第二章第二十四話「これは勝利か敗北か」
※今回の戦闘では、兎の魔法でみんな認識時間は10倍になっている所を瑠璃が時空加速で行動速度だけ無理無く加速させている為、本来は1/10倍速になっている筈のみんなが10倍速で動いて普通になっている状態になります。
(皆さん! バリア・フィールドの内部空間に10倍速の時空加速を付与しました! これで通常通りに戦闘可能かと! ただし、物理法則が変わってくるのでその辺は注意してください!)
(おー! やるじゃない☆)(うむ! 助かるっ!)(度々サンキュー! 誰だか知らない猫の嬢ちゃん!)
そうして、瑠璃による時空加速魔法が付与されると、元々身体加速などの何らかの能力で対応していたと思われる者も含めて周囲から親指を立てる形での一部有言、ほとんど無言のグッドサインが贈られる。
また、異界とこの創誓世界ではハンドサインの意味が異なる場合もあるが、そのサインの意味は瑠璃も理解した様で、瑠璃も同じく、兎の周囲で戦闘を繰り広げるメンバーに対して親指を立ててグッドサインを送る。
まさに奇天烈集団が結束した瞬間である。めでたい。
が、特にそれで兎の脅威が去ったわけではないので、引き続き戦闘は続行して、機動警察の隊長と思われる人物が皆に聞こえる形で警察の通信部隊に確認を取る。
そう、コールレッドのアナウンスでも触れられていたが、こちらにはまだ奥の手として強力な援軍が存在するのである。
……それも、比喩ではない、本物の軍の援軍が。
(こちら機動隊長。通信班、軍が来るまでは後何秒だ?)
(こちら通信班、実時間では約90秒です!)
(だ、そうだ。後90秒持ち堪えればこちらの勝ちだぞ!)
(いや、実質900秒で15分かよ! 意外ときついぞそれ!?)
そんなギャグみたいなやり取りをしているが、コールレッドが発令され60秒以内に到着する筈の機動警察が到着したのが約30秒後、軍の到着は180秒以内の筈なので、機動警察が到着した時点で残り150秒。そこから今までの戦闘が約1分間の攻防である為、そこで60秒が過ぎ、残り90秒で実際妥当な時間だったりはする。
とはいえ、先程までの通常戦闘ですら、例え優勢ではあっても兎に決定打を打つ事は出来ず、逆に相手の未知なる攻撃による多数の負傷者が出たのだ。
それを、認識時間の遅延状態という相手のフィールドで戦えば、幾らここにいるのが先程の一般市民とは違うSランク市民と機動警察という名のやたらとハイテク装備な重装甲警察軍だとしても油断はできない。
そして、それに気付いており、元々兎の時間減速も効いていなかった上で瑠璃の時空加速を受けたライベリーや猛毒の魔女、醤油御前などの数人は軍の到着を待たずして早期に決着を付けようと、連携して兎の本体に襲い掛かる。
「魔女さんと醤油さーん、雑魚は私が吹っ飛ばしますからぁ、本体の方狙ってくださぁーい」
「承知! そっち誘導するでござるよ毒女!」
「あっはっはっはっはっはっ!! 良い! 良いわねぇ!! 切り刻め!!!! ≪咎人のチェーンソー≫!!!!!!!!!!!!」
だが……。
そうした幾人かの攻勢が兎に届くより前、実質、現実時間で1秒も経たない内に、……また、異変が起こる。
―シュン―
遠目に正規軍の航空輸送強襲機と思われる赤い機体が複数見えた段階で、瑠璃のターゲッティングに揺らぎが生じ、本体である兎の姿が掻き消えたのだ。
そして、その後、数瞬もしない内に、他の兎も次々に姿を消す。
「!? 魔力探知!!」
ターゲッティングを行使していた瑠璃とそれに合わせる形で術式を共有していた一部の観測魔導師達はいち早くその揺らぎに気付き、様々な方策による集中探知を行使するものの、ターゲットは見つからない。
(!? 消えたっ!? どこ行ったの!?)
(おや? 拙者は今斬り結んでた筈でござるが……)
(なんだ? 兎野郎どこいった?)
その対象消失は当然ながら実際に戦っていた近接部隊も同様であり、現場の全員が兎を探すが、それとは別に都市システムからアナウンスが入る。
――敵性反応の消滅、及び異常魔力力場の減衰を確認――
――都市防衛システムを戦闘態勢から警戒態勢へと移行――
――無効化システムを減衰に合わせて解除します――
――戦闘終了です――お疲れ様でした――
――よきにはからえ――よきにはからえ――
現場の臨戦状態とは別に、流されるアナウンスは戦闘終了の知らせ。
その妙に間の抜けた声は、本来であれば戦闘で緊迫した現場の雰囲気を和らげ、平時へ戻す為のものなのだろうが、今はその声が逆に不自然で不気味なものにしか聞こえない。
そんな中、現状を正確に確認する為、機動警察の隊長が未だ加速魔法で10倍速化している自身の身体を押さえつつ、小型の拡声器を持ち出して周囲にも聞こえる様に機動警察の観測班と周辺観測魔導師に状況を確認する。
「こちら機動隊長! 機動隊観測班及び周辺魔導師の諸君! 敵影の報告を!」
「わかりません! 反応、ロストしました!」
「同じく! 集中魔力探知に引っ掛かりません! 生命力もです!!」
その確認に応じ、近くの機動啓作観測班と周辺魔導師の一人がロストを報告したのを皮切りに、次々に広場の各所に配備されていた機動警察観測班と独自に敵影を観測していた周辺魔導師から肉声やジェスチャーでロストの報告が上がり、そして最後に、機動警察の中核と思しき戦闘装甲車から、周辺のビルのモニターを通じてロストの報告がなされる。
「こちら観測機動車。こちらも同様です。対象は都市衛星からも都市内探知機からもロストしています。データ上はもうこの都市にはいないものかと……」
申し訳なさそうに帽子を目深に被りながら画面に映る技術主任らしき警官の女性の隣には、彼女の話した通り都市衛星からの航空画像と都市内探知機の検索範囲を現わすと思われる幾つものピンが立ったこの場所の地図が映し出されており、対象の完全ロストが確認される。
「!? ほんとでござるな……。なんとも面妖な……」
「は? 嘘でしょ? ここは都市の中心部よ? 逃げたっていうの?」
「うぅん? 確かにぃ、データを見る限りではいませんねぇ?」
「えぇ……?」
戦場にいた皆がその不可思議な現状に混乱する中、けたたましかった警報は徐々に鳴りやみ、周囲に静寂を満たす。
そしてそれと同時に、空からは多数の緋色の戦車や装甲車と共に、それらと同じ緋色の羽織袴に緋色の鎧を着けた武者集団が降って来る。
―ドガガガッガッ―ガッガッガッ―ベキッ―ギィイイイイイン―
そのパラシュート無しのフリーフォールによる強襲着地は、轟音による騒音被害と多数の器物破損を伴いながらも、多数の兵員を瞬時に展開させ、その迅速な陣形構築は混乱した戦場を一気に堅固な包囲陣地へと変える。
が、そうした目を見張るような瞬間陣形戦術も今は虚しく、速攻で立て直され、要塞化された広場の中には、最早敵の姿は何処にもなく、戦っていた者達を守る様に着地、展開し、抜刀していた武者達も何を相手に戦えば良いのかわからないので、周囲に目をやり、警戒しながらも、次の行動を起こせずに立ち止まる。
………………敵の姿を見失っているのだから当然ではある。
そうした状況の中、強襲用航空機から落ちて来た落下物の中で、最も大きな御輿の様な形をした陸上要塞の天辺に立っていた、指揮官らしき巫女服姿の女性が口を開く。
「こちら緋煉軍、なんだけど……、一足遅かった……?」




