第二章開幕第四話「good negotiation&bad communication」
「……………………………………は?」
紅葉があっけらかんと答えたその答えは、瑠璃が予想していた瑠璃の能力の検証や疑惑の調査などではなく、ただ単に厄介な敵を撃ち滅ぼそうとする短絡的なものだった。
それに対して瑠璃は、聞き間違いかと眉を片方だけ上げて動きを停止するが、紅葉の方は中空の文も読まず、そのまま論理的に話を進めて行く。
「だって、後になって実は敵で殺さなくちゃならなくなったりするより、今この場で審議して敵だったら殺すって方が後味良いでしょ? やっぱり敵だったんだな! ぺっ! って感じで」
勿論、紅葉の側としても、瑠璃が予想していた様な能力の検証や疑惑の調査などは理由としてあったのだが……。
その辺りにおいて、紅葉もまた瑠璃と何ら変わらない。
その本質的には、非常に攻撃的で暴力的な、高度な知性を持っただけの獣。
いや、ケダモノとでもいうべき、怪物の類なのだ。
それを双方が読み取った辺りで、瑠璃は今度は自身の顎に手を当てて、少しだけ不敵にくすっと笑い、そのデメリットを問う。
「ふむ、なるほど? しかしそれは、もしも私が味方だった場合、その後も大きな溝を作る事になると思うんですがその辺は?」
それは紅葉の短絡的な行動に対して、後に起こるデメリットを正確に言い表したものだったが、紅葉はそれに対して、特に悩む事も無く答える。
「大きな溝ぐらいで生命の危機と後のリスクと後味の悪さを回避出来るなら安いでしょ? むしろお買い得過ぎて今やらない理由が何処にもなくない?」
それはデメリットより尚大きいリスクとリターンを天秤にかけて導き出した非常に合理的な選択肢。
そこにはまるで感情の伴わない紅葉の機械的な本質までも透けて見えるが、理屈としては理解できる為、瑠璃は口の端を歪めつつも質問を続ける。
「……………そうですね。一理あります。…………で? 仮に私が敵だった場合、そんな豆鉄砲で、この私が殺せるとでも?」
「さぁ? だけど一応同じSSランクらしいし対抗は出来るんじゃない?」
単純な受け言葉に買い言葉。
だが、その質問の答えを聞いた途端、瑠璃は態度を一変させ、「はぁ?」とでも言いたげに、というか盛大に言い放った上で、眉間に皺を寄せて肩を落とし、呆れた様な口調で紅葉に突っかかる。
「あー、紅葉さん、それはもしかして自分が何か主人公的、何か特別な存在で大抵の事は何とか出来るし何とかなる、とか思ってません? だとしたらそれは大きな勘違いですよ?」
その瑠璃の唐突な豹変ぶりに、少し驚いた紅葉は中空の文に書き出された自身の直前の台詞を再度読み直し、何かおかしな事を言っただろうか、と視線をずらして確認するが、やはり紅葉的には特に問題はない。
問題は、それよりだいぶ前からあるのである。
だが、そうして紅葉が視線を逸らした一瞬の間に、瑠璃は瞬間移動で一気に紅葉の目の前にまで接近し、冷めた視線を投げかけつつ、紅葉の間違いを告げる。
「何せ、主人公はこの私ですから」
「……は?」
その唐突な接近に対し、紅葉は反射的に後ろに飛び退いて距離を取るが、流石に一手遅い。
そして、紅葉が瑠璃の放ったそのまるで意味の解らないカミングアウトの意味を捉える暇も無く、紅葉の眼前は膨大な魔力による白い光で埋め尽くされた。
「---ブラストロア---」




