第三十八話「空間把握と天武の射手」
広い水路を挟んで両側。
廃棄された造船エリアにて瑠璃と紅葉はシロを待ち構える。
シロの方も警戒はしているものの、壁などであればともかく、エリアそのものを破壊するのは体当たりでは難しいらしく、何らかの金属の塊で出来た桟橋に身体を擦り付けてはみるものの、表面は削れても破壊する事は叶わず、水路の中をうろつくに留まる。
(たぶん初めの蒼熱線ならこの桟橋とかも破壊できたんだろうけどね……)
この相手に大火力を放てば反射されて自分がダメージを受ける。その事を学んだシロの攻撃はどれも小規模なものに限られ、エリアごと消滅する様な大破壊は行われない。
また、水路の天井高は約100mで、造船エリアの高さはその半分の約50m~60mである為、体高約80mのシロは船舶停留用の水路の他は侵入する事が出来ない。
(地形的には圧倒的に有利、だけど……)
シロの腹の中から暴走の原因となった異物を取り出す為には瑠璃の力が必要なのだが、水路の幅が広すぎて、瑠璃に聞こえるだけの声を出すと確実にシロも誘き寄せる。
―ヴォォオオオオオオオオオオオオオオ……―
また、暴走状態にあるシロは先程から無作為に唸り声を上げながら周囲に微弱な蒼熱線をばら撒いているので、その声と破壊音で瑠璃に言葉が届かない可能性も大きくある。
(一応、縄っぽいのは手に入れたし、後はこれを瑠璃が口に放り込む隙を作るだけなんだけど……)
そう思いつつ、紅葉は自分の手元にある銀鏡線を見る。
[視覚解析:《銀鏡線》
銀鏡線:銀鏡線とは、内部を鏡面加工された光の伝送路であり、創誓世界の主要な動力架線の一つ。素材は多層の同軸管状グラフェンシートによる極小炭素チューブを束ねた硬質炭素繊維とアルミニウムにミスリルと魔導銀を混ぜた軽魔導真銀によるもので、創誓世界の都市部にある架線はほぼ全てこれで構成されている。]
(……軽魔導真銀が何かはわからないけど、グラファイトの一種なら600度くらいは大丈夫だよね)
それと同じ事を思ったのかはわからないが、向かい側に小さく見える瑠璃も、紅葉と同じくこの銀鏡線を造船エリアの各所から回収し、その先に大きめの石を結び付けてぶんぶんと振り回しているのが見える。
恐らくは簡易な鎖分銅なのだろう。
(そういえば、私が銃を貸すまでは瑠璃は投石が主だったっけ……)
武器の準備は整っている。そういう合図であろう事を察した紅葉は作戦を考えた後、瑠璃に手を振って合図を送り、大声を出す。
「瑠璃! 私の指名する所、撃てる!?」
「! 撃てますけど一体何をっ……」
「じゃあ、あそこの金具撃って! 後は私が何とかする!」
「は!? あそこって」
―ピギャォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!―
当然、大声を出せばシロも誘き寄せられるので瑠璃との会話はその吼え声と破壊音に掻き消されるが、紅葉はジェスチャー行動によって瑠璃への指示続ける。
声による意思の疎通が取れない。これは確かに大きな痛手だが、意思疎通の方法は声に限らない。
/(! あのハンドサインは『7』……そしてあれは……たぶん『左』ですね……という事は)/
そう、ここに来る途中までに紅葉が瑠璃に教えたハンドシグナルである。
「あそこですね!」
そうして、紅葉が指示した先には老朽化した大きな造船用の陸橋型クレーンが存在し、紅葉が指示していたのはその造船用クレーンの足場の金具であった。
―バシュシュン!―
瑠璃が紅葉の指示通りにそのクレーンの足場の金具を撃ち抜くと、クレーンはその自重に耐え切れずにゆっくりと水路側へと崩落し、その途中、急速に接近してきていた紅葉によって架道部分を蹴り飛ばされる。
シロの頭に向かって。
―!?―
そのオーバーヘッドキックの要領で繰り出された紅葉の蹴りは、重い造船用クレーンの上部架道を吹き飛ばし、上部架道は吼え声を上げる為、大口を開けていたシロの口に馬の口銜の如く真横に入り、その口の開閉を封じ、更に追撃してきた紅葉がその手に持つ銀鏡線を轡の如くシロの口に巻き付けた為、それを吐き出す事も出来なくなる。
「瑠璃! 今!!」
「了解です!」
そうして、口の開いたシロに対し、瑠璃はその口の隙間から銀鏡線で作った鎖分銅を投げ込み、その脅威の命中力を持って胃の中の創誓の欠片に命中させる。
咄嗟にシロは蒼熱線を放とうとし、口の中から青い光が迸るが、次の瞬間、瑠璃の姿は瞬間移動により掻き消え、蒼熱線は虚空を貫いた。




