第二章第一話「深まる親睦、殴り合い」
「!? ≪雷光壁≫!!」
唐突な瑠璃からの攻撃。それに対し、一応警戒を緩めていなかった紅葉は即座に事前準備していた電磁障壁を展開しつつ、飛び退きながらも瑠璃の手足に向かって発砲する。
―パシュシュシュシュ!!―
しかし、その左右の肩と太腿の付け根を狙って撃った筈のそれは、身体を捻って横向きにした瑠璃に最小の動作でいとも容易く避けられる。
「へぇ、頭か胸を狙って来ると思ったんですけど、もしかして手加減してます?」
そんな余裕のある攻撃を行った紅葉に対し、瑠璃はこちらも余裕たっぷりに片眼を瞑りながら、何処からか出した魔法の紐で髪をいつものサイドテールに結び直しつつ問い尋ねる。
「んー、まぁ手加減はしてるけど。えっと、まじ……? ここ一泊2000万の最高級ホテルだよ?」
そうした瑠璃に対し、紅葉は挑発に乗らない様にしながらも、横目で壁と天井の吹き飛んだ部屋を見て、それとなく周辺被害減らす様に促す……、が。
「ですね。それで? それがどうしたんですか? そんな事より死ぬ準備でもしたらどうですかね? 紅葉さん?」
瑠璃にとってはそれは些細な事らしく、むしろそれを自身に対する侮りと捉え、周囲に幾つもの属性の魔法弾を生成して攻撃態勢に入る。
……これは戦闘に集中していて中空の文をちゃんと読み切れていないからだが、実の所、紅葉は所々で的確に瑠璃の地雷を踏んでいるのである。
基本、魔族に侮りは厳禁だ。
が、それに気付かず、紅葉はシリアスめに瑠璃に返答する。
「……それはやっぱり敵って事?」
そうした紅葉の返答に対し、瑠璃は内心(あ、こいつわかってないわ……)と、即刻理解して怒りを収め、平静に現状での判断を返答として返す。
それは、魔族的地雷が他種族には通じない事が多い事を知っているからであり、同時に、機械的な紅葉と違って瑠璃はまだ他人の情動を読む力がある事をも示す。
「いいえ? たぶん味方だと思いますし、仮にそうでなかったとしても、それ以外に該当するかと」
そして返答されたその返答内容は、内容的には紅葉が予想していた以上に平和なものだった為、紅葉は逆に眉を顰めつつ、その疑問を声に出す。
「じゃあなん「でもそれはそれとしてなんかムカついたので1回、いや2、3回殺す事にします」」
「え゛」
じゃあなんで、と聞く紅葉の言葉に割り込む形で差し込まれた殺害宣言。実際の所、敵味方は関係無く、単純に紅葉の態度が気に入らなくてキレたのである。
[単純に紅葉の態度が気に入らなくてキレたのである。]
「……………最近のすぐにキレる若者こわい!」
ほとんど身から出た錆なのだが、今の紅葉には中空の文を読み直す余裕などないので、紅葉はそっと臨戦態勢に移行し、瑠璃も瑠璃で、そんな紅葉を半眼で見つめつつ、紅葉が完全に戦闘態勢に移行する前にこっそり周囲に大量の魔法陣を展開し、戦闘用術式の事前準備を完了する。
術師に時間など与えてはいけないのである。
「自分から喧嘩売っといて何言ってるんです? あ、安心して下さい。私、死霊術式も使えるので、身体が無事なら蘇生してあげます」
唐突な殺害宣言の後の、呆れ混じりの蘇生宣言。そんな妙にシリアスになり切れない状況に、紅葉は困惑し、瑠璃もやはり半眼だが、本気でなくとも怒ってはいるらしく、口角は吊り上げていても目が笑っていない。
それは、明らかな肉食獣の、凶暴な笑みと呼ばれる代物だ。
「だから――! せいぜい抗ってみてください、ね!!」
瑠璃のその掛け声と共に、幾つもの属性の魔法弾が紅葉に向けて放たれる。




