第三十五話「矛盾と混迷」
一瞬の静寂。
タンカーを真っ二つに切り裂いた青白い光の奔流が収まり、その内側からゆっくりとシロが姿を現す。
その荒々しい様相は外見こそ神秘的だが、見る者に恐怖を与えるだろう。
そんな巨龍と、目が、あった。
―ヴゥゥゥゥゥン……「!!」
「---リフレクト!!---」
……チュドォ―ギィンッ!!―ォォォォ―!?―ォォォォォォ…………―
―ギャォオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!!―
対象を認識した瞬間の蒼熱線。
気付いたタイミングは二人同時で、紅葉は瑠璃を抱えて回避しようとしたが、瑠璃を抱えると同時に瑠璃が何らかの防御魔法を発動した為、空中への大回避は止めて瑠璃の腰を後ろから抱え込んだ状態で後ろに大きく飛ぶに留まる。
瑠璃の方も先程からの戦闘で紅葉の行動パターンが読めて来たのか、抱えられている事には一切動じず、逆に紅葉に体重を預けながらシロの方を指差す。
「紅葉さん、あれ」
そこには自分の吐いた蒼熱線の威力により、腹の中心から右肩にかけての一部が裂けて、右腕が千切れたようにぶら下がったシロの姿があった。
どうやら、瑠璃の使用した魔法は、実際には防御魔法というよりは反射魔法だったらしく、反射された蒼熱線は初めシロの腹に命中し、その後、照射し続けながら後ろに跳んだ瑠璃と紅葉に狙いを変更した為、反射箇所もずれてシロの腹から右肩にかけてを一閃して切り裂いたらしい。
「へぇ……自分の攻撃だと流石に喰らうんだ……?」
(阿吽の呼吸が出来てるとは思えないけど、案外正解だったかな?)
保護対象を傷付けて良かったのかと思わなくはないが、初手で瑠璃が腹を狙った辺り、瑠璃は治療手段も持っているのだろうし、そうでなくても致命傷でなければ紅葉自身の持つ治療用ナノマシンを使用すればある程度は治せる。
そうして紅葉は算段を立てつつシロの攻略法を探るが、瑠璃の方はまたしても紅葉の知らない内に紅葉の腕を抜け出し、今度は痛みで咆哮を上げながら暴れまくるシロの頭にまで跳躍し、頭に触れて先程見たものと同じ魔法を使用する。
「---エクステンデット、オールキュア!---」
その強力な魔法の余波が巨大な水路の空間全体にまで広がり、何時の間にか戻って来ていた最初の崩落地点下に散らばった水路生物達の死骸の内、モールド系やアンデッド系に分類される状態異常持ちの死骸までが浄化されてただの死骸に変化するが、シロの暴走は止まらない。
―グギャ、グァ……キュゥゥン……グゴァァ!!……ウゥン……ガァ!!―
「? ---オールアニュージュアリー!!---」
―ォォォォオオオオオオオオオオオンン!!!!!!!―
「!!」
何か拮抗した様に見えた回復魔法の後、瑠璃は何かに気付いたのか、打って変わって紅葉の知らない禍々しいオーラを放つ魔法をシロに使用する。
しかし、その魔法が効果を放ったのか、それともまた別の理由か、シロは再び暴れ出し、瑠璃は大きく跳躍して紅葉の元に戻って来る。
「どうだった?」
「成功半分、失敗半分、って所ですね。浄化は効きましたが、浄化された後すぐに再度何らかの影響で暴走状態に入ってしまう感じです。暴走の原因になってるものを取り除かないと解除出来ません」
「まじか」
暴走の原因になるもの。そんなものに心当たりは無い。強いて言うのならば凶暴化が増えているとの事なので、他の箇所での事件を調べればその原因がわかる可能性はあるが、それを調べている時間など今は無い。
「それにもう一つ気になる点があります」
「え?」
そうして、瑠璃は目の前で暴れるシロを神妙に見つめながら、顎に手を当て、少しだけ胸を逸らして悩みながら答える。
「あの巨龍、シロちゃんなんですが……。状態異常が一切効かないタイプみたいです」
―ギャオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンン―
シロには状態異常が一切効かない。
「……それはつまり?」
「状態異常が効かない相手が状態異常になってるって事です」




