第二章第十三話「瑠璃色の救世主」
瑠璃は魔界の救世主である。
そんな事実を平然と聞かされた紅葉は一瞬あっけにとられて固まるが、当の瑠璃本人は、先程驚いていたのが嘘かの様に、その内容自体には指して気にした様子も無く、むしろ照れた様に頬をぽりぽりと掻きながら、レティアに話の続きを促す。
……どうやら、驚いたのは自身がイレギュラーでなかった事だけらしい。
「あー、まぁそんなに隠すような事でもありませんし、別に話されて困る事もありませんので全部話して貰っていいですよ? レティアさんが私の事をどこまで知ってるのかも気になりますしね」
そう言われたレティアは、「ふむっ?」と、人差し指を顎に当て、少し首を傾げながらも、瑠璃の正体をさらりと簡潔に説明する。
「そうですか? んー、では一から説明致しますと……、……彼女は三年前。魔界フィルギスディアの奥地にて、二人の魔界神によって顕現召喚された世界システムに人格をインストールしたタイプの魔神王です」
……が、それを聞いた途端に瑠璃は石化した様にピシッと固まり、ついで真顔でレティアに詰め寄りながらその詳細を尋ねる。
「え、いや待ってください。何ですかそれ、私知らないんですけど」
しかし、それにはレティアの方も困惑したらしく、再び瑠璃に猫手で手首を持たれて詰め寄られながらに眉を顰め、こめかみに大粒の汗のマークを浮かべながら、どの部分が聞きたいのかと質問を促す。
「えぇ……、あの、知らないとは……?」
そのどことなく困った半笑いの様な表情に、瑠璃はすぐ「あ、ごめんなさい」と手を放して引き下がりつつ、詳細を聞く為に質問を紡ぐ。
「えっと、二人の魔界神っていうのは、あの二人の事ですよね?」
ここで瑠璃は、レティアが本当に知っているのかどうかを知る為に、わざとその二人の事をぼかして聞くが、レティアはそれに対して正確に情報を答える。
「そうですね。正確には『暁の魔界神』アエテルタニス・クラース・ディールークルム様と『宵の魔界神』アルテルタニス・ヘリ・クレプスクルム様のお二人、二人合わせて『双極』の名を冠する双子の魔界神の方々の事です。外見的特徴としては双方類似していて、4枚の魔翼と長い葉の様な耳、そして冠状に生えた枝角は同一ですが、クラース様の方は金髪金瞳、衣服の色も金を基調としており、ヘリ様の方は銀髪銀瞳、衣服の色も銀を基調としているのが特徴です」
そうした説明を、レティアは鎧の内側から取り出した、先程の携帯端末とは別の、個人用らしき携帯端末の画面に映る二人を瑠璃と紅葉に見せながらに説明し、更にこう伝える。
「後、彼女らは互いを『金の姉様』『銀の姉様』と呼び合っており、瑠璃様の事は『蒼の姉様』と呼称しているようですね。そして、瑠璃様の側からの彼女らの呼び方も同一の筈ですが……、ここまでで何か間違いはございますか?」
完全に身バレしている上で、関係性まで把握されている状況。
(いや、知り過ぎでしょ……)
情報収集レベルが高いとかいうレベルではなく、今朝来た相手の情報をそこまで知っているのは最早異常である。
そして、それを突き付けられた瑠璃は、画面の中の『双極』と呼ばれる同じ顔の姉妹を凝視しながら「う……」と少し後退り、レティアにもう一つ質問を加える。
「………………姉様達のほくろの場所は?」
それはかなり苦し紛れのカマかけであり、レティアの諜報能力を知る為の手段であったが、それを聞かれたレティアは少し驚いた様にぴたっと止まり、目をぱちくりとさせた後、少し考えて、逆に瑠璃に聞き返す。
「えっ? ありましたっけ? 前にお二人のお背中をお流しした際は、全身一切の曇りも無い綺麗なお肌だったと記憶していますが……」
・ ・ ・ ・ ・ ・
「って、知り合いっ!?!?」
まさかのカマかけ大成功。天然なのかどうなのか、情報自体は非常に正確だったが、余計な情報をこぼしたレティアに対し、瑠璃が即座にそれを見抜いてレティアの正体を暴く。
情報が詳しすぎる事は瑠璃も紅葉も薄々感じ取ってはいたが、よくみれば先程の携帯端末に映し出された写真も明らかにカメラ目線でポーズを取っている上、どう考えても二人の距離が近い。恐らくこれも何処かから撮影したものではなく、この端末そのもので撮影したものなのだろう。
それに気付いた瑠璃は、ばしゅっとレティアから端末を奪って、その画像の細部を拡大しつつ確認し、更なる情報を得る。
「あっ! っていうかよく見たらこれ、姉様達がよく行く温泉旅館の写真だ!! しかもこれの撮影者ってもしかしてレティアさんなんじゃないですか!? 姉様達の瞳の中に微妙にメイド服映ってるし!! 通りで滅茶苦茶詳しい上にミドルネーム呼びなわけですよ!! 驚いて損した!!」
おぉ、慧眼無想! こう見えても瑠璃は魔界の上流階級。一部の先進地域にしか敷かれていない高級インフラ『魔導エーテルネット』にもよく通じたネラーである! その苛烈なネット・リテラシーによって鍛えられた博学にかかればこの程度の特定は朝飯前なのだ!
しかし、そんな瑠璃の様子をレティアは特に驚く事無く片目をつむりながら観察した後、こほんっと一つ咳払いをしながら奪われた携帯端末をひょいっと取り上げ、知り合いである事を肯定する。
「知り合いでないとは言っておりません。といっても良く遊んでいたのはもう何億年も前の話で、いまでは文通ぐらいしかしておりませんけどね?」
「しっかり連絡取ってるんじゃないですか……。それで? フィルギスディアっていうのは何ですか? 私、あの場所は姉様達から忘れられた墓場としか聞いてないんですけど」
「お二人がお生まれになった場所ですね。とはいえ、彼女らが降臨した頃にはもう度重なる戦争によって大地が疲弊し、文明も崩壊間近だったので、お二人は降臨後すぐに自分達を降臨させた幾つかの少数民族からなる流浪の民を異世界に転送して脱出し、ご自分達も民と共に放浪の身となられましたから、故郷と呼んで良いのかは微妙ですが……。一応、その場所の昔の名前です」
「そんな場所だったんですか……」
そうして、紅葉が全く知らない話で微妙にしんみりする瑠璃に対し、レティアはまた一つ咳払いをしつつ、話を進める。
「こほん。話が少し脱線しましたが、私の信頼も獲得出来た様ですし瑠璃様のお話を続けますね?」
「え、そういう相手に赤裸々と話されるのはちょっと怖いような気もするんですが……」
「……………………続けますね♡」
「うわ、この人ドSですよ紅葉さん。耳塞いでください」
瑠璃は紅葉の方を向いて、そのドロップイヤーを塞ごうとするが、当の紅葉には笑顔で振り払われる。
「やだ」
疑惑の相手の赤裸々情報。そんなものを紅葉が聞き逃そうとする筈も無く、妙な羞恥と悪寒で赤くなったり青くなったりしている瑠璃を手慣れた動きで軽く羽交い絞めにしてレティアに続きを促す。
そんな紅葉の対応に瑠璃は「こっちもSですか!?」と顔の赤さを増して叫ぶが、『幸運』の権能と魔力がレティアによって打ち消されている為、ドーピング無しの素の腕力では紅葉に敵わずそのまま拘束され、しばらく暴れてみるもののやがては観念し、紅葉に「後で覚えてろよ……」と言わんばかりの引き攣った不敵な笑みを向けてから自身もレティアに話の続きを促す。
「……まぁいいです。続けてください」




