第三十六話「起死回生の一手」
「状態異常が、効かない?」
「はい。暴走の魔法も効きません。先程私が放った魔法はあらゆる状態異常を纏めた魔法なんですが、それが効きませんでした。弾かれたとかじゃなく、通じたのに効かなかった感じですね」
矛盾に矛盾が重なる状況。現にシロは暴走しているにも関わらず、シロには暴走が効かないという。
「んー、状態異常じゃないって事ではなく? 暴走に見えるだけで別のものとか」
「いえ、あれは間違いなく状態異常ですね。でなければ先程の浄化魔法では解除出来なかったはずです」
「んん、んんんんー?」
考えれば考える程におかしな事態。それに瑠璃も紅葉も頭を悩ませるが、事態の方は待ってくれない。
―ゾルッ……ゾルッ……ゾルルルルルッ……―
荒れ狂うシロの傷口から無数の触手の様なものが生えて来てその傷を塞ぎ始めたのだ。
「! あれは……!」
その様相に小さく驚愕する瑠璃に対し、紅葉が合いの手を入れる。
「知っているのか瑠璃ぴょん!」
「は? いきなりなんですかぴょんって? どこから来ました?」
「いいから続けて?」
「はぁ」
その唐突で微妙に意味の分からない合いの手に瑠璃は解説しようとしたのを中断して半眼で紅葉に視線を向けるが、紅葉はどこ吹く風で解説を促す。シリアスな雰囲気は台無しである。
そんな紅葉の様子に緊張が解けたのか、瑠璃は脱力しつつも気を取り直して話し始める。
「あれはヒーリングの一種ですね。体内組成を変質させて傷を癒すタイプの自動回復。リジェネーションの類です。あのタイプは全身が万能細胞なので細胞一つ残らず消滅させる以外では殺せません。今回は保護対象なのでそれ自体は良い事なんですが、あのタイプは一度喰らった攻撃に耐性を持つという特性があるので、先程の反射した熱線による攻撃ももう何度かしか使えませんね。効かなくなります」
「わぁお……」
物理無効、術式無効に加え、状態異常も全無効。
更に細胞一つ残さず消滅させないと死なない上に同じ攻撃は通じない。
(そんなのがペットってこの世界は一体……)
そう思いつつ、紅葉はとりあえずの現状を打破する為、未だ傷の塞がらないシロを遠目でじっと観察する。
まず知るべきは相手の情報だ。
それさえあれば意外な弱点が見つかって倒せるかもしれない。
そうして紅葉がじっと目を凝らしてシロを見続けていると、突然。
紅葉の目の前にサーモグラフィーによるデータ情報が現れた。
「サーモ、グラフィー?」
「? 熱分布図がどうかしましたか?」
「え、いや、なんか目の前に現れて……」
サーモグラフィーとは、物体から放射される赤外線無いしそれに類する熱量測定可能な情報を分析し、その熱分布を図として表した画像、またはそれを行なう装置の事である。
そして、唐突に現れたそれを紅葉が読み取っていくに、シロの体温は外殻こそ周囲の気温と同程度だが、その分厚い鱗と外皮に阻まれた内部温度は600度近くあり、一部、心臓と思われる部分に至ってはその部分だけ桁違いに温度が高く、1億2000万度にもなるという情報が得られる。
それほどの熱量が外に漏れださないのは、一重にシロの特殊な体構造と魔力を始めとした紅葉の知る物理原理とは違う性質を持つ力によるものだろう。
(1億2000万度って……あれ破壊したら私達まで焼け死ぬね……)
仮に温度では焼け死ななかったとしても1億2000万度は核融合温度である為、破壊すれば核爆発に巻き込まれて爆圧で死ぬか、融合途中の放射線物質により被曝して死ぬ。
(……おいおいー)
そんな何処まで行っても絶望的な超生物の情報と共に、紅葉はその熱分布図の中におかしな点を見つける。
「!」
それは先程の心臓部のすぐ真下。
巨龍の胃に当たる部分。
そこに周囲の熱反応とは明らかに違う常温程度の塊が見える。
「ねぇ、瑠璃。シロちゃんの腹部、胃の部分になんかあるの、見える?」
「ふむ?」
それは丁度先程瑠璃が反射した蒼熱線で打ち抜き、今も大穴の開いているシロの胃袋の中にあり、遠目から見るとキラキラと虹色の輝きを放っている様に見える。
「確かに何かありますね。何でしょう? 大きな鉱石の様に見えますけど、胃の中にあるみたいですし胆石じゃないですよね……」
「うん。あの竜、体内の平均体温が600度近くあるみたいなんだけど、あの石は全然熱せられてないし、何かある気が」
―ピ―
[視認解析:@@@@@@@]
気がする。と言おうとしたところで耳鳴りの様な電子音と共に紅葉の視界にまた別の文字列が映し出される。
(……視認解析?)
[解析完了:《創誓の欠片》
創誓の欠片:あらゆる願いを叶えると言われる創誓世界ルリィ=エフィアの力が結晶化したもの。保有するエネルギーの範囲で願いを叶える事が出来る。@@@現在は外部環境の影響で天災として稼働しているものと推定される]
「……あの石、創誓の欠片っていうらしい。願いを叶える石で今は天災として稼働してるって」
「……なるほど、あれが原因ってわけですか」




