第四十話「依頼達成」
時刻は午後五時頃。
日は傾いて夕の光を照らす。昼型種族における定時退社の時間。
ジャンクファースト屋上に設置された大型ヘリポートに巨大な白い竜が舞い降りる。
その背に思った以上に血みどろになった猫と犬、もとい瑠璃と紅葉を乗せて。
……帰りの道のりは思った以上に簡単だった。
瓦礫に埋まったシロは瑠璃が回復魔法をかけるとすぐに起き上がり、掘り起こすまでも無く上に積もった瓦礫をぷるぷると埃か何かの様に軽く吹き飛ばしてしまった為、掘削作業は不要。
暴走の原因となった創誓の欠片も瓦礫に埋まってはいたが、それに突き刺した石と銀鏡線の鎖分銅の先を瑠璃が持っていたので再度瞬間移動を行使する事で地表に移動できたので採掘作業も不要。
帰還についても、正気に戻ったシロには言葉が通じた為、シロの背に乗せて貰い、シロがこの場所に入り込んだ方の道、艦船用の水路を伝った港湾路を通って、契ヶ池と呼ばれる皇都『禊祓』の城壁内部にある淡水の大海に出る事で大幅なショートカットを行い、そのままシロが空を飛んで、空中に設置された航空機用の転移門を経由する事ですぐにジャンクファーストに着く事が出来た。
この間、約30分である。
正午過ぎから約四時間掛けた探索と水路生物やシロとの戦闘は何だったのかと思う程の拍子抜けっぷり。
(まぁしんどいよりかは楽な方が良いよね……)
それに、空中から街を見てわかった事もある。
まずはリーフレットに書かれた地図と所々街の縮尺が合わない事。
これは転移門などによる空間のずれ以外にもこの街には幾つもの空間の歪みが存在し、本来の地続きよりも空間を拡大している事によるものだろう。
実際、遠目では認識も出来なかったが、空はそうした無数の歪みで埋め尽くされていた。これは遮蔽物の無い空だからそう見えるのであって、実際は地上や地下もそうなのだろう。
水路攻略の際にはわからなかったが、よく考えれば遭遇した水路生物の数が多すぎる。それはその歪みによって拡張された空間に巣を作っていたと考えれば納得がいく。
次に、街そのものが空間の歪みを無視したとしても広すぎる事。
見渡す限り、地平線の彼方にまで高層建築群が広がっており、その果てが見えない。
地図によればその先には街の外郭となる城壁があるはずだが、どの方向を向いても遠すぎてまるで見えない。
それどころか、行政区や商業区には雲を超えて更に天高くにまで巨大に聳える山の様な城や高層建築物があるはずなのだが、それも普通の場所からは空を飛んでいても見えず、近くの転移門を通る事でようやくそれらしき物体が遠くに見える程度のものである。
すなわち、一つの区画だけでそれ程までに広い。街全域を見渡すとなれば空を飛ぶどころか軌道エレベーターか衛星を使用しなければ不可能だろう。
(それについては空都タワービルっていう軌道エレベーターが街にあるみたいだからその内行ってみるか……)
そして最後に。
(街全体を覆う結界、乱立する魔導塔の様なもの、建築物の各所に設置された対空砲や機関砲、対地対空ミサイル、一般車両に混じって大量に存在する戦車、装甲車、陸上要塞、魔獣らしき巨大な獣、武装した巨人族、動く金属像、人型機械兵器、天空には飼い慣らされた竜や怪鳥の群れに空中要塞、巡回戦闘機、それに飛行船? いや、飛空艇になるのか、空飛ぶ船の類。水辺もよく見ると見た事無い大型魚類や海獣類が埋め尽くしてる……。それに港湾だけじゃなく、使用されてる水路の中も含めて数え切れないほどの大艦隊が各所に停泊してる……)
街中に漂う平和で長閑な雰囲気とはまるで違う、完全武装された市街。
(屋上付近は全て緑化が施されてて空から見ると街どころか森にしか見えないところも気になる、か……)
それは、単なる緑化というよりは、まるで街全体が存在しないかの様にカムフラージュしているかの様にも見える。
そんな考えを抱きながらも降り立ったジャンクファーストの屋上ヘリポートでは、そのジャンクファーストの店長こと傀寓綾夢ともう一人。
綾夢に似たゴスロリ風の出で立ちだが、妙に硬そうな素材の黒いドレスを纏い、魔族の様な黒い六枚羽を持つ、赤眼で長い金髪をハーフアップにした見るからに闇のお嬢様とでも言う様な出で立ちの人物が待っていた。
とはいえ、好戦的な人物ではないらしく、誘導灯を振ってシロを誘導する綾夢の隣でニコニコと笑いながらシロの背に乗る瑠璃と紅葉に小さく手を振っている。
そうして出迎える二人に対し、瑠璃と紅葉は手を振り返し、軽く会釈しつつ、今回の結果報告も交えつつシロから飛び降りて挨拶する。
「店長ただいまー。お届け物のシロちゃんでーす」
「後、今回の原因物と思われる品物を回収してきましたので鑑定お願いします。それと、そちらの方は?」
そう聞かれた綾夢は、はたと面食らった様な顔をしつつ、「そういえば初対面なうか」と小さく呟いてから隣にいる闇のお嬢様の紹介をする。
「こっちのお嬢はアリシア・ルート・ラ・クライシス。君らの今回の依頼の依頼主なうよ」
「はじめまして~♪」




