第二章第十四話「救世魔界アウクシリウム」
時刻は午後12時。
丁度日付が変わろうとする頃。
レティアによる瑠璃の素性が一通り話し終えられると共に、先程の戦闘で破損した部屋の調度品なども復元し終わり、元の豪華なホテルの一室が姿を取り戻す。
そこで、二人はレティアの入れたミルクティーで喉を潤しながらに、ソファーに座ってレティアの話を熱心に聞いていると、その概要はこうである。
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まず第一に、瑠璃を召喚した双極と呼ばれる二人の魔界神は、元々彼女ら自身もフィルギスディアと呼ばれる魔界の奥地にて、行き場の無い少数民族達からなる、流浪の民が助けを求めて召喚した、特殊な世界システムであるという事。
そして、彼女らは、召喚されてから暫くは流浪の民と共に安寧の地を求めて魔界各地を放浪していたが、三年程前に事情が変わり、自分達が初めに召喚された場所、フィルギスディアを中心に、自ら安寧の地を作り上げる事を決意。
かつて流浪の民が自分達を召喚した召喚システムを改良し、新たに瑠璃を召喚し、現在の瑠璃の本拠地とも言える『救世魔界アウクシリウム』を建国。
建国されたアウクシリウムは当初、二人の魔界神の力と、瑠璃の幸運の力で順調に発展し、魔界各地の戦乱にから逃れて来た難民達を吸収しつつ、国力を増加させ、『終末都市フィニス=セプルクルム』と呼ばれる中心都市を形成して、僅か一年足らずで一つの巨大な勢力へと変貌する。
しかし、国が安定した後も、いや、安定したからこそ、各地からの難民の流入は収まる事無く増加し、ほどなくしてアウクシリウムが養う事の出来る国力を超えてしまう。……珍しい形だが、所謂所の人口爆発問題である。
それにより、一度は安定したアウクシリウムの国勢と内部基盤は再び悪化。様々な所で人口過大による食糧不足や資源不足を始めとした諸々の問題を引き起こす。
それに対して、二人の魔界神と瑠璃は、集まって来た難民達を用いて土地の開拓と農業革命を進めると共に、『救援部隊アウクシリア』を結成し、瑠璃の幸運の力を元に「悪政を敷いて私腹を肥やす周囲にとっても邪魔な圧政者」に当たりを付け、その地域の民や正義感の強い有力者と共闘し、「平和の為の革命」を実施。
瑠璃の幸運の力で圧政者の代わりとなる有力者や勇者、武将を見繕ってパーティを組み、それらを中心に地域の民を煽動して、革命に駆り立てながらも、実際には大量の難民からなる『救援部隊アウクシリア』による数の暴力で圧政者を粉砕。
合法的に革命を成功させつつ、その時には既に革命の中心人物となっている瑠璃と、その配下部隊である『救援部隊アウクシリア』は新しい国の首脳部に融和し、またしても合法的に、新たな資源供給源としての土地と、難民の受け入れ先を確保する、という誰もが幸せになる乗っ取り計画を発動していたらしい。
そして、その最中、僅か二年足らずの計画侵攻の中で、瑠璃は二度の魔界大戦を引き起こしながらも、数千の魔界を解放し、数多の民と難民達を救ったという事で、魔界の一部では伝説の『瑠璃色の救世主』と語られるようになったという。
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そこまでの話を、話し終えたレティアは人差し指を立てて、軽く首を傾けつつ、これらの事の真偽を瑠璃に問う。
「と、私の知る瑠璃様の正体はその様な感じですね。あってますか?」
そう尋ねるレティアに対し、瑠璃はじっとレティアを見つめ、冷や汗をだらだらと掻きつつ、それを肯定する。
「だ、だいたいあってますけど……。……いや、むしろなんでそこまで知ってるんです……?」
「マブダチなもので?」
「OH……、さっき文通しかしてないって言ってたじゃないですか……」
「文通にはメールやSNSも含まれますので」
「えぇー……」
色々とその収集能力の異常さには謎が残るものの、それ以上聞いても、レティアは瑠璃の言葉に意味深に「ふふふ……」と返すだけである。
とはいえ、ここまで聞いてようやく紅葉は瑠璃の言動に合点がいく。
(あぁ、自分が主人公だとか、私の事を今回の仲間だと思った、とか言ってたのは、こういう事か……)
今まで、その幸運の権能で主人公ポジションをキープしつつ、自分に有利な仲間を集めていたので、今回もそうだと思ったのだろう。
いや、実際の所、先程は些細なすれ違いによって戦闘になったものの、逆にその戦闘により、紅葉にとっての瑠璃の安全性は確立される事となり、今現在も実態が解った為に紅葉は既に瑠璃の味方よりに傾いている。
また、紅葉の力や異世界人としての立ち位置そのものが、瑠璃にとっては極めて有利な仲間である事も否定できない。
(掌の上で踊らされてる気もするけど……、私にも実益あるんだよなぁ……)
紅葉は感情より理性を優先する合理の獣である。
瑠璃の能力がそういうものである事が解れば、当然自身に不利益にならない限りは瑠璃の味方として振舞うだろう。
何せ、そうしていれば瑠璃の幸運の恩恵を自分も受ける事になるのだから。
そうであれば、それはもう、普通の味方と何ら変わらない。
変わるのは、打算的か否か、というだけである。
そうして、そこまで聞いた紅葉は、自身の立ち位置を確認しつつ、瑠璃に問う。
「んー、とりあえず瑠璃が何者なのかはわかったけど……。じゃあ、瑠璃は何しにこの世界に来たの? 確か正規入国って言ってたから事故じゃ無い筈だけど、この世界を他の世界みたいに合法乗っ取りするのは色々と無理くない?」
実際の所、そもそも目の前にいるレティアに勝てる気がしないので、先程までの話の様に瑠璃がこの創誓世界を乗っ取る事は物理的に不可能なのだが、そうなると瑠璃がこの世界に乗り込んで来ている理由がわからない。
普通、乗っ取りであれば事前調査はしっかりとするだろうし、初めの内に護衛等も付ける筈なので、およそ何の準備もしてい無さそうな瑠璃が単身でこの創誓世界にいる事自体が疑問なのだ。
そうした紅葉の率直な疑問に対し、瑠璃は困った様に頬をぽりぽりと掻きつつ、こちらも率直な意見を話す。
「あー、いや、この世界を乗っ取るつもりは元々ないんですけど……。実はアウクシリウムの問題って農業改革や侵略革命ぐらいじゃ全然解決してなくて、この世界にはそうした所以前の根本的な解決法を求めて来たっていうか……」
「根本的な解決法?」
「えぇ、簡単に言うと、『理想世界を創る事』です」
「ほわい?」
なんか真面目な顔して突拍子もない事言いだした。




