第二章第二十一話「汝は不審者なりや?」
「っと、思った以上に乱戦ですね。っていうかあの兎増えてません?」
「増えてるね。代わりになんかとろくなってる気がするけど、見た感じ30匹前後の数が戦ってる……?」
瑠璃と紅葉が、合流直前の機動警察より少し先に広場の戦場に到着し、名乗りは上げないものの、他の色物集団の真似をして周囲の包囲網を飛び越えて乱戦に参加し、陣形の近くで控え目に乱戦に参加した所、兎の攻撃パターンは前回とはかなり違っており、武器の持ち替えはせず、多数となった兎がそれぞれの攻撃パターンで連携しながら、局地的に周囲に一対多の戦いを強いていたのだ。
勿論、全体としては多数派である警察や市民達は、周囲を包囲しながらも広場に制圧射撃を仕掛けており、その中でも実力に自信のある者が兎に近接戦を仕掛けているのだが、この兎には瑠璃と同じく回避不可能な攻撃を加えなければダメージにならず、尚且つ近接戦においては、兎の側が分裂して複数で一人を攻撃している為、どうしても相当強い近接技能者でなければ劣勢に陥ってしまっている。
(中央で兎と戦ってるのは市民数名、警察数名、後は全部よくわからない変なので、合計十数名。それに対して兎はやっぱり三十匹弱だから、ほぼ二対一か三対一になってるのか……)
とはいえ、兎も決して無傷というわけでは無いらしく、辺りには何匹かの毒濡れのバラバラで紫色になって惨死している兎や、醤油臭い黒い液体を身体中から噴き出しながら焼死している兎、斬撃の最中に内側から爆破されたかの様に不自然に綿を撒き散らして爆死している兎などが、破壊された防衛兵器の残骸に混じって至る所に見受けられる。
その屍を見て、紅葉はそこにいる者達の強さに感心するものの、現場自体は複数の兎との戦闘と、兎を狩る者達の中に多数入り混じった、見た感じ変態っぽい色物集団の珍妙さで妙に混沌としている。
「こちら臨時警邏本部! 指揮系統を機動警察本部に引き継ぎます! 警邏各員は今より機動警察の指示に従ってください!」
「こちら機動警察本部! 引継ぎ了解! 各員は前線の防衛兵器を機動警察のものと置換しつつ、引き続き兎に攻撃を続行してください!!」
「ちっ! こいつは分身か! どれが本体だ?」
「うぅむ。ま、とりあえず全部殺せば良いでござるな! 斬るでござる!!」
「おで! 正義! 悪人! 殺す!!」
「いいぞ! 君も一緒に! ジャスティスパーンチ!!」
「げぇ!? 独善集団プロトメシア!? おい! こっちの包囲はあいつらに押し付けるぞ! 巻き込まれたら最悪だ!!」
「わぁ! 悪人っぽいのがいっぱい出て来たよお兄ちゃん!」
「こらこら、見た目で人を判断しちゃ……、いや、言動も悪人っぽいな。えーと、法律の範囲内だから大丈夫なんだよ。たぶん」
「うむ、そうだな! 彼等は法の範囲で行っている。故にあれはまだ多様性の範囲なのだ! 許せるっ!!」
警察や傭兵、女武者らしき市民と共に、多数紛れて戦う色物集団。
それはムキムキマッチョの巨人族に、戦隊ものの衣装を身に纏ったバイク乗り、小さい幼女をお兄ちゃん呼ばわりする子供っぽい言動のハンサムガイに、ずいぶん大人びた印象の小さい幼女。そして白の褌一丁に超出っ歯な兎の着ぐるみマスクを付けた腕だけムキムキの小太りの男だったりと様々だ。
そんな集団の中で、瑠璃と紅葉は早速連携して一匹の古びたライフルを持つ兎を挽肉にした所で、周囲の砲台や防衛兵器から放たれる砲撃と爆炎を潜り抜け、先程別れたウェイトレスのお姉さんに合流する。
「へい、そこの彼女。苦戦ー、は、してないみたいですけど、加勢しますよ」
「いや、なにその軟派口調。あー、っと、すみません、そこのウェイトレスのお姉さん、折角なので一緒に戦いませんかー?」
そうして、流れ弾として飛んできた砲弾を軽く払い除けながら近づいて来た瑠璃と紅葉に対し、ウェイトレスのお姉さんは兎に放たれた魔力弾をはじき返しつつ、振り向いて返答する。
「うん? うん? おやぁ? さっきの上客……、もといお客様じゃないですかぁ。どうかしましたかぁ?」
そうして、振り向いたウェイトレスのお姉さんの体裁きは、その華奢な体に似合わず、かなり豪快で重々しく、振り向き様に一閃して兎を弾き飛ばした後、瑠璃と紅葉の下にふわっと飛んで来たかと思えば、着地の際には金属で舗装された地面がメキッと凹む程に、装備全体が重量感溢れる。
(む、近くで見ると思った以上にでかっ……、っていや、でっか……!!)
その重量感は、何も装備だけでなく、身長も、そして胸もである。
周囲に5mぐらいの人型防衛兵器や2m越えの種族が多数いた為、気付き難かったが、その170cm後半の身長と、90cm超えのバストは間近で見ると圧巻を感じる。
「いや、なんか狙われてたみたいですし、護衛しようと思ったんですけど……」
「えっと、初めましてじゃないし、さっきぶりです? えーと、私は風祭紅葉って言って、こっちの猫の子は御砥鉈瑠璃って言うんですけど……」
その、自分を護衛しようと追って来たであろう、見た目的には子猫と子犬の二人に対し、ウェイトレスのお姉さんは少し心を撃ち抜かれつつも、戦場の常として、自らの瞳に仕込まれたエーテルネット回線を使用して容赦無く敵味方識別をかけてから、二人がジャンク・ファーストに登録されている二人組だと知ると、ようやくある程度警戒心を解いて話し始める。
「ふぅん? ジャンク・ファーストの新入りさんなんですねぇ。でも二人共Unknown。なんか謎い二人組ですねぇ……」
それは誰に話すでもない独り言の様な呟きだったが、それを聞いた二人は同時に耳を伏せて、内心の警戒度を露にする。
(!? 何で知ってるの!?)
/(! 何らかの探知魔法ですか……?)/
そうして、謀らずとも二人が逆に怪しさを出した事で、その更に逆にそういうのが好きなウェイトレスのお姉さんは小さく「にしし」と笑い、面白気に唇に人差し指を当てつつ、自身も自己紹介を行う。
「あ、私はライベリー・シジギウム・アストラーレ10式ですぅ。気軽にライベリー様って呼んで下さーい」
……が、それは彼女的にはとても妖艶で格好可愛い自己紹介のつもりだったが、瑠璃と紅葉はその自己紹介を聞いた時点で半眼となり、瑠璃が無言でそのまま携帯端末を構えて写真を連写し始める横で、紅葉がライベリーの率直な評価を下す。
「あっはい。貴女もあの色物集団の一人なんですね。わかります」
「…………って、なんでですかぁ!? ぶっ飛ばしますよぉ!?!?」
「とても理不尽!!!!」
そうして、顔を真っ赤にして涙目になったライベリーは、ぽこぽこと軽く紅葉を殴るが、これはこれで仲良くなった様である。




