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地の文「なんか私が見える小娘が主役みたいですよ?」  作者: 咏柩
第二章『咎人と断罪者』
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第二章第二十九話「狙われた対象とヤバめの兎」


 時刻は午前11時頃。


 画面に映った被害者リストに驚愕し、おもむろに立ち上がって叫んだ瑠璃に対し、そのリストを見せた常夜本人と、こっそりと聞き耳を立てていた周囲のテーブルからは「えぇ……」という感じの冷ややかな目線が送られるが、瑠璃は気にせず、「合ってますよね!」という感じの視線を、逆に常夜に送り返す。


 それに対して常夜は「あはは……」と、少し困り顔ながらも、それが実の所一部は正しい事を肯定し、実際の共通点を告げる。


「ま、まぁ、間違ってはいないわね。この世界だと、実力者は総じて顔が良くなる傾向にあるから……。直接的な共通点は被害者のランクよ、見てみて?」


「む、個人的にはこの世界だと実力者の顔が良くなるって事の方に興味がそそられますが……、共通点はランク、ですか?」


 そう言われた瑠璃が、画面に並べられた襲撃被害者の顔写真の右上に付けられた、この世界の戦力ランクに目をやると……。


「んん? ほとんどがS級って事ですか?」


「そうね、中にはAAやAAAも混ざってるけど、それは今回の戦闘での戦闘技能持ちの市民達や警察みたいに、S級の相手が狙われた時、戦闘に加勢した事による副次被害者よ。まず初めの襲撃は、そのほとんどがS~SSSまでのS級、特にSSランクが良く狙われているわ。被害者達の顔が良いのもこの為ね」


 それを聞いた瑠璃と紅葉は、自然と今回自分達以外で兎に狙われたライベリーの方に目を向けるが、それに対してライベリーは逆に瑠璃と紅葉の方を見て訝しむ。


「私は確かにSSランクですけどぉ……、えぇ? もしかして貴女達もなんですかぁ?」


「いえすいえすいえす。なるほど通りで強いと思った」


「なるほど、強いから美人巨乳なんですね。理解しました」


「この猫さんさっきから何処見てるんですかねぇ? セクハラで訴えますよぉ? 後、私、機械ですから見た目は単なる設計上のもので力とは関係ありませんしぃ」


「あり?」


 そう言われてみると、襲撃被害者の中には何故か頭が薔薇だったり、蟹だったりするなんか変なのが混じってたり、顔写真なのに顔らしきものがわからない、絶対全身は人型じゃないであろう謎生物がいたりもしているので、強いから美人というわけではないらしい。


 いや、その業界的に言えばこれも物凄く美人なのかもしれないが。


 そうした事柄に再び話を脱線させ、頭を抱える瑠璃に対し、今度は黄泉の方が、くすくすと少し笑いながらに、その現象を説明してくれる。


「まぁこの現象は異世界人だと意味不明よね。私も冥府出身だからわかるわ」



 そう前置きして、説明してくれた黄泉の解説によると、事情はこうである。


 まず、この世界の住人は少なからず、その創造者であるヤィヴュミの力の影響を受けており、その関係でヤィヴュミは善良な相手にのみ祝福を与えて、強大な力と美貌を与え、逆に邪悪な相手には一切の祝福を与えず、むしろ腐朽と劣化の呪いを与える為、善良な者は日々強く美しくなり、邪悪な者は日々弱く衰えていく状態にあるのだという。


 そして、その事から逆説的に外見が美しい者は無意識にヤィヴュミからの祝福を受け取っている可能性が高い為、能力も強くて性格も良い事が多く、外見が醜い者は呪われている可能性が高い為、能力も低くて性格も悪い事が多いのだという。



「と言っても、それはあくまでも後天的なものだから、先天的に強ければ見た目が悪く衰えていてもまだ強いって事はあるし、逆に見た目が良くても中身が悪いって事もあるわ。その辺は目安の一部にしかならないわね」


 更に言えば、そうした祝福や呪いは年月と共に蓄積されるものである為、元々の寿命が短い種族の場合はそうした祝福や呪いの効果をそこまで受ける事無く天寿を全うして死ぬ事も多いらしく、少なくともその蓄積効果は、この創誓世界で10年間以上生きなければ表立っては現れないという。


 とはいえ、逆に、この創誓世界で極めて長く生き続けている者は皆、その影響を多大に受けているという事なので、寿命の短めな種族でも、とりあえず10年間以上この世界で生きていれば、その祝福と呪いによる外見と能力の変化が表立って現れるという事でもある。


 それは確かに、単なる目安とはいえ一つの指標となるだろう。


(あぁ、どうもアリシアさんやレティアさんと言い、この二人と言い、他の街の人達と言い、なんか雰囲気が違うと思ったら、そういう事か……)


 その現象とこの世界の状況の一部を理解した紅葉は、それにより上位種ばかりで構成されたこの街の明るめな状況をも理解する。


 というのも、上位種族は基本的に寿命が長いものである。


 そうであるのならば、この街にいる上位種族達も、そのほとんど全てがその現象の影響を多大に受けているという事だろう。


 そして、そのほぼ全ての者の外見が美しいという事は、長い時の中、内面が悪くて呪いを受けた者は劣化して消滅し、内面が良い者だけが祝福を受けて美しさと力を保ったまま、もしくは本来よりも大きく増強されて生き残っているのだろう。


 そう考えれば、この街で見た者のほとんどの見た目が美しかった理由は、これで説明できる。


(まぁ、まだ、なんでその上位種ばかりがこの街に集まってるのかとか、下位種族は何処に? とかいう謎はあるんだけどね……)


 そうして、一を聞いて十を知る紅葉とは違い、とりあえずこの世界ではだいたい強けりゃ美人で性格が良いんだなとだけ理解した瑠璃は、話を戻して画面を見る。



「しかし、まさか美男美女を狙う変態兎だったとは、流石に私もキレました。今度見つけたら確実に消滅させます」


 そうして、常夜の携帯端末を指でスライドさせながらに、襲撃被害者のリストを見る瑠璃は、そこで何かの火が付いたらしく、討伐に意気込み始める。


 確かに、それを横で見ていた紅葉としても、副次的なものとはいえ、強くて美人で性格の良い相手が集中的に狙われて襲撃されているのには、はっきり言って良い気はしない。


 いや、それどころか感情の薄い紅葉でさえ、その心には、瑠璃と同じ様な憤りが芽生え始めている。


 ……もっとも、襲撃による死亡率はかなり低いらしく、数千件の襲撃と共に、巻き込まれた者も含めて数十万の被害者が出ている割には、何ページめくっても死亡者がおらず、時折カラーの顔写真が遺影の如くモノクロになっているのを見つけて、死亡者を確認してみるも、よくわからない変な生ものである事が多い為、今の所そこまでは怒りが湧いてこないのがある意味救いではあるが。


(でもこのまま放置すればいずれは犠牲者の中から死亡者も出るんだろうし、瑠璃は絶対ほっとかないよね。……私としてもあの兎は殺しときたいし)


 その紅葉の感情は、瑠璃の時と同じく、とりあえず謎な邪魔者は消しておきたいというだけのものだが、思惑は違えど目的は同じである為、内心紅葉も兎の討伐には極力協力的な形で姿勢を固める。


 そうして、二人が兎の討伐に意気込んだ所で、隣からやはり気怠げなライベリーが話しかける。


「うーん、兎を煮るなり焼くなりするのには私も協力しますけどぉ、実際兎の能力がどんな感じかはまだわからない感じですかぁ? 戦力ランク的には私でも勝てる感じだったので同じSSぐらいだと思いますけどぉ、お二人から逃げれてる辺りで絶対ヤバめの特殊能力持ちですよねぇ? まずそこどうにかしないと倒せなくないですかぁ?」


 そうして話すライベリーは言動こそだらしなさそうなものの、実際にはこれまでの全ての話を正確に把握しており、その上で頭もかなり回る方らしく、どうすれば兎を倒せるのかの対策すべき点を的確に突いて来る。


 そして、それを指摘された常夜は「そうね。少なくとも時空術師で空間転移能力者だという事はわかっているけれど、具体的にどんな能力を、幾つぐらい持っているかはまだ明確にはわかってないし、襲撃被害者の中には数百人程度とはいえ死者も出ている様だから、政府側としては襲撃対象になる相手の避難の方が先決だったりするのだけれど……」と、政府側の優先事項を述べつつも、現状わかっている範囲での、兎の特殊能力の性質を教えてくれる。


「どうも観測システムからのデータによると、あの兎は周囲の物理的、力学的状態を高精度で把握、解析する事で疑似的な未来予知を行って危険を避けている様ね。それを踏まえると、被害に遭った他の国で私達みたいなのに討伐されなかったのは単なる運や偶然ではなく、それも疑似的な未来予知で予測して避けてたからって事かもしれないわね」



 その常夜がさらりと明かした兎の能力に対し、それでも対抗の仕様があるらしき黄泉は「ふむ」と、顎に手を当てるだけで済ますが、それを聞いたライベリー本人と、実はそれと似た様な能力を知っている瑠璃は、その厄介さに「うぇ……」と、眉を顰める。


 『未来予知』。仮にそれが兎の権能であり、そこに先ほど挙げた時空術式による時間操作と、転移能力による超長距離移動が合わされば……。


 およそ普通の能力者に、あの兎を捕らえる事は、不可能なのである。


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