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地の文「なんか私が見える小娘が主役みたいですよ?」  作者: 咏柩
第二章『咎人と断罪者』
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第二章第二十七話「事情聴取と指名手配犯」


 時刻は午前10時過ぎ。


 場所は緋煉皇国、首都『禊祓』。



 その第一商業区南東部にあるライベリー・シジギウム・アストラーレ10式の個人珈琲店にて――



 瑠璃と紅葉は、店主ライベリーと共に軍、もとい国の王たる国主、黄泉その人に事情聴取を受けていた。



「なるほど……、全くわからないわね」



 そう言ってテーブルに片腕で頬杖を突く黄泉の隣では、常夜がノートパソコンを使って、片手でそれらの会話を速記しつつ、もう片方の手でタブレットパソコンに似た、画面の横に幾つかのダイヤルやシェーダーが付いた俎板まないた状の特殊な大型携帯端末を操作している。


 恐らく今回の敵のデータを纏めた資料を作成しているのだろう。あの兎に関する情報となる単語が会話に出て来た時だけ操作する指の動きが速い。



 今、それと同じ様な形で、情報提供者達から話を聞いている警官が周囲には複数おり、皆各々にこのカフェで注文しつつ資料を作成しているようだ。


 それによって、周囲を見渡してみれば、何時の間にやらライベリーの珈琲店は、先程の戦闘に参加していた色物高ランクの集団とそれから情報提供を得ている警官達で埋め尽くされ、臨時作戦場と化している。



 それにより、元々広くゆったりとしたカフェだったので、そこまでの狭苦しさは感じないものの、そうした警官達の物々しさと、情報提供を行う色物集団の珍妙さで混沌としており、すっかり先程までの憩いの雰囲気は無くなってしまっている。


 幸い、そうした警察と後から来た軍の実働隊は周辺の後片付けに尽力している為、このカフェの中にいるのは色物達と常夜が連れている数人の兵士を除けば文系の警察官のみなので、物騒さだけはそれほど感じられないのがまだ救いか。



「つまり貴女達は昨日やって来た異世界人で、昨日もあの兎と戦ってて今日もまた見つけて悪さしそうだったから攻撃した、と……、そんなことあるの?」


「そう言われましても……」


「嘘は付いて無いし、悪意も無い、か。まぁいいわ。それで? 貴女の方は御巫の創ったアンドロイドみたいだけどやっぱり心当たりは無い?」


「あの兎とは初対面ですしぃー、普段は姫城機械工業の方で機械弄ってるか、この店でこうやって接客してるだけなので特に狙われる理由もないかとぉ?」


「まぁそうよね。となると、あの兎は単なる無差別犯、通り魔の類だったのかしら? 大会議で人手も不足してるというのに、また面倒なものが来たものね……」


 そうして一通りの事情聴取を終えた黄泉は、テーブルに頬杖を付きながら、この店で頼んだコーヒースライムのカフェオレ漬けなる面妖な飲み物をストローで啜りつつ、頭が痛そうに片手でこめかみを押さえる。


 そのかなり気さくな対応と、見た目や重圧に反してなんだか話しやすい雰囲気に釣られ、今度は紅葉が黄泉に質問してみる。


「っていうか、なんで国王様が自ら事情聴取なんかを?」


 ちなみに、この世界では役職や身分で違いはあれど、そこに上下関係的なものは無いらしく、下品な言動でない限り誰でも友人口調で良いのがデフォなので、紅葉もそれに則っている。


 元より、この世界の上位階級で、そんな上下関係の押し付けを行わなければ自身の威厳も保てない様な存在は、上位者として相応しく無いのである。


 それを現わすかの様に、黄泉は紅葉に対し、あくまでも友人の様に、対等な関係にまで降りて来て、話す。


「黄泉で良いわよ? そして、何故私自らかと言うと……、一言で言えばあの兎が異常だからよ。私から逃げられる、なんて事、本来は在り得ないわ」



 そうして黄泉が話す事柄は、何も尊大や慢心などではなく、ただの純然たる事実である事は、瑠璃や紅葉を含めた誰から見ても疑いようはない。


 それ程までに、一般的な生物とこの黄泉と呼ばれる存在では、次元が違い過ぎるのだ。



「あ、私の手間についての質問だったのなら、ここにいる私は神格本体じゃなくて分霊体、いわば分身みたいなものだから、執務時間とかは気にしなくて良いわよ? 仕事の手が足りなければ、本体側の私がこの都市にいる限り、ある程度は自由に分裂して増やせるしね。執務に関しては何も問題無いわ」



 ……訂正。次元が違う以前に、そもそもまともな生命体かどうかすら怪しい。



 そうして、紅葉や瑠璃、時々ライベリーが暫く黄泉と他愛のない話をしていると、情報を纏め終わったらしき常夜が、黄泉の肩に手を置き、口を開く。


「ふむ、兎の情報が纏まったわよ。おかしいとは思ったけど、やっぱりただの賞金首じゃないわね、あの兎。これ見て、ヴィールドのデータバンクのものなんだけど……」


 そう言いながら、常夜が黄泉に見せた特殊な大型携帯端末には、役所の解り難いパンフレット地図と同じ、簡略化された図形と線と文字だけで表された、この世界特有の地図が映し出され、その内の幾つかの文字だけが、赤く染められている。


 それを見た黄泉は、やはりそれはこの世界特有の地図だからか、その内容をすぐに理解出来るらしく……、


 そのパズルピースかステンドグラスの様な幾何学的背景線が区域で、図形が地図記号、文字が地名や場所名である事を読み取り、その中の赤文字で記された国が、今回、兎に賞金を懸けている国である事を資料を見ながら確認しつつも、その地図と、その横に記された賞金リストを見て、ある決定的な不自然さに気付く。


「うん? なにこれ、複数の国が懸賞金を掛けてる……、ってだけじゃないわね。掛けてる国が場所も地域もバラバラで何処も一つに纏めてない……。しかもこれ、

中には大国も混じってるみたいだし、本来なら国際指名手配なんじゃないの?」


 そう黄泉が指摘する画面の中の国々は、その数だけでも数千におよび、その兎による被害が凄まじいものである事がわかると同時に、その懸賞金はどれも、黄泉が指摘した通り、各国がそれぞれ個別に出しているだけのものだった。


 そうでなくとも、この世界での大国の権限は絶大であり、もし大国がヴィールドに国際指名手配を申請すれば、それは余程の特例案件でもない限り即刻受理され、その対象は世界中から追い回される事になるだろう。


 だが……。


 そう、何処も、国際指名手配、してないのである!!


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