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地の文「なんか私が見える小娘が主役みたいですよ?」  作者: 咏柩
第二章『咎人と断罪者』
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第二章第三十四話「甦りと冥府と魂と」


 冥府全域の創造者。


 そんな相手が何故こんな所にいて、一つの国の国主として君臨しているのか。


 わからない事は数多く、そうした疑問が次々と紅葉の頭の中には湧いて出るが、それよりも前に、まず目の前の事として瑠璃がある事に気付く。


「あれ? ってか黄泉さんならこの人達生き返らせれるのでは?」


「お、良い所付いて来るわね瑠璃。でも全部は無理よ」



 全部は無理、という事はつまり、一部は可能、という事である。


 それを理解した瑠璃は、首を傾げて人差し指をくるくると回しつつ、黄泉にその制限内容を聞いてみる。



「うん? 人数制限があるとかですか?」


 そう聞く瑠璃は、自身も死霊術式によって疑似的にでも死者の蘇生が可能だからか、とても興味津々な様子で尻尾を大きく左右にゆっくりと振っている。


 そうすると、やはり特に隠す事でもないのか、黄泉は快くそうした冥府における死者の蘇生法を教えてくれる。基本的に気前は良いのだ。


(というか、さっき聞いたこの世界の性質だと、上位の相手になればなるほど善良で優しくなるって事なのかな……)


 それは違うが、少なくとも黄泉や常夜は非常に友好的な存在であり、特に黄泉の側は、本気できちんと教えようと少し考えた後に二人に質問する。


「……んー、そうね。まず『魂とはどういうものなのか』から説明しましょうか。で、質問なんだけど、貴方達は魂って何だと思う?」


 その質問に対し、特に前知識の無い紅葉は一般的な常世界に置けると同等の認識を話すが、瑠璃は死霊術式におけるほぼ核心的な認識を話す。


「って、え、いきなり聞かれても困るけど、肉体の中に入ってる本体、中心核コア的な部分の事なんじゃないの?」


「ふむふむ。瑠璃は?」


「ん? 単なる生体情報ですよね? その個人を顕し、動かす為の情報データ集。少なくとも私の知ってる死霊術式での魂はそういう認識ですけど」


「あぁ、パソコンのOS的な?」


「すみません。そのオーエスとやらが何かわかりません」


「ふむ、やっぱり死霊術式が使えるだけあって瑠璃の方が実体に近いわね。正確には、『生きている生命体の存在全体』の事が本来の魂と呼ばれるものよ」


 そうして話す黄泉は、やはり冥府の最高神格だけあり、瑠璃が死霊術式を使える事は予め見破っていたらしく、その死霊術式を基礎とした科学理論と、紅葉の持つ一般的な常世界のコンピューター知識を合わせつつ、説明を続ける。



「つまり、魂と言うのは肉体の中にある何かではなく、その肉体も含めた全体の事ね。さっき紅葉が言っていた中心核っていうのは恐らく、この創誓世界や術式特化型の世界では霊基と呼ばれているエネルギー的内部回路、つまりはマザーボードと記憶媒体に当たる部分だろうし、瑠璃が言っていた動かす為の情報データ、OSに当たる部分については、恐らく死霊術式や操霊術式における魂魄。私達はマナスと呼んでいる精神を構成するシステムの事なんだけど……。その辺り瑠璃の知ってる解釈だとどうなってる?」


「む、魂魄こんぱくの説明ですか? 私、そういうのの説明は苦手なので、あんまり上手く伝わるかどうかわかりませんが。えーっと、まず、魂っていうのは「魂」と「魄」の二種類に分かれてて、魂が思考の制御を、魄が肉体の制御を行う情報システムで、この二つを合わせて魂魄、所謂魂と呼び、これを術者が外部から操作する事で、肉体や魂を操るっていうのが死霊術式の基本だと思いますけど……」


 それを聞いた黄泉は、手持ちの上下開閉タイプの携帯端末にそれをメモしつつ、瑠璃と会話しながら、瑠璃の使用する死霊術式の形態を創誓世界の関連術式概念に落し入れる形で表にしていく。


「お? ちゃんと技術体系として整ってるタイプね。それなら説明しやすいわ」


「え、ちゃんと技術体系として整ってないやつとかあるんです?」


「えぇ、なんか唐突に宇宙の話を持ち出して、世界が何巡したとか言い出したり、意味の解らない精神論に持ち込んだりするわ。勿論、そういうのは単なる詐欺か頭がおかしくなった類がほとんどよ。全てをプラズマやマハトマで説明するタイプの超理論を更に複雑怪奇に尾ひれを付けて変形させた馬鹿話だと思えば良いわ」


「うわぁ……」


 そうして、瑠璃と黄泉が情報を照らし合わせて表を作っていく中、その話が理解出来ない紅葉は、ふと黄泉や常夜の携帯端末を見て、ある事に気付く。


(? 型も操作法も全然別物っぽいのに端子が同じだ……。もしかして、規格統一されてる……?)


 そう思い、紅葉は昨日瑠璃との戦闘になる前、瑠璃と一緒に身分証の更新ついでに綾夢荘内にあったデパート内部のジャンクファースト支店でこの世界への適正化を施し、今朝受け取っていた自身の元々持っていた携帯端末を見る。


 すると、その端子には、紅葉の携帯端末の端子に差し込む形で、この世界の端子に変換する為の小さな変換機が差し込まれている事がわかる。


(……私の携帯預かって16時間足らず、しかも営業時間外が10時間ぐらいあるから正確には6時間足らずでデータの改造処理だけでなく専用の端子変換機まで作れるのか……)


 しかし、そんな風に紅葉が思考を逸らしたのも束の間。


 何時の間にやら瑠璃と黄泉の話は終わり、双方にわかりやすい表が出来たらしく、黄泉が自身の携帯の端子を常夜の特殊な大型端末の端子に直接繋ぐ形で、常夜の端末の側にその表が映し出される。


[

精神マナス 創誓世界においては精神、及びその精神を構成するシステム全体を差す用語。死霊術式における魂魄はこのマナスの概念の一部。霊とも呼ばれる。


魂 こっちが意識。死霊術式においては思考を統制する機構。


覚我ブッディ体→自身の覚醒意識、知覚意識の事。今現在の頭の中で考えてる思考であり、理性ともいわれる。


自我モナド体→自身の表層意識、顕在意識の事。普段から意識している意識領域での記憶や心理の事。転じて、自分が思う自分の事。


真我アートマ体→自身の深層意識、潜在意識の事。普段は意識していない無意識の領域の記憶や心理の事。



魄 こっちが身体。死霊術式においては身体を動かす制御回路。


生気エーテル体→体の中のエネルギー回路、霊体神経系の事。体を動かすエネルギー経路。→霊基。配線。簡単に言うとマザーボード。


星幽アストラル体→霊体、体内のエネルギーを丸ごと入れる為のエネルギーの器。これが元になって肉体が動く→箱体。

※星幽というのは、この霊体と肉体はそれぞれ、回路的に繋がってる部分があるが、それが身体の各所に星の様な揺らめきとなって観測できる為につけられた名称である。


識心メンタル体→心、これらの精神を駆動させる為のシステム。OS。


原因コーザル体→霊核。中央演算処理装置。意識から送られてきた信号を、これが計算して生気エーテル体を通し、星幽アストラル体を動かす。→CPU


これは身体の中身の話なので、これとは別に肉体がある。身体を機械に例えると、肉体は外側の車両や重機などの行動部位であり、その内部に霊体という形で制御用のコンピューター回路が埋まっていると考えるとわかりやすい。そして、魂とは、その内部コンピューターだけでなく、内部コンピューターをも含めた、車両や重機そのものの全体を差す。

]


 そうして、映し出された画面を紅葉も覗き込み、黄泉の説明を聞く。


「簡単に言うと、瑠璃が言っていた魂、つまり魂魄は体内のエネルギーシステムの事で、この魂魄を魂と魄の二つに分けた内の「魂」に当たる部分はメモリーなのよ。覚我体は作業領域としてのメモリー部分。自我体は普段使用している記憶領域で、Cドライブ。真我体は普段は使用しない保存領域でDドライブって所ね。そして、魄の方は生気体が基盤、星幽体が箱、識心体がOS、原因体がCPUという様な構造で基本的な肉体は出来ているわ」


 そうした説明に対し、瑠璃は既知のシステムに当て嵌めて順応に理解していく。


「ふむふむ。私の知っている死霊術式だと、肉体と魂の二つで存在は構成されてるという扱いでしたが、こちらは肉体と精神の二つで魂が構成されている扱い、と。つまり、私達が魂と呼んでいたものが精神、特に定義されてなかった存在全体の方が魂、と定義されてるわけですか。なるほど、おk理解」


「そういう事ね。常世界では何故か精神と魂の概念が混同されて、逆に元々あった魂の概念が消失してる事がほとんどだから、こういうズレが生じるんだけど、本来の生物の身体構造としてはこっちが正解なのよ。そして、それを踏まえた上で蘇りについて話すんだけど……、この蘇りには、完全な魂の情報、つまりバックアップデータが必要になるのよね。常世界で蘇りがほぼ不可能なのはそのバックアップを正確に取れない事が原因ね。生命体における精神は肉体の方に依存していて、肉体が壊れると同時に精神の方もショートして消失するから」



 そうして、黄泉はつらつらと完全な蘇りの方法を述べて行くが、確かにそれは、紅葉の知る常世界での技術では不可能であろう事が伺える。



(なるほど……、単純に肉体を復元しても内部の精神を復元しなきゃ単なる肉塊。そして精神の方は肉体依存で肉体の崩壊と共に滅ぶ、と……。つまり肉体が死んだ時点で完全なバックアップが存在していない限り、蘇生は不可能って事か……)


 実際、瑠璃の話を聞いていると、術式系統技術における精神の操作はあくまでも外部から働きかけて誘導しているだけで、それそのものを書き換えられるわけではないらしい。


 また、死霊術式によく使用されるゾンビなどは、中身の無い死体の内部に、精神の代わりとなる術式や別の人工回路を入れる事で操作しているだけであり、やはりこれも本人が蘇ったというわけではない様だ。


 そして、死んだ直後の相手を蘇らせる色々な制限付きの蘇生については、実の所大規模な治療の類なのであって、冥府的に言えば死者を蘇生したのではなく、死にかけを治した、というのが正確な所らしい。


 更に、これを隣で聞いていた常夜も、それに付け加えて情報を話す。


「そうね。よくホラーものとかで死者の怨念がー、とかいうのがあるけど、いわゆる霊体生物における元は別の知性体だった存在、すなわち亡霊レイスに関しての事なら、それって別に霊体化しただけで死んでないし、それが他人を襲ったら普通に犯罪。霊体化にはかなりの霊力と技術が必要だから自然にはならないし、ホラーもののああいうのはまず嘘っぱちね。そうでないとすれば、元々霊体生物の誰かが死んだ奴の真似して脅かして遊んでるとかでしかないわね」


 それは夢の無い話に聞こえなくもないが、現実はそんなものである。


 そして、そうした事柄から、黄泉が全部は無理だと言った理由も話される。


「実際、これは私についても同じで、私が黄泉還らせる事が出来るのは、生前に私が目を付けてバックアップを取っていた相手と、死んだ後でも肉体の主要な部分が無傷で残ってたり、何らかのバックアップに代わる情報体が残っている場合のみ。それなら、バックアップ済みの相手は勿論蘇生出来るし、肉体が損傷してるだけの相手も再生で、情報体のみの相手なら解析して新しい肉体を与える事で蘇生できるわ。もっとも、肉体や情報が残ってて、それを再生させる形で蘇生させた場合は、それはやはり蘇生ではなく治療というのだけれどね? それ以外の、バックアップを取っていなかったものについては、完全に肉体ごと消滅してたり、破損が酷かったりすると私でも蘇生出来ないわ」



 また、蘇生に関しては、それ以外にも先程揉めた国の問題などもあり、他国の者に勝手に目を付けてバックアップを取る事は出来るものの、黄泉の権威は黄泉の所有する世界や国の中だけのもので、基本的には他国他世界には干渉出来ない為、他世界の者は、その者が『死んでその世界の者でなくなる』まで、黄泉には干渉出来ず、死んだ後にそのバックアップを使って自身の国や世界に蘇らせる事しか出来ないらしい。


「勿論、なんか嫌な死に方して心に傷が残りそうな場合は部下の死神やらなんやらを遣わして、そうなる前に殺す事で、強引にその世界から脱出させたりとか、色々と対策取ったりはするけどね?」



 そういう事情から、冥府に行くのは彼女の干渉があった彼女の好みに合う者だけで、死ねば全ての者が冥府に行くというわけではないのだという。


 そして、そういった外部からの干渉が無い限り、全ての者は、一度死ねば、ただ消滅し、永遠に消えて、何処にもいなくなる。


 それが世界の法則だ。


 塵は塵に還る。それはまさしく正しい事なのである。


「っていうか、そうでなければ私の冥府なんて今頃恐竜とかの絶滅した古代生物で溢れてるでしょうし、地上も古代人の幽霊だらけになってるでしょう? そういうわけではないのよ。誰かの保存と復元がなければ、蘇りも無いわ」


 一刀両断、諸行無常。そこに浪漫はねーのです。


 とはいえ、そこで紅葉としては新たな疑問が生じる。


「あれ? そういうのって他に保存してる人がいたりしたら、蘇った人が複数人存在したりしない? その辺どうなってるの?」


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