぁ、そういう領土問題とかが出た時でもヴィールドを仲介人にして交渉や裁判とかも出来ますしぃ。場合によってはぁ、世界最強のヴィールド軍による介入や保護とかも要請も出来るのでぇ、やっぱり、もしもの時を考えたら功労納めとく方が有利なんですよねぇ」


 功労を無視するより、納めた方が有利になる。


 それは今何気なくライベリーが世界最強と言ったヴィールド軍の強さによる信頼も加味されている意見だが、合理的に考えれば、納めた方が有利なら当然貴族階級も有利な方に傾くだろう。


 それは税にも言える事だが、納めた方が有利になるのであれば、誰でも納めるのである。逆に、納めない方が有利であるのならば誰も納めず、脱税が流行り、貴族や権力者が叛乱や革命を促すのは、一重にその税に納めるだけのメリットが無く、納める事のデメリットが止むを得ないと納得出来る分を超えているのである。


(……有利なら誰でも納めるし、不利でも多少の不利なら受け入れて納める、か。うん、まぁ、それもそう……)


 そうして紅葉は、この世界の階級維持制度、通称『功労システム』について納得するが、そこでもう一つ、恐らく普段からそのシステムに則って功労を納めているであろうライベリーについての疑問が浮かぶ。


「ん? システムについてはわかったんだけど、それでもやっぱりおかしくない? 功労の辺りは良いとしても、主に収益の辺り……」


 そう、携帯端末のメモに取った功労システムの概要を見ながら、顎に手を当てて考える紅葉に対し、ライベリーは首を傾げ、瑠璃は紅葉のメモを覗き込む。


「んん? 何がですぅ?」


「収益……? 階級からしてだいたいそんなもんじゃないのかと思いますが、これに何か問題でも?」



 そこに書き記された、必要な年間収益は下流階級100万、中流階級1000万、上流階級1億、支配階級1兆、と、支配階級だけ妙に敷居が高い以外は特に変わった事の無い年収の様に思えるが、やはり紅葉は納得がいかない様であり、手は顎に当てたまま、顔を上げてライベリーを見、片眉を上げつつ、こう言い放つ。



「だってライベリーさんの店、たぶん年間五億も稼げてないよね?」


「難しそうな顔してなんてこと言うんですか紅葉さん」



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