第二章第二話「異なる戦術、異なる力」
「ちっ! ≪銀砂展開≫!! ≪振動砲≫!! 撃てっ!!」
とはいえ、一応交戦も予測していた紅葉は、あらかじめ起動しておいた学生鞄の内部機材に音声で指令を送り、その箱の中からは銀色の砂が舞い上がって、見る間に六角形の板の様な砲を形成し、強力な振動による衝撃波を瑠璃に浴びせかける。
「! おや? 銀術師だったんですか? でも銀盾なんか錬成した所で意味は……っ!? なんですかこれ……? 風魔法……?」
何枚もの振動砲から発せられる衝撃波は、初めの内はそれ程でも無かったものの、紅葉がじりじりと出力を上げていく内に強くなって魔法弾を掻き消し、回避不能なその攻撃は、瑠璃の肌と一枚巻いただけのバスタオルにじりじりと切り傷を入れていく。
それは、自動発動しているらしき魔法の障壁が盾となり、傷口も何らかの治癒魔法で出来た時点から消えていく為、ダメージこそあまりなさそうだが、少なくとも瑠璃にダメージを与える事が出来るという事実を現わす。
(やっぱり回避不可能な攻撃は効くのか……)
「ちょっ!? なんですかこの攻撃!? 魔法が掻き消されただけでなく、この私に傷が……!?」
「いや、対策ぐらいたててるって」
実際の所、瑠璃の回避能力は極めて高く、日中のシロ戦においてもダメージというダメージを負っていなかったが、それでも、戦闘の最中に飛び散る粉塵や岩石片によって多少のかすり傷は出来ていた為、確証こそ無かったものの、瑠璃の能力が無敵でない事はわかっていた。
それが確定した今、ある程度対策は立てられる。
(と言ってもほとんど効いて無さそうだし傷も再生してる……。このままだと瑠璃の魔力とかいう力とナノマシンの電光力の対決か……)
元より、振動砲は衝撃で相手を気絶させる為の非致死性兵器だが、最大出力で放てば戦車すら粉砕するその振動圧が、瑠璃に対してはただかすり傷を負わせる程度にしかならないというのは想定していなかった。また、衝撃波で魔法が打ち消せるという事実もただの偶然の代物だ。
(対人用の一撃で昏睡してくれるっていうのは甘い考えだとは思ってたけど……、出力を対城用にまで上げてもこの程度にしかならないの? これ以上振動砲の出力は上げられないし、こんな程度の傷で削り切れるかどうか……)
「チッ……! ≪空間制御! 歪曲固定!---ディメンジョンシールド---!≫」
何はともあれ情報に欠ける。そんな状態で迂闊に手を進めれば返り討ちに合うのがオチである事はわかりきっている為、紅葉は慎重に情報を精査し次の手を考えるが、そんな中、瑠璃が唐突に舌打ちして正面に手を伸ばし、口早に何かを呟くと、瑠璃の正面の空間が歪み、攻撃が通らなくなる。
「あれ?」
それはまたもや紅葉の知らない力による状況の打開。当然ながらそんな初めて見る力に対しては対策どころか想定すらされていない。
「はっ! どういう攻撃なのかはよくわかりませんが! 金属遣い相手なら雷でしょう! ---レインニードルインデグネイション---!!」
それに対して瑠璃は紅葉の力に対してもう対策を立てて来たらしく、新たな雷を纏った水の針をどこからともなく雨の様に生成して紅葉に向かって降り注ぐ。
「くっ! ≪銀鎖変換≫! ≪網状陣≫!!」
それらの雨は大半を振動砲による衝撃波で吹き飛ばせるものの、小手調べだったと思われる初めの魔法弾とは比べ物にならない程の数を誇り、次々に生成されては振動砲の合間をすり抜けて紅葉の元へと飛来する。
とはいえ、振動砲による破砕である程度は飛来する範囲を絞り込める為、紅葉は速足で振動砲の陰から陰に移動しながら、空中に漂う銀の砂、即ちナノマシンを鎖状に変形させて、その鎖で蜘蛛の巣状の網を編み、それを遠隔操作しながら追跡する水針の雨を絡め取り、その端を近くの地面に繋げる事で水針が纏う雷を放電させて無効化する。
その際、電流の通ったナノマシンの内、かなりの量が蒸発、あるいは融解して損失するが、流石にそれには構っていられない。
[視覚解析:レインニードルインデグネイション
結果:水針1針に付き、約1億雷軋、10万雷琉を観測。=水針1針分に付き、雷1発分と計測。水針推定針数、1立方cmあたり約1針。1立方mあたり、約100万針と推定。現在針数、推定40立方m分の空間を占有。約4000万針と推定され、現在尚も増加中]
(! 水の針一つ一つが雷と同じだけの電力って事か……。あんまり当たらない方が良さそうだけど……、それが4000万発以上、ね……)
その驚異的な出力に紅葉はげんなりしながらも、現状を打開する為、辺りを旋回する様に移動しながら、隙を見つつ振動砲を瑠璃の方向に向けて不可視の盾の合間を縫った攻撃を仕掛ける。
それによって気付いた点として、瑠璃の不可視の盾は前方だけでなく、後方にも展開されており、それぞれ、前方の盾からの衝撃波は後方の盾から放出され、後方の盾からの衝撃波は前方の盾から放出される事が見て取れた。
そして、それは衝撃波だけでなく、物質もそうであるらしく、水針との攻防に集中している様に見せかけながらナノマシンで生成した銀の針を瑠璃に飛ばしてみると、それらの銀の針もまた、不可視の盾に当たるともう片方の不可視の盾から出て来るという不思議な現象が観測出来る。
(そして衝撃波の入射角から考えて、瑠璃の側の面からは普通に盾なんか無いかの様に素通りする、と。相手の攻撃だけ防いで自分からの攻撃は通すとか……、なんて都合の良い盾だ……)
そうして、紅葉はその観測結果に毒づきつつも瑠璃の弱点が無いか観測を続けるが、その最中、唐突に、瑠璃と目が合う。
「そんなにじっくり見つめられると照れますね」
真顔でそんな事を言い放たれた直後、ぼそっと「---ディメンジョンソード---」という声が聞こえ、瑠璃の姿が掻き消える。
その猛烈な寒気を覚える言動に嫌な予感を感じ、殺気を頼りに真上を向いた紅葉は、そこで先程目があった時とまるで変わらない真顔で落ちて来る瑠璃と再び目が合う。
(……っ!)
そして、瞬間的にその手の先にある細い揺らぎの線に脅威を感じて、反射的に飛び退いた次の瞬間、紅葉のそれまでいた場所は斬撃によって切り裂かれた。




