表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地の文「なんか私が見える小娘が主役みたいですよ?」  作者: 咏柩
第二章『咎人と断罪者』
84/340

第二章第三十五話「自己同一性と黄泉の國」


 バックアップデータのみからの蘇生を複数人が行えば、蘇生された者も複数人になるのではないかという当然の疑問。


 それは確かに、常世界の感覚で言えば大問題な事柄なのだが、その当然の疑問に対し、黄泉はあっけらかんと答える。


「あぁ、そういう事もあるし、実際にこれまでにも幾度となくあった事柄ね。でもその場合、復活した時点ではどちらも本人ではあるけど、再構築された後のデータが違うから、それらの人格はそれぞれ別人扱いになるわね。本人Aと本人Bみたいな感じで、同じ本人だけど別人格/アルター・エゴ、または他我/アザー・セルフの様な形になるわ。勿論、その後、その本人同士が出会う様な事があった場合は本人同士でそのままが良ければそのままで暮らせばいいし、何か不都合がある場合は、双方の情報を持つ新たな本人という形で融合したりしても良いわ。そのあたりは、冥府でも、この創誓世界でも結構自由な感じね」


 そうした黄泉の説明を聞くに、バックアップデータによって本人と定義付けられている存在は、あくまでもバックアップデータの中に記録されている本人と定められたデータの存在であり、そこから復元されたものは全て本人なので、仮に複数回復元されて本人が本人Aや本人Bとなった所で、それは本人なのだという。


(つまり、スワンプマンは本人で、その後、雷に打たれた本人が蘇ったとしても、それも本人って事か……、本人複数人いて良いんだ……)


 紅葉はその黄泉の話す論理感に、常世界の哲学を当て嵌めて考えながらも、その常世界の理解とはまた違う形の理解を得て驚くが、瑠璃はそれを魔界的感性で理解する事で、「はぁ、なるほど。そういえば私達魔神も本体は別に保管しておいて、肉体だけ個別に使って、意識は肉体側に移すって事よくありますもんね。そうなると、バックアップ側がある意味本体で実は死んでない的な見方も出来ますか……」と、独自にその話を分析しつつ、その話の別の問題に視点を向けて、黄泉に問う。



「んー、でもそういうのって容量制限とか無いんですか? 個人の人生全部詰めた情報データって、それこそ私達魔神王種や神格種になってくると、とんでもない量になってくる気がするんですけど……」


 そうして問われたのは、物理的なデータ保存量。


 確かに、何億何兆という時を経た生物の記録を、全てバックアップデータとして保存していたとすれば、それが膨大なデータ量になる事は間違いなく、仮に個々人のデータとしてはそれがそれ程の量にならなかったとしても、記録する対象の数が多ければ、やはりその記憶量は膨大なものになる事だろう。


 それに対して黄泉は、ふむふむと、まるで聡い子供を見るかの様に少し微笑まし気に見て頷きながら、やはりこれも簡単に答えを明かす。


「始まりの世界の唯一真の神やヤィヴュミに関しては知らないけど、私に関しては一応あるわよ? だから、私の黄泉國よもつみくにを瘴気で満たし、誰も入れない様にした上でその最奥の泉に各々のバックアップデータを不変の金という形で沈めて保存してるわけだし」


 そうして話された言葉の中には、始まりの世界や唯一真の神という、ナチュラル即死案件がさらりと含まれていたが、気にはなれど死にたくはないので、紅葉の方は沈黙し、瑠璃の方もバックアップデータに関する方だけ聞く。



「えっと、泉に不変の金として保存、ですか?」


 とはいえ、その瑠璃の特にピンと来ていなさそうな顔から、黄泉の側は必要な事を察し、「ふむ、私の名前、そして私の国が何故黄泉と呼ばれるのか、もしかしてわかってなかったりする?」と尋ねつつ、その詳細を語る。


「そうね、『不変の金』。んー、まず、私の世界にある私の国、黄泉國には常世界では『沸き立つ泉』って言われてる、私の世界のイデア、世界核と呼ばれる存在にまで繋がる、深い海溝みたいな泉があるんだけど……、私はその泉の中に水冷式の巨大集積コンピューターを沈めて、そのコンピューターに魂の情報を丸ごと黄金に刻む為の『不変の金』即ち、長さ100mm、幅50mm、高さ10mm、重さ約1kgの金の板を接続する事で、それに常時保存対象のバックアップデータを書き込んでるのよね。それで、その泉を上から見たら黄金の泉に見える事から、私の名前や私の国は黄泉って呼ばれてるのよ」


 そうして、黄泉から話を聞いて行くと、その『不変の金』と呼ばれる金の板は、およそ一枚で一人分の魂の情報を書き込む事が出来、その『不変の金』の枚数が、実質の冥府におけるバックアップデータの容量制限になるのだという。


「まぁ、『不変の金』の中に完全に記録してある分の魂の情報は10万日分、つまり常世界での約250年分+α程度の日数分だけだし、それ以上については、順次重要なもの以外は破棄されるから、バックアップデータの容量自体はそこまで多くないっていうのと、金さえあれば『不変の金』は幾らでも製造出来るし、コンピューターの拡張も無制限だから、ある意味無限ではあるんだけどね」


 黄泉はそれに加え「それに、大抵の種族は長くても1000年ぐらいまでしか生きられないし、それ以上長く生きる種族もそこまで多くは覚えてないから丁度良い具合でしょう」と、バックアップデータの詳細を付け加える。


(ふぅむ。金1kgが一人分の命の重さといえば破格だけど、それはつまり1tで1000人分しかないって事だし、常世界における主要文明惑星での金の総量は25万t程度で全部使っても2億5000万人分……。技術としては凄いけど、黄泉さんの冥府以外がその技術使ったら争いの元だな……)


/(んー、下位種族にとっては垂涎の代物なんでしょうけれど、結局は本体を別にしてるだけって感じみたいですし、あると便利ってぐらいですかね……)/



 とはいえ、瑠璃の興味はそうした蘇生方法そのものにあるわけではないらしく、瑠璃は蘇生法がまともである事を理解したら、その他の事は聞き流し、常夜の特殊な大型携帯端末を操作して被害者一覧の中の一人の人物を指差す。


「なるほど、とりあえず蘇生技術についてはわかったんですけど……、それって、例えばこの子は生き返らせたり出来ます?」


「うん? あら? この娘は……」


 そうして、瑠璃に指差されたそこには、襲撃に巻き込まれたと思われる、獅子の獣人らしき、AAAランクのお嬢様が遺影状態で映っていた。


(! 生もの以外でもやっぱり死んでる人はいるのか……、しかも結構美人……)


 そんな相手が死亡している事実に紅葉は驚くが、目の前に蘇生出来そうな相手がいるので、紅葉としても、まずはその驚き自体よりも、その相手を蘇生出来るのかどうかに注意が向く。


 だが、それに対する黄泉の返答は意外なものだった。



「んー、私だと難しいわね。この子、緋煉の属国や傘下国の出身じゃないわ。緋煉やその属国、傘下国の出身者なら犯罪等を犯して抹消されてない限りにおいて私はバックアップ取ってるし、それ以外の国でも目立った相手や私と関わった相手なら個人的なバックアップはとってたんだけど……、流石にそれに当て嵌まらない相手のバックアップは取ってないわね。知り合いか何かかしら? それなら、この子は犯罪歴も無いみたいだし、ヤィヴュミの方なら確実にバックアップ取ってるだろうから、そっちに頼んでみた方が良いかもね。もしどうしてもっていうのなら、遺体か代わりの情報物を入手出来れば私が復活させる事も出来るけど、その場合は完璧な復活は期待しないで欲しいわね」



 例え彼女でも、バックアップを取っていない相手の復活は難しい。


 そんな答えを聞いた瑠璃の反応は、紅葉の予想に反して実に淡白なもので、瑠璃はそれを聞くと「ふむ、そうですか。それは残念」とだけ答えると、他の死亡者の一覧に目を移し、先程のお嬢様以外にはめぼしい相手がいない事を見ると、興味が失せたかの様にページを閉じて端末を常夜に返却する。


 そうして、二人がそれらについて各々思案し、黄泉と冥府についての一端を理解した所で、黄泉は話を元に戻し、先程までの話と繋げて『観測知性』が世界を移動する方法の異常さを話す。


「と、まぁ、そうしたものがある関係上、私の冥府は基本的に何処も常世界の生物じゃ近付く事すら出来ない程の高濃度の瘴気で覆われていて、私がその権能で耐性を与えた者の他は入れない様になってるんだけど……、ヤィヴュミ……、えーと、この世界の創造者のヤィヴュミっていう奴はそこに目を付けて、私と契約を結び、私の冥府の一部の領域と、この創誓世界の一部の領域、具体的に言うと、この緋煉皇国のある土地を領土交換して、外の世界からは、その私の冥府の中にある、この創誓世界の飛び地を経由しないと、この世界に入れない様にしたのよ。というか、瑠璃も確かこの世界に入るのはそのルートだったんじゃないの? よく見たら貴女一昨日ぐらいに冥界移動RTAしてた子よね? 私許可した覚えあるわよ?」


「え゛、そうでしたっけ……!? あー、でも確かなんか移動の仕方がかなり複雑だったような……?」


 その話を詳しく聞けば、瑠璃は件の黒天使からこの世界の情報と移動方法を入手した後は、ある魔界深層の奥深くに眠っていた冥界に繋がるという門を抜け、そこから黄泉の管理下にあるという冥界の一部に侵入した後、一度その冥界において、黄泉の端末である番人に冥界滞在の許可と、その創誓世界の飛び地と言われる地域への通行許可を取り、その飛び地から、この創誓世界へと渡って来たのだという。


「えぇ、それがこの創誓世界へ至る正規ルート、しかもその最短のものね。本来は冥府直属の冥界に来るまでに幾つもの冥界を経由しなきゃいけないし、番人も私の端末じゃなくて普通の冥王とかがほとんどだから話通じるまでかなり時間かかるしで少なくとも数ヶ月は時間かかる道なんだけどね?」


「あの黒饅頭は話通じる方だったんですか……。なんかいきなり喰われかけましたけど……」


「あれに喰われるぐらいなら通る資格はないし、貴女の場合は何故か山程持ってた塩をあれに鱈腹喰わせて塩饅頭にしただけで懐柔出来たんだから良いじゃない」


「えぇー……」


 そうして瑠璃と黄泉が話している内容は、黄泉が番人として用意した巨大な黒い餅型妖怪の話だが、実際の所、その推定Sランク程度の実力の黒饅頭は、黒饅頭に一撃入れられる程度、推定Aランク程度の力を示した上で、黒饅頭を力尽くで倒すのではなく、餌を始めとした何らかの方法で懐柔する事で、その場所を通る為の門を開いてくれるという、力と心を調べる為のシステムなのだが、そんな所でも瑠璃は持ち前の幸運の権能を発揮して押し通ったらしい。


 とはいえ、それによって、最高の幸運を手にした状態での、この世界へ至る為のRTAルートがどういうものなのかは明らかにされた事になる。


「ま、とにかく、それがこの世界に入る為の正規ルートだから、それ以外のルートだと全て『次元の狭間』っていうヤィヴュミによる結界によって隔絶されてる関係で、運良く次元が歪んで転移した場合を除けばこの世界に入って来る事は無理ね。今回の『観測知性』の様に任意で次元の狭間を越えるなんていうのは論外。理論上不可能な筈よ」


 そうして戻る初めの話。


 冥府を通らず、この創誓世界から出る事は……、


 端的に言うと、無理なのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ