第二章第二十三話「しぶといぞこの兎」
瑠璃のターゲッティングによる本体割り出しが成功した直後、ライベリーを始めとした複数人が間髪開けずに本体を狙って強襲をかけ、その後、本体の護衛と瑠璃の攻撃に回った兎に対して、瑠璃の防御側に回った少数の防御集団を除く、全ての人員が本体側の攻撃に殺到する。
その完璧な動きに、ようやく兎が仕留められるかと思ったその矢先……。
――ジジ……、ジジジジジジジ……――
本体を含む、何匹かの兎が、その目を赤く光らせ、戦闘とは全く関係の無い位置に跳ぶ。
それらは一瞬、何の挙動かわからなかったが、その場にいるものの中でも、特に魔法に長けているであろう数人の顔に焦りが浮かび、更にその数人の中でも、行動の早かった、猛毒の魔女と瑠璃が、咄嗟に魔法を放つ。
「---ディスペル・マジック---!!」
「---バリア・フィールド---!!!!」
……その二人によって放たれた魔法は、一つは魔法の無効化魔法。もう一つは、周囲の陣営も含めた、その場の全員に対する、防御障壁魔法。
これらは双方共、正常に作用し、その場にいた者達を守るが、それでもその場の環境は変質する。
/(なんだ? 急に周囲の感覚が……)/
/(くそっ! あの兎、また何かやりやがった……!)/
それは強力なデバフにも似た、肉体が動かなくなる感覚。
だが、それも束の間、すぐさま、先程から警報と共に流れていた都市アナウンスと同じ声で、都市システムからの支援が行われる。
――アンチ・フィールド展開――
――完全無効化、不可。実時間差異、10倍と測定――
――思念回線をオンにします――
――体感高速化を付与します――
(((((!?)))))
(都市からの思念回線に体感高速化だと!?)
(今のは時間系統の術式か!)
(時空術師かよ、この兎!!)
「え ? な に ? み ん な の 意 識 が わ か る ?」
(おい、肉声で喋んな! たぶん今、俺らの時の流れが遅くなってんだよ!)
【都市システムによる思念回線リンクと体感高速化が働いているので、皆さん念話でお話ください! 肉声では認識速度の関係で長引いて聞こえます!】
そうして、会話に混ざる形で機動警察から都市システムによるバフの説明と注意が行われると、全員、(了解!)(そういう事か! 心得た!!)と即座に了承し、兎への攻撃を再開する。
また、機動警察による思念統制が入った後は、先程と同じく、話しかけるつもりで考えない限り、周囲には伝わらなくなったらしく、思念の混在は収まり、戦闘用の掛け声以外は聞こえなくなる。
(……とは言っても、身体の動きが遅いのは変わらないんだよね……。無理に加速させればさっきまでと同じ感じで動けるけど、体力消費が激しい……)
それは誰にも聞こえる事の無い紅葉のみの感想ではあるが、同系統の時空術式が使える瑠璃などの一部の例外を除いて、周囲もほとんど同じ感想らしく、更にその中の一部の戦闘員は特に疲労が濃そうに見える。
そうでなくとも、兎の側はまたもや作戦を変更したらしく、今度は逃げ回る本体を守る様に、他の兎が捨て身の盾となって行動しており、ターゲッティングされた本体を狙って周囲が次々に攻撃を仕掛けるも、どうにも上手く行かない。
それどころか、その兎の本体は徐々に広場の端の方へと移動し始めており、このままでは、包囲網の一部を喰い破って逃げられかねない。
いや、それ以前に、瑠璃が全員に防御障壁を張り付け、猛毒の魔女が、兎が自分自身に放った高速化のバフを打ち消していなければ、既に兎は陣形に膨大な被害を齎した上で逃走していた事だろう。
そんな中、瑠璃は、(それなら!)と心の中で叫び、肉声で術式を発動させる。
「時 空 加 速 ! --- タ イ ム ス ク エ ア ・ ア ク セ ラ レ ー ト ---!」
それは高度な時空高速化の術式であり、瑠璃の声と共にその術式は、近接戦闘を行っていた者達を薄い皮膜の様に、加速空間で包み込む。
そう、時間が遅くて身体が遅くなるなら、時空の動きそのものを早めてしまえばいいのである。
[一口メモ!]
時間速度と時空速度の違いについて。
時間速度とは、時の流れを感じる認識速度の事。
時空速度とは、その空間に流れている時の速度の事。
なので、
時間加速or時間減速
→対象の時間を変化させ、対象の認識時間や行動時間を早めたり遅めたりする力。
時空加速or時空減速
→対象の空間の時の流れを引き延ばしたり、縮めたりする力。
になる。
実時間では身体の動きが速くなったり遅くなったりしている事は同じで、どちらも身体加速or身体減速などでの対応が可能だが、認識に作用する所と空間に作用する所で違いがある。
尚、本来であれば対象に付与する場合は時間加速の方が良かったりするが、瑠璃は次元術師なので、時空は操れても時間は操れなかったりする。
また、瑠璃を始めとしてこの戦闘中の何人かには兎の時間減速が効いておらず普通に動いてたりするが、大半の人物には多少なりとも効いている為、聞いている側からすると、声を含めた周囲の音は間延びしている。




