第二章第九話「知らない力」
「えっと、瑠璃様? 何を言っておられるのですか?」
何故自分にダメージを与えられるのか。
そんな意味の解らない質問に対し、レティアは困惑し、内心打ち所が悪かったかなぁ……。と思いながらに再び瑠璃の頭を撫で始める。
その笑顔は先程の圧のあるものではなく、苦笑に近いものであり、決して恐怖心を抱かせる類のものではないのだが、瑠璃は涙目で耳を後ろに伏せ「フーッ!!」と尻尾を膨らませながらにレティアの腕を掴んで離さない。
何なら今にでも猫キックが繰り出されそうですらある。
そうした様子に、状況を知る紅葉は釣られて苦笑しつつも、そのままでは瑠璃がレティアに噛み付いた上で蹴りを入れかねないので手を上げて説明する。
「あー、瑠璃。それはね? 実はとても簡単な事なんだよ……」
・・・・・・
「………………というわけで、瑠璃の能力は多分何らかの事象変換系なんだと思うけど、戦闘に限ってはその一瞬ごとに回避なり防御なり出来る可能性を引き上げるだけのものだから、回避や防御が出来る確率を限り無く零にしちゃえば、多少軽減されたとしても攻撃は通るみたいだよ」
紅葉は自身の解明した範囲での瑠璃の能力を簡潔に瑠璃に説明する。
しかし、それでも瑠璃は、涙目でこそなくなったものの、未だにレティアの腕を掴みながら、半眼で眉を顰めつつ紅葉を見つめ、首を傾げて疑問を問う。
「はぁ、まぁ私の能力の解釈はそれでだいたいあってますけど、それでも腑に落ちませんね」
「というと?」
「いえ、紅葉さんの攻撃が通じたのは確かにそれでわかりますよ? 実際、過去にもそんな感じで私がダメージを受けた事は結構ありますし、私自身もそういう弱点があるんだろうなー、って事は薄々わかってましたから。でも、紅葉さんとの戦いはそれで良いとしても、さっきの兎とレティアさんからの攻撃についてはそれじゃ説明できなくないですか?」
「ふぅむ?」
確かに、紅葉はナノマシンによる電光砲や光刃を駆使して瑠璃の回避率を下げていたが、先程の兎にはそんな小細工は見られず、まして、レティアの側に至っては真正面から近付いて瑠璃にダメージを与えている。
兎の方については、紅葉はその武器に何かあるものと疑っていたが、もし、武器の方に何かあるのであれば、戦闘中に瑠璃はそれを指摘した筈であり、紅葉自身の視覚解析も兎の武器には何の反応もしなかった。
(私や瑠璃の把握能力が及ばなかっただけなのかもしれないけど……、だとしたらレティアさんはなんだ? よく考えたら何の対策もせずに瑠璃に接近して捕まえるとか、それ自体が無理なんじゃ……)
そうして頭を悩ませる紅葉に対し、瑠璃は更に自分の能力の説明を続ける。
「それに、私の力って簡単に言うと『幸運』の力なんですよね。そして、私の力は私が存在するだけで私に関連したあらゆる事象を常に私の有利に傾けます。更に、それは基本的には自動で常時発動なんですが、私の意思によってもある程度は発現しますので、さっき、私が怒られたくないと思っていた以上はレティアさんは私にダメージを与える事は出来なかった筈なんですよ」
そうして話す瑠璃の説明によると、瑠璃の力は一言で言うと絶対的な『幸運』の力であるらしい。
その力は、多少語弊があるものの、突き詰めていくと「あらゆる事象を可能性が零でない限り全て瑠璃に有利な形で発現させ、尚且つ、その能力は時間空間を無視して常時発動し続けた上、瑠璃の認識範囲外の事象にも作用し、最終的にはありとあらゆる事象を瑠璃にとって有利な状態で確定させる」というとってもふざけんなな案件の能力なのだという。
「まぁ、紅葉さんみたいに小細工を仕掛けたのならまだわかりますけど……、普通の状態で私にダメージ負わせるって、それ自体がまず無理ゲーだと思いません?」
「うぅん。確かに……?」
聴けば聞く程、規格外のとんでも能力。
もしも何らかの形で最強議論スレでも建てられて、そこに検証キャラとして登場させられようものなら速攻で番外に弾き出されそうな力である。
勿論、その能力であれば、現在の状況も実は全て瑠璃に有利に働いており、先程のダメージも受けた方が良いダメージであった、という可能性は大いにあるのだが、ダメージがダメージである以上は受けるより受けない方が良いだろう。
そんな何処かパラドックスが存在していそうな議題に頭を悩ませる二人に対し、その一番のパラドックスの原因であろうレティアが、おずおずと話しかける。
「あ、あのー、それでしたら、兎については解り兼ねますが、私の攻撃については、私の権能による作用かと……」
だが、その一言は、この迷宮入りしそうな問題に一つの光明を差し入れる。
「「権能(ですか)?」」
どうやら、この世界には瑠璃や紅葉の知らない力があるらしい。




