第二章第十話「権能と異能と術式と」
『権能』。そう呼ばれる、未知の力。
その問題解決の糸口に対し、非常に興味を抱いた犬猫二人は、同時にレティアの方を向いて、その言葉に耳を傾けるかの如く片耳を上げる。
そうした二人の反応に、レティアは「おぉ!?」と少しびっくりして驚くものの、すぐに「こほん」と姿勢を正して二人の疑問に答え始める。
「はい、権能です。先程のお話をお聞きした所、瑠璃様には『幸運』の異能か権能があるご様子ですが、私にも『消失』の権能がありますので、この場合、瑠璃様の『幸運』は私の『消失』の権能によって無効化され、打ち消されたものかと」
そうして、レティアは二人の疑問の答えを話すが、二人としては、レティアが話している内容の意味はわかるものの、用語が理解出来ていない為にいまいちピンと来ず、レティアが説明を終えた後、半拍程おいて、紅葉が用語に関して質問する。
「えっと、色々解らない所はあるけど。まず、その権能って、なにほわい? 異能と何か違うみたいだけど……、この世界だと特殊能力に何か違いがある感じ?」
そう首を傾げながら質問する紅葉に対し、レティアはそこでそもそもの認識概念の違いに気付いたらしく、頭上に「!」とエクスクラメーションマークを立てた後、手を「まぁ」とばかりに口元にやって驚きを表現しつつ、それらの違いを説明してくれる。
「おっと、これは失礼。そうですね。では、その辺りからお話致しましょうか」
そうして、レティアが説明してくれた違いを簡潔に纏めると、まず、この世界に限らず、大抵の世界の魔法や妖術、科学や超能力などは、一纏めに同じ技術系統のものとして扱う事が出来るらしい。
そして、それらの技術の中でも、使い方さえ学べばだいたい誰でも使える技術は『術式』、体構造等の問題で一部の特殊な者しか使えない技術は『異能』、最後に
、あくまでも世界のシステムの一部を利用して使用している『術式』や『異能』とは違い、世界のシステムそのものに干渉し、その一部を個人が持つ独自のシステムに置換する形で使用する技術の事を『権能』と呼ぶのだという。
[知覚認識:術式≦異能<権能
『術式』
誰でも使える技術形態の一種。ただし才能差などによって強弱があるものもあり、特に体内回路を利用する系統のものでは強力な術式を使える者は少ない。
『異能』
個々人が使える特殊な才能。特殊能力。術式とは違い、個人的な才能による個別のものなので系統などの種類分けはあれど千差万別で誰でも使えるわけではない。術式で似た様な事が可能なものから完全に特異なものまで様々。
『権能』
個人が持つ世界法則。本来の世界法則に則らず、個々人を中心に独自の世界法則によって発動する力。異能と同じく千差万別だが、権能の場合は本来そこに存在する世界法則を無視して扱える為、往々にして異能より強力であり、防ぐ手立てもほぼ存在しない。唯一、権能同士で干渉させた場合はより強い権能、あるいは、その時その場で行いたい事柄に、より適した権能の方が優先される。]
(なるほど……?)
「機械とかに例えますと、術式は使い方さえ覚えれば誰でも使えるけれど、複雑に使おうとすると特別な才能や技術が必要になる凡庸アプリケーション。異能は元々特別な個人にしか扱えない専用デバイス。権能は本来のシステムを無視して使える仮想マシン……、という所でしょうか? 色々語弊はありそうですが」
基本的な所はそんな感じな様だが、レティアはこうした類の細かな説明は苦手ならしく、空中で指をくるくるさせながらとりあえずの要点を話す。
「まぁ簡単に言うと権能には権能以外では対抗できないのですが、私の権能は権能も無効化する権能なので権能でも対抗できない、と認識していただければ」
権能は権能でしか相殺出来ない。
そして、『消失』と呼ばれるレティアの権能には、異能は勿論、例え同じ権能であろうとも、その種類が無効化に類するものなので、まず相殺出来ない。
そうした原理を理解した紅葉は、隣で頭がこんがらがり始めている瑠璃にもわかる様に少し大きめの声でその内容を噛み砕きつつ復唱する。
「あぁ、だから瑠璃の『幸運』については、異能なのか権能なのかわからないけど、少なくともレティアさんの方が『消失』っていう権能を持ってるから、どちらにせよ、瑠璃の『幸運』は打ち消されて発動しなかったって事か……」
「そうですね。より正確に申し上げますと、恐らく瑠璃様の『幸運』は異能ではなく権能なのですが、私の『消失』の権能は常時発動の時点では、瑠璃様と同じく、時間空間等を無視して、私に実害のありそうなありとあらゆる力を打ち消すものとなっており、この権能は、無くす、または無かった事にする、というよりは、元々存在していないという体で扱う権能ですので、瑠璃様の『幸運』も私の『消失』には効かないものかと?」
聴けば聞く程こちらもチート案件。
詰まる所、レティアの権能は自身に害ある全てを存在させない権能なのだ。
先程、砕いた床の瓦礫を頭の上に載せていた辺り、レティアにとって害にもならない程度のものはその権能で消される事は無いのだろうが、よく見れば兎が周囲にばら撒いていた爆弾が根こそぎ消えている。
この事から察するに、レティアにダメージを与えられそうな代物は、レティアが現れた時点で有害そうであれば、文字通り悉く『消失』するのだろう。
設置された爆弾でこうなのであれば、仮にレティアに攻撃などを仕掛けた場合、その攻撃に使用された武器や能力、場合によっては拳などの身体部位すら『消失』させられかねない。
いや、これは紅葉は知らない事だが、実際に『消失』させられる上、レティアはその『消失』の能力を任意にも操れるので、レティアが『消失』させようと思ったものは何であれ存在しなかった事になる。
どちらかというと、無効化については、その『消失』の力の一端に過ぎず、実際には、その名の通り『消失』が、レティアの持つ権能の本質なのだ。
[その名の通り『消失』が、レティアの持つ権能の本質なのだ。]
(ぴぇっ……。それ無効化系っていうか、消滅系能力じゃん……)
ただのメイドかと思いきや、完全にラスボス系の鬼畜仕様である。
これには先程瑠璃が涙目でレティアの腕にしがみ付いていたのにも、納得がいく。それは猫が不安を抱いた時に発露する、破壊行動の一種だったのだ。
かくいう情動の薄い紅葉も、今はもう平気だが、兎を斬り伏せた直後のレティアを前にしては、即座に逃走を考えた程だ。
だが、ここで新たに、これから先の瑠璃と紅葉の生死を分ける疑問が出始める。
「えっと、そういう権能って誰でも持ってる感じのものなの?」
それは思わず口からこぼれた疑問ではあるが、その紅葉の疑問はもっともなものである。
此処は創誓世界ルリィ=エフィア。
危険な魔物や上位種族達が至る所にいる世界。
こんな権能、誰でも持っているのなら、その危険度は計り知れない。




