第二章第十八話「再戦は突然に❤出やがったな兎野郎!」
――カカッ――
――バチィッ!!――
平和な店内に唐突な投擲と魔法による電音が響き渡る。
それにより注目の集まる箇所は二つ。
一つはそれらの音の発生源。つまりは、反射的にナイフを投げ付けた紅葉と電撃魔法を放った瑠璃のいるテーブル。
もう一つはそれの炸裂箇所。
つまりは、今しがた、ウェイトレスのお姉さんを後ろから撃とうとしたものの、紅葉が投げた二本のナイフによって木製ライフルの薬室と引き金が破壊され、瑠璃の電撃によって服の焼けた殺人兎に注目が集まる。
そして、そのタイミングを見計らったのか否か、瑠璃が多少重めの声で、相手の素性を叫ぶ。
「こんなところで何してんですかね。賞金首!!」
――!!!!――
瑠璃としてはそれは周囲の客や狙われたウェイトレスの避難を狙って叫んだものと思われるが、そこから先の周囲の対応は思った以上に早かった。
――ガシャッ! ガシャシャ!!――
即座に全員が臨戦態勢に入り、動きやすい通路に出たり、椅子、机の上に乗って地形を確保した上で、近くの重装備者の盾の後ろに隠れたり、柱や倒したテーブルの後ろに身を潜めつつ、身分証を取り出し、相手の身分を確認する。
「! エネミー!」「敵だ! 殺せ!!」「全員! 陣形を整えろ!!」「敵襲! 敵襲ーーーー!!!!」「警報を鳴らせ!! 防衛装置を起動させろ!!!!」
――ギギギギギィン!!――ドンッドンッドンッ――ゴゥンッ――
――ヴヴヴヴヴン――ヴヴヴヴヴン――ヴヴヴヴヴン――
一瞬にして剣戟と銃声が吹き荒れ、けたたましい警報音と共に一部のシャッターが開いて、身長3m程の人型防衛兵器が目を光らせて起動し、妙に甲高い声で警告と共に20mm対地対空機関砲を構える。
『敵ヲ認識シマシタ! 消エ失セロ!! クレーマーァアアアアアアア!!!! テメー等害悪ナンゾ、客ジャネーンダヨ!!!!!!!! アアァァアァアアン!!??!?!?! ゴルァアアアァアァアアア!!!!!!!!!!!』
――ギャルルルルルルルルルルルルルルル!!!!!!!!!!!!!!!!――
訂正。警告ではなく宣戦布告であり、構えただけでなく撃った。
とはいえ、それもその筈。
この世界では、問題を起こした場合にはまず武力鎮圧という方法が執られるのに加え、通常であれば、その後、加害者には1週間未満の刑事略式裁判によって刑罰や階級降格が与えられるのだが、今回の場合は元々無産階級以下の非知性体である犯罪者が知性体である善良な一般市民へ攻撃を仕掛けた為、非知性体の側は完全な敵として確定し、この戦い自体が単なる害獣駆除扱いになっているのである。
あの兎が本当にクレーマーかどうかは定かでないが、少なくとも、民衆に害成すゴミの処分に、一体何の配慮や憂いがあるだろうか。いや、無い。
そうした事情により、人々はその防衛兵器と周囲の味方を考慮しつつ素早く陣形を整え、敵性存在への攻撃を繰り返す。
「喰らえ! ---オーラナックル---!!」「ウェイトレスさんはこちらに!! ---プロテクトシールド---!!」「「店から出てけ! ---ラピッドシュート---!!」」
その流れは非常にスムーズで、入口近くの席に座っていたOLのお姉さんが兎に殴りかかったと思えば、即座に大盾を持った重装騎士が兎と狙われたウェイトレスとの間に割って入り、そこにすかさず二人組の女子高生が銃撃を入れる。
店内では、奥から出て来た防衛兵器を中心に陣形が敷かれながらも、結界術師と思われる他のウェイトレスによる結界と付与術師と思われる青年による多重障壁が張られ、その内側から陣形を組んだそれぞれのテーブルの客が邪魔にならない程度に周囲に補助魔法を飛ばしつつ、兎への遠距離攻撃を敢行する。
その流れに沿って、瑠璃と紅葉もウェイトレスのお姉さんを守る形で兎に近付き、転移した瑠璃が大盾を持った重装騎士の後ろから魔力砲で兎の頭を吹き飛ばした上で、紅葉がそれに追撃する形で突貫し、兎の胴体に零距離での散弾を放つ。
とはいえ、その攻撃はどちらも致命傷には至らず、瑠璃の攻撃は兎の片耳を吹き飛ばすに留まり、紅葉の攻撃は奇妙な形でバックステップした兎の身体に幾つかの火傷を負わせるに留まるが、一応、周囲の援護射撃と合わせてある程度のダメージは入った様に見える。
そこで兎は虚空から二本の錆びたナイフを取り出し、今度は瑠璃と紅葉に挑もうとするが、その直後、兎は周囲の攻防の間に大盾の重装騎士に隠れつつカウンターの裏側からロケットランチャーを取り出していた狙われたウェイトレスのお姉さんによる爆炎で外に押し出された上、兎をターゲットとして追っていた防衛兵器からの剣撃が入る。
そこから先は、兎が店の外に出た所で、店内の幾人かが賞金首の存在を呼ばわりながら追撃し、周囲の市民達と協力しつつ広い通路とその先の広場に誘導する様に銃撃と砲撃、そして術式攻撃を繰り広げて、兎を広場へと追い立てる。
その最中。それらの攻撃をある時は避け、ある時は弾く兎の様子から、その戦闘力が割り出され、対抗出来ないと感じた者は徐々に後方へと下がり、逆に後方からは、騒ぎを聞きつけて加勢に来た戦闘に特化した市民達が前へと進み、次第に戦線を構築していく。
これら全ての動きが、事の発端より約数十秒。
何時の間にやら、店の近くの広場には防衛兵器を中心とした戦線が敷かれ、その中心では幾つかの特殊な型の防衛兵器と戦闘特化の市民による連合軍が兎との間で猛烈な戦闘を繰り広げている。
「……わぁお」
「熟練具合が精鋭並みですね。これは……」
その様子を、狙われたウェイトレスのお姉さんを守りながらも遠巻きに見ていた瑠璃と紅葉は感嘆の声を漏らす。
街行く市民全員が、精鋭兵並みの練度なのである。




