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地の文「なんか私が見える小娘が主役みたいですよ?」  作者: 咏柩
第二章『咎人と断罪者』
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第二章第三十話「知る筈の無い知識と共有者」


 周囲の物理的、力学的状態を高精度で把握、解析する事で疑似的な『未来予知』を行って、危険を避ける兎。


 そんな逃げに専念されたらどうやっても捕まえられなさそうな能力に、こっそりと聞き耳を立てていた周囲のテーブルの人々も含めて、皆が「むむむ……」と頭を捻り始めるが、その能力の説明に対し、紅葉はふと一つの存在を思い浮かべ、何の気なしに、ぽつりと呟く。


「うーん。それって……、ラプラスの魔?」


 それは意図せずして口から洩れた言葉だったが、周囲の誰もがその言葉の意味を理解しない中で、二人だけその言葉に反応した者がいた。


「! 貴女はその名前を知っているの?」


 そうして口を開いたのは黄泉だったが、その隣の常夜の方も一瞬視線が紅葉の方を向いた為、その言葉を理解している事が伺える。


 とはいえ、紅葉の方は、自分で話した事では在れど、そのラプラスの魔について特段詳しいわけでもないので、「え、いや、聞いた事があるだけですけど……」と、言葉を濁す。


 それに対し、黄泉は、何故か紅葉のその反応は予想していたかの様に、「ふむ、そう。まぁ、いいのだけど」と深くは追求せず、同じくその存在を知っている常夜に「常夜、解説して」と解説を促し、それを請け負った常夜の方が解説する。


「んん、そうね。じゃあ私が解説するわ。その、今紅葉が言ったラプラスの魔っていうのは、『ある時点において作用している全ての力学的・物理的な状態を完全に把握・解析する能力を持つが故に、その先の未来を含む宇宙の全運動までも確定的に知りえる』という因果的決定論からなる概念存在なのだけれど……、確かに今回の兎は明らかにその特性を持つでしょうから、ラプラスの魔と言えるでしょうね」


 そうして、ラプラスの魔についての簡易な説明を終えた常夜は、それに加えて、今回の兎とラプラスの魔の関係性についても簡潔に説明する。


「とはいえ、今回の兎の場合は、それに謎の次元跳躍能力と時間制御能力の特性も所持しているみたいだし、この世界ではそれに類似する存在は少なくはないから、ある意味その上位互換だと考えればわかりやすいかもしれないわね」



 そして説明されたその兎の存在は、端的に言うと、紅葉が指摘したラプラスの魔と呼ばれる周辺を観測する事で『未来予知』を可能とする存在の、上位互換であるらしい。


(いや、ラプラスの魔の類似存在が少なくないって事の方が気になるけど……)


 と、またしてもこの世界のヤバめな一面に気付きそうになった所で、現実逃避をして思考を逸らす事で正気を保った紅葉は、その逸れた思考の先に、別の不可解な事実に気が付く。


「あれ? でもラプラスの魔って量子力学的に否定されてませんでしたっけ?」


 それは紅葉の知る知識においてのラプラスの魔についてだが、そのラプラスの魔の存在に対する反証についても正確に知っているらしき常夜は、すぐさまその反証の反証を提唱する。


「ふむ? 貴方の知る量子学がどの程度まで進んでいるのかは知らないけど、単に観測学の面から言って『通常、原子は常に揺らいでるから幾ら観測しようとしても、観測者が把握する時には既に別の位置に移動してる関係で原子の位置と運動量の両方を知るのは無理』という事柄での存在否定なら、時空術師であれば観測の瞬間だけ周囲の時を止めて同時観測を可能にすれば可能だからラプラスの魔と呼ばれる知性、ないしその類似物についてはこの世界では存在可能よ?」


 その「原子は常に動いてるから観測して認識した時には既に別の所にいて実時間で正確に認識するのは無理だよ」という反証に対する「じゃあ時止めろよ」という理論は、常世界ではまず無理な仮定だが、実際に時をも支配して操れる、この創誓世界であれば、一般的に可能な理論らしい。


 そして、その時の操作を、一端とはいえ先程兎に直に味わわされた紅葉としては、それを信じる事も容易い。


「ん? あぁ、なるほど、時を止めて観測すれば原子位置と運動量を同時に知る事も可能なのか。やばい、異世界で論文出せるかも」


「その異世界に時空術式と同等の時に干渉出来る技術があれば、だけどね?」


 そうして、常夜はその存在が存在する事の出来る範囲は常世界における技術理論の範囲内に無い事を告げつつも、紅葉の目の付け所自体はかなり気に入ったらしく「でも確かに、あの兎をラプラスの魔の一種と考えて推定するのは良い案かもしれないわね」と、紅葉を評価し、それを実用的にも生かす。


「ふむ、では丁度良いし、それを元にあれの識別名称を付けましょうか。それだとニュアンスで伝わりやすいし、何時までもあの兎のままじゃ、情報の共有にも支障が出るだろうしね」


 そう言いつつ、常夜は少し頭を捻り、やがてぽんと手を打って、対象の兎の呼称を決める


「よし、では今此処に、あれの識別名称を観測する知性、即ち『観測知性』として、新たに国際指名手配犯に登録する事にしましょうか」


 そうして、常夜は今度は今まで全員で見ていた特殊な大型携帯端末の方ではなく、ノートパソコンの方を操作して、世界政府ヴィールドとしての国際指名手配登録を行い始める。



 それは、この兎狩りが、今この時を以て、本格的に世界政府ヴィールドの手元に入り、あの兎が世界全体から追われる事を意味するのだが……、紅葉には、その事よりも、より重要な懸念があった。


 それは、紅葉の常識的に言えば割と知名度が高いであろうラプラスの魔について、常夜と黄泉以外は恐らく誰も知らなかったと思われる事。


 そして何よりも……。


 常夜がそれを知性と呼んだ事である。



(……ラプラスの魔は、確かに元は神や悪魔なんかじゃなくて、ただの知性として呼ばれていた筈だけど……、もしかして常夜さん、ラプラスの魔の歴史的事実まで知ってる……?)


 そう、それは、自身に関する記憶が無く、恐らく何者かに召喚され、その記憶も知識として設定されていたであろう事が解っている紅葉にとっては、自身に関する情報の、極めて有力な手掛かりでも、あるのである。


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