第二章第三十二話「驚異の度合いと戦力ランク」
戦力ランクとは実際どんなものか?
それは事情聴取という名の対策会議中に唐突に出た質問だったが、確かに、昨日この世界に来たばかりの瑠璃と紅葉にとっては必要な知識である。
というのも、それは元々この世界側の存在である黄泉や常夜、そしてライベリーにとってはわかりやすい尺度の様だが、昨日この世界に来たばかりの瑠璃と紅葉にとっては多少の上下関係は理解出来るものの、まだ解り難いものだからだ。
それを察してか、常夜はすぐにテーブルの上に置いた特殊な大型携帯端末の画面を世界政府ヴィールドの公式ページと思われるものに切り替え、そこの戦力ランクと書かれたページを表示して、説明を始める。
「ふむ、そうね。まず、この世界に住む知的生命体は全て単純な総合破壊力なんかを基準に、その脅威度を戦力ランクという形でランク分けされているのだけれど……」
そうして、説明し始めた常夜の説明曰く、戦力ランクは基本はF~SSSまでの11ランクが存在し、それに加え、特殊枠としてFの下にはFにも到達出来ない事を意味する『F外』と、死亡または消滅を意味する『L』が存在し、SSSの上にはそれらの枠組みに収まりきらなかった事を意味する『EX』と最高位を意味する『R』が存在するという。
そして、ロストであるLは通常ランクに含まれず、F外とAA~SSSは番外、EXとRは規格外である為、常世界ではF~Aランクまでの6ランク、創誓世界やその周辺世界では番外を入れたF外~SSSまでの12ランクが、常用戦力ランクとして使用されているらしい。
そうした事柄を、画像と共に説明した常夜は、瑠璃と紅葉が解りやすい様、それに加えて、画面に画面内に直接書き込める特殊な金属ペンで書き込みを入れ、一般的な常世界でのランクの目安を書き込んでくれる。
「常世界だと、そういったランクは色や星の数で表されてる事が多いかしらね? Fが☆0で鉄ランク、Eが☆1で銅ランクとか、そんな感じよ」
[
1 R
2 EX
3 SSS
4 SS
5 S
6 AAA
7 AA
8 A 虹 ☆☆☆☆☆
9 B 鉑 ☆☆☆☆
10 C 金 ☆☆☆
11 D 銀 ☆☆
12 E 銅 ☆
13 F 鉄
14 F外
15 L
※常世界では、F外はモブやエキストラと呼ばれる事が多い。
]
そうして、常夜がこの世界の戦力ランクの隣に書き記した常世界のものらしき色と星によるランクは、細部が多少違っているものの、瑠璃も紅葉も理解出来るものだった。
(うん? 金が☆5で虹が☆6でなく? いや、でもだいたいわかるか……)
/(ふむ、文字は読めませんが金の上に白っぽい銀色、という事はこれはプラチナですかね……? しかしプラチナがBランク……? 魔界でも相当な実力者階級の筈ですが……、うぅむ……)/
なんか悩んでる様に見えるが、理解出来るものだった。
いや、よしんば理解出来ていないとしても、少なくとも何の基準も無い状態よりは、一つの基準として当て嵌めやすくなった事だろう。
そうして、瑠璃と紅葉はその書き記された創誓世界の戦力ランクと、常世界でのランクを見比べながら、それを何とか自分達の理解の範疇に落とし込もうとするのだが……。
実の所、この創誓世界の戦力ランクの規定はかなりアバウトであり、戦力ランクを決定する際には、現状、自身の最も強い装備・状態の時を想定した上でそれぞれのランク毎に壁として設定された破壊対象を破壊出来るなら、その壁の上のランクとなるという、割と雑なものらしい。
そして、それの詳細はといえば、まずは誰でもF外から始まって、猛獣破壊の壁があり、獅子や虎等の一般的な猛獣を破壊出来ると考えられるならFランクとなり、次は構造物破壊の壁があり、そこで一般的な石造りや煉瓦造りの居住家屋を破壊出来ると考えられるならEランク、と言った様に、特に検査等は無く、破壊出来るものの規模でランクが変動するという事が、常夜と黄泉から語られる。
[L←<死亡or消滅>←F外→<猛獣破壊の壁>→F→<構造物破壊の壁>→E→<戦闘機破壊の壁>→D→<都市破壊の壁>→C→<国家破壊の壁>→B→『星系破壊の壁』<惑星破壊の壁>→A→<恒星破壊の壁>→AA→<銀河破壊の壁>→AAA→『宇宙破壊の壁』<文明系破壊の壁>→S→<生態系破壊の壁>→SS→<宇宙形態破壊の壁>→SSS→<不可能破壊の壁(全能の壁)>→EX→<自己消滅破壊の壁(不滅の壁)>→R]
そうした詳細な説明を、常夜の持つ特殊な大型携帯端末と、そこに特殊なペンで書き入れられた矢印や括弧、鍵括弧書きの説明を見せて説明された瑠璃と紅葉は、そこである事に気付く。
「いや、このランクなんかおかしくないです? ランク一つ上がる毎になんか壁、分厚くなりすぎですし、しかもDランク以降でもう都市や国家が対象になってますし……、Aランク以上で星系破壊、Sランク以上で宇宙破壊、EXになると全能とか、もう頭おかしくなったんか? って感じがするんですけど……」
言い方が雑だが、もっともな意見でもある。
実際、今この店にいるのはそのほとんどが推定Sランクであり、その内、少なくとも瑠璃、紅葉、ライベリーの三人はSSランクである。
そして、目の前の常夜と黄泉はそれよりも、もっと……、
具体的に言えば、瑠璃や紅葉やライベリーが何億、何兆人いた所で触れる事すら出来ないレベルに強い事だろう。
そんな相手がごろごろといる中で、それよりもずっと劣るCランク程度の相手が都市を破壊出来、Bランクなら国家を破壊出来る、となると、流石にそれは何処か盛大に矛盾している様に思われる。
だが、それに対して、常夜は特に動じた風もなく、その矛盾を紐解く、常世界とこの世界における、定義の差について説明し出す。
「あぁ、それはその戦力ランクの基準がこの創誓世界じゃなくて常世界、つまりは一般的な世界を基準に作成されてるからね。この戦力ランクにあげられてる都市や国家っていうのは、この世界のものと比べると結構規模が小さいものなのよ」
「ふむふむ?」
そして、常夜から説明された常世界の定義はこうである。
・常世界一つを構成する宇宙の規模は、直径約1000億光年程の球体である。
・その宇宙の内部には約1兆個の銀河が存在し、その銀河自体は約1000億個の恒星と、その約10倍の数の星々で構成されている。
・その中に文明圏は基本的に1つで、その文明LVは4~6程度。
※文明LV4は機関車や動力船等を始めとする機械を作成し、扱う事が出来る文明。文明LV6は核融合等の原子技術が確立した文明。
・文明圏を構成する種族は大半が人間や妖魔、妖精等の寿命100年~1000年程度の下位種族であり、戦力ランクは兵士や軍人でF程度、他はほぼ全てF外である。
・文明圏における総人口は約100億、国と呼べる勢力(常世界における大国)は10ヶ国未満で国を自称する勢力は100ヶ国~200ヶ国程度。
こうして述べられた常世界の世界定義は、思考に複数の世界常識が混ざり込んだ紅葉の基準としても、確かに平均的な世界であり、紅葉自身も、恐らく自分の総合知識が基準としている世界の指標はこれなのだろうと思える程だ。
だが、その常世界の指標は、常夜や黄泉だけでなく、瑠璃にとっても、余りにも小さなものらしく、それを聞いていた瑠璃は顎に手を当てつつ、首を傾げている。
恐らく魔界の基準における世界は、もっと広く、もっと、大きいのだろう。
だが、少なくとも、この創誓世界で認知している常世界の基準というのは、その程度のものであるらしく、この戦力ランクは、その常世界を指標として作成されたものである為、この戦力ランクにおけるC、Dランクが破壊出来るのは、あくまで常世界における都市や国家であり、この世界の都市や国家を破壊出来るというわけではないらしい。
そして、それに付け加える様に、常夜はこの世界における都市や人口の区分をも、瑠璃と紅葉に教えてくれる。
「それに、この創誓世界では都市の規模は管理区分の関係上、人口毎に分かれてて、1万以下なら周辺集落、1億以下なら地方自治区、1兆以下なら小都市って感じで規模が大きくなるにつれて大数が一つ大きくなるんだけど……、この区分で行くと常世界の都市は大きくても人口1億以上1兆未満って感じの小都市程度になるから、戦力ランクにおける都市破壊の基準もギリギリ小都市として扱われる人口1億弱程度の小都市になるのよ。流石にそれぐらい破壊できる奴はごろごろいるわ」
確かに、ほとんどがそこら辺の猛獣程度にも劣るF外と呼ばれるランクであり、兵士も猛獣が倒せる程度のFランクだと考えれば、それを1億やそこら潰す程度、紅葉の知る限り、龍族や天使などの上位種族であれば誰でも出来る事だろう。
そうであるのならば、その辺の上位種族は、全員少なくともDかCランク程度はあるという事も推測できる。
[上位種族は、全員少なくともDかCランク程度はあるという事も推測できる。]
(あぁ、常世界の戦闘機が壊せればDランクって事は、常世界の戦闘機にやられるぐらいの奴は上位種族じゃないって認識なのかな……)
そうして、紅葉が常夜の説明を聞きつつ、中空の文も読んで行間を邪推していると、常夜がその紅葉の視線の先を見つつ、この世界の都市や国家のシステム説明を交えて、Cランクの基準となる国家の説明もしてくれる。
「……そして、それは国についても同じで、まず、この世界での都市は周辺集落、地方自治区、小都市、中都市、大都市、主要都市、中核都市の七段階に分かれてて、それぞれが約一万の下位都市を管理してるんだけど、その最高位である中核都市には管理都市数の制限が無いから、その一つ下の主要都市が国力の目安になって、この創誓世界の国家は最低主要都市一つを保有し機能させていなければ国として認められないんだけど……」
そう言いつつ、常夜は今度は都市と国家の関係性を映し出したページを開いて、そこにまた特殊なペンでの説明書きと、国家要件の例外要項を書き記していく。
[
<管理都市数>
中核都市 管理上限無し。下限は1万。
主要都市 1 ←この主要都市を最低1ヶ所保有していれば国として認められる。
大都市 1,0000
中都市 1,0000,0000
小都市 1,0000,0000,0000
地方自治区 1,0000,0000,0000,0000
周辺集落 1,0000,0000,0000,0000,0000
主要都市1つが管理する大都市は約1万。大都市が管理する中都市も約1万。
以後も1万づつ増える為、主要都市1つで約20桁の周辺集落を管理する事になる。
人口は周辺集落が1万以下、地方自治区が1億以下と同じく1万倍に増えていく為、主要都市一つでは基本的に約数千垓程度の人口を保有する。
これが創誓世界の国家の最低要項であり、これを満たせば辺境国として認定され、それより上位の中核都市を一つ以上保有し、尚且つ市民の平均戦力をEランク以上に保たせる事の出来る国家は群小国として認定される。
正式な国家の序列は以下である。
大国 地域大国を最低1万以上傘下に置く、市民の平均戦力C以上の勢力。
地域大国 群小国を最低1万以上傘下に置く、市民の平均戦力D以上の勢力。
群小国 中核都市を一つ以上保有する、市民の平均戦力E以上の勢力。
辺境国 主要都市を一つ以上保有する人口1千垓以上の勢力。
<例外要項>
正式な序列ではないが、大国の中でも、その国のある地方全体に影響を及ぼし得る程の力を持つ大国は、超大国、また列強と呼ばれる。緋煉はこの創誓世界において、夕闇地方と呼ばれる地方の列強の一つ。
また、これも正式なものではないが、辺境国としての要項すら満たさない勢力でも、領域、人民、権力の三要素が揃った自治区的勢力は、辺境国以下の極小国という扱いで非正規に国として扱われる事もある。
]
そうして常夜に話されたこの世界の国家要件は、一言で言えば馬鹿みたいに巨大な世界での国家としての最低要件であり、それは常世界ではとても手の届かない、雲の上の話である事がわかる。
いや、実際の所、この規模となると、瑠璃の住む魔界等の高等世界であっても、この基準に届かせるのは難しい事だろう。
というか、数千の魔界を配下に治める人口過多のアウクシリウムですら、この国の条件では、辺境国にも到達しているかどうかかなり怪しい。
それを瑠璃と紅葉が理解し、げんなりし始めた所で、常夜はその中の例外要項にある、極小国と呼ばれる非正規国家概念の場所をペンで叩きながら、話を元に戻して戦力ランクについて話し始める。
「と、いうのがこの世界の国家概念だから、常世界での国家は、形式上全て非正規の極小国という扱いになるのよね」
そもそも常世界として定義されている世界は、その総人口ですら100億程度なのだから、これは当然の事である。人口全て合わせても辺境国に届かない。
「それで、ほんとはこの創誓世界の基準だと、都市破壊の際の基準になった小都市一つでも周辺集落を約1億ヶ所支配している事になるんだけど、常世界だと一つの都市に人口集約して都市人口を嵩増ししてる傾向が多いのと、世界人口自体が100億人程度しかいない事から考えて、この国家破壊の基準となる極小国は、人口1億人程度の小都市を一つ以上所有する、人口10億人程度の極小国になるのよ」
それは、聞けば聞く程、例外に例外案件を重ねた判定基準。
それもこれも、基準となる値を常世界に合わせているからなのだろうが、恐らくこの世界の本来の尺度からすれば非常に小さなものとして納得できる。
(そもそも相手が使って来るであろう兵器なんかもDランクぐらいまでが限度だと仮定すると、人口1億人の都市だろうと人口10億人の国家だろうと、ほとんど相手にならないって事か……)
そうして聞かされた戦力ランクの基準となる常世界の国家は、紅葉の考える世界での国としては頗る巨大な大国に思えるが、先程の、この世界における国家概念を聞いた後だと、それは酷く小さく、弱弱しいものにしか思えない。
そして、その事柄に同意を求めるかの様に、常夜は世間話でもするかの様にくすくすと笑いつつ、瑠璃と紅葉に問う。
「どう? 人口10億人程度の極小国一つなんか、割と簡単に壊せると思わない?」
いや、実際この相手にとって、それはただの他愛もない世間話なのだろう。
それは、敵意も何も無く、会話しているだけで伝わる常識の違いからも、紅葉の本能的危機感が刺激される程、ひしひしと伝わって来る。
そして、それに拍車をかけるかの如く、常夜は悪気無く、番外であるAAランク以上の事柄に関しても説明を始める。
「それに、星系破壊についても時間制限とかは無いから、AAランクで恒星が破壊出来る様なら、後は寿命さえ長ければ、ちまちま時間かけてその銀河を構成する1000億個の恒星を破壊する事で、銀河が破壊出来るって判定になってAAAランクだしね」
確かに、時間制限が無いのであれば、毎年一つ恒星を破壊するだけで、1000億年後には銀河が破壊出来ている事になる。
そうであれば、少なくとも1000億年以上の寿命があって、1年以内に恒星一つを破壊出来る者なら、誰でもAAAランクになれるのだ。
「とはいえ、Sランクの条件である常世界の文明を破壊出来るって所とかは、その文明破壊に「その文明を構成する種族を絶滅させる」とかいう方法を取ると、その種族の繁殖速度を超えるスピードで絶滅させなくちゃいけなかったりするし、ある意味時間制限も出て来るけどね」
そうして、Sランク辺りの壁についても話が進んだ所で、ライベリーが「まぁ、害虫みたいにわらわら湧いて出る下級種族をその宇宙全体から全部消し去る、とか、控えめに言って結構手間ですしねぇ……」と、同意を挟む。
流石にSランク辺りまで来ると、この世界でも十分脅威に分類されるのだろう。
そう考えると、その次の瑠璃と紅葉とライベリーが所属するSSランクの要件は宇宙全体の生態系の破壊なので、それこそ細菌等を含む常世界宇宙に存在する生物全てを抹消しなければならないので、かなり難易度が高い事も伺える。
(……そういえば綾夢さんも私達は推定SSランクだから、そこそこ強いと思って良いって言ってたもんね)
と、そこで紅葉はまたしても疑問に気付く。
「あれ? そうなると、さっきの戦闘で招集された色物……げふんげふん。個性的な皆さんは全員宇宙文明が破壊できるとかいう事になるんじゃ……?」
その疑問に対して、常夜は当然と言った様に即答する。
「できるでしょうし、場合によってはあの戦闘で既にした、かもしれないわね」
「???」
ここまでの常夜の言い回しは説明臭くはあれど、まだわかるものだったが、今回の事は本当に意味が解らず、紅葉と瑠璃は首を傾げる。
とはいえ、常夜は何も隠そうとして難しい言い回しを使っているわけではなく、ただ単に事実として話しているだけなので、首を傾げた紅葉と瑠璃に対し、補足を付け加えながらその事実を噛み砕いて説明していく。
「ふむ。ちなみに今回集まったメンバーはその大部分が同じ権能持ちよ? これは緋練ではよく発生する権能なのだけれど、他国や異世界からすると確かにちょっと特殊な権能かもしれないわね?」
「特殊な権能……?」
「えぇ、今回集まった色物集団をSランクたらしめる特殊な権能。結構有名な権能だから貴方達も聞いた事ぐらいはないかしら?」
その何か含みのある言い方に、瑠璃と紅葉がごくりと固唾を呑んだ所で、常夜は一呼吸置いて、その権能の名前を、真顔で言い放つ。
「『ギャグ補正』というのだけど」
……。
…………。
……………………。
「「世界観が壊れる!!!!!!!!!!!!!!!!」」




