第二章第三十三話「世界の事情と特殊な権能」
「いや、確かに宇宙の文明というか根本的何かを破壊してるけど!! えっ!? いいの!? それでいいの!? っていうかそれ権能なの!?!?」
唐突に真顔で告げられた突拍子もないSランク権能に対して、紅葉はツッコむが、その反応は周囲も慣れたものらしく、告げた常夜だけでなく、その隣に座る黄泉や紅葉の隣のライベリーまでもが口元を小さく隠してほっこりと笑い、実は聞き耳を立てていた周囲の席の者達も、小さく笑うか、妙にかっこいい変な決めポーズを取って『ギャグ補正』をアピールしてくる。
……一応、戦力ランクの基準としては、Sランクの定義は、常世界における宇宙として定義される範囲、直径1000億光年の球体型宇宙空間の内部に存在する、全ての文明圏の機能を破壊すれば良いだけなのだから、『ギャグ補正』なる権能が存在するとすれば、その含意をを丸ごとギャグ時空に変換する事で、その宇宙の文明を全て破壊したのだという理屈は通るが……。
これには地の文としても宇宙猫にならざるを得ない。( =^ФωФ^=)°˖✧ ˖°
[これには地の文としても宇宙猫にならざるを得ない。( =^ФωФ^=)°˖✧ ˖°]
(顔文字まで表示できるのかこの中空の文……。うん? 地の文?)
ここで何処かで聞いた事がある様なキーワードが出て来た為、紅葉はそれを確認しようと隣の瑠璃を見るが……。
( =^ФωФ^=)°˖✧ ˖°
何故かこちらも宇宙猫になって固まっていたので、そのキーワードはすぐに紅葉の頭からぽわぽわと消え去る。
そうして、紅葉が何か大事な事を忘れた所で、紅葉からのツッコミの止んだ常夜が瑠璃に声をかける。
「どうしたのよ。そんないきなり宇宙の話を振られた猫みたいな顔して」
「いや、丁度いきなり宇宙の話を振られた猫ですので」
どうやらわざとだったらしい。
こちらはこちらで元々ボケの素質があるようで、既に若干このギャグ時空にも馴染んできている様だ。
そうして、宇宙猫から唐突にキリっとした顔に戻った瑠璃のボケは華麗にスルーして、常夜は話を元に戻す。
「と、まぁ、戦力ランクの基準についてはこんなものだし、要はランク順に強いと思っておけばいいわよ。後、特殊な異能や権能持ちの場合は多少のランク差ぐらいは覆してくるから、そういう異能や権能には注意した方が良いけどね」
「わぁ、強引に話し戻された。ギャグとシリアスの温度差で風邪ひきそう」
屈託の無い笑顔で何か言っている紅葉は無視し、『観測知性』の能力とその被害、そして創誓世界の戦力ランクについて説明し終えた常夜は、肝心の『観測知性』の対策へと話を移す。
「しかし、この『観測知性』について一番厄介なのは何よりも、異世界に逃げられる、という事でしょうね。黄泉、この辺どう思う?」
そうして、難しめの話は全て常夜にぶん投げて抹茶のホールケーキをちまちまと食べていた黄泉は、いきなり話を振られて喉を詰まらせかけるが、軽く喉の下辺りを叩いてそのまま飲み込み、常夜の話に応える。
「んぐっ……!? ………………(ごくんっ)、………………ふむ、そうね。あれは完全に外界に転移してたし、転移場所は冥府の一部でも無かった。確実に次元の狭間を超えた移動でしょうね」
澄ました顔をしているが、口の端にクリームがついている。
とはいえ、瑠璃と紅葉の視線から、それにはすぐに気付いたらしく、黄泉はすぐさま手拭きを取って口を拭い、話の説明もしてくれる。
「……と、次元の狭間っていうのは、この創誓世界全体を覆う結界みたいなものよ。この結界は通常、私の冥府を通らなければ通過できないのだけれど、今回現れた『観測知性』とやらは、それを無視して移動してるからおかしいって話ね。何か、その辺で特殊な権能でもあるんでしょう」
そうして話す黄泉は、やはり雰囲気は怖いが善良な存在なのだろう。
わざわざ瑠璃や紅葉が理解出来る様に話の説明までしてくれる辺り、その生来のお人好しさが全身に隈なく滲んでおり、それはその容貌の高さも相まって先程の話とも一致する。
(顔が良いと強くて善良、ね……。なるほど……)
そして、それを聞いた紅葉は一旦納得しかけるが、その途中に何か不思議な言葉のニュアンスを聞いた気がしたので、つい、その部分を鸚鵡返しに尋ねてしまう。
「って、私の冥府?」
冥府とは、一般的には死者の行き着く場所とされる世界であり、紅葉の個人的な認識としては、そうしたあの世と呼ばれる死後の世界全般を指す言葉である。
しかし、それに対して黄泉の言い方は、まるでそれが自分の所有物であるかの様であり、紅葉としては違和感を感じた所だった為、紅葉はそれが自身の知っている冥府とはまた違う、何かこの世界独自の概念なのかと思ってそれを尋ねたのだが、それに対する返答は紅葉の予想とは大きく異なっていた。
「ん? えぇ、私の冥府。あぁ、そう言えばちゃんと自己紹介してなかったか」
そう言いつつ、黄泉は姿勢を正し、自身のフルネームと、自身の存在についてを、改めて、紅葉と瑠璃に告げる。
「私の名前は黄泉穢大御神。この世界では神法の盾を苗字として、神楯黄泉と名乗っているけれど、一応、遍く全次元に存在する冥界、冥府、そのほとんど全てを創造した創造者よ。決して神様ではないんだけど……、それに似た者として黄泉神という称号で呼ばれる事も多いわね」
そうして、黄泉は紅葉の方にちらりと視線をやり、「あぁ、和国系の知識があるなら古事記とかで知らない?」と、常世界でも普遍的に知られるほど有名な、自身も登場している書物の名を出して、その中の自身が登場する箇所を話し出す。
「えっとね、私が出て来るのはその本の神産みの後の話で、元の世界で死んだ後、私が蘇らせて保護してたイザナミっていう女神が、元の世界の夫が迎えに来たから帰りたいって私に相談してきた時の事なんだけど、その時、私はその女神に八種の雷神を与えて肉体を蘇生して帰れる様に取り計らってあげたんだけど、その女神を迎えに来た夫のイザナギっていう男神が、蘇生中のイザナミを見ちゃったせいで、怖くなって逃げ出して大事になるっていう話なんだけど……」
そうして語られる事柄について、自身の記憶は無いものの、和国と呼ばれる国の記憶はある程度存在する紅葉としては、当然、その古事記と呼ばれる書物についてもまた、ある程度知っていた。
(古事記で出て来る黄泉神って、それは……)
その存在が登場するのは、神話において、天地開闢の頃に現れ出でたと言われる七世代の神格、神世七代と呼ばれる、その神の内の二柱、伊邪那岐神と伊邪那美神による『国産み』と『神産み』の後の物語。
すなわち、『黄泉比良坂伝説』での事だ。
そして、そこにほんの一部だけ書き記された、黄泉神という存在は、登場数こそそこしかないが……、その権威と力は言わずと知れた、大神格。
死したイザナミを受け入れ新たな身体と住居を与え、蘇りの際には雷神を与え、イザナミに世話係として黄泉醜女という鬼女を、護衛として黄泉戦と呼ばれる冥府の軍を貸し与えていた、それら強力な神々と鬼々の主。
神世七代の二柱より更に上位に位置する、冥府の最高神である。




