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地の文「なんか私が見える小娘が主役みたいですよ?」  作者: 咏柩
第一章『異界からの来訪者』
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第三十一話「奇妙な二人」


 もう幾度の戦闘を終えたのだろうか。


 廃棄水路の規模は当初の想定より遥かに広く、発信機が示すシロの生命反応の増大とは裏腹に、シロ自身の気配はまるで感じられない。


 発信機の存在と、最短でシロに向かって突き進んでいると思われる瑠璃によるナビゲートがなければ、紅葉は早々とこの探索を不可能なものとして諦めていたであろう。


 実際、荒れ果てた水路の崩落と破損と度重なる戦闘による通路の損壊により、紅葉のマッピングは既にかなりの場所が途中で寸断されており、まだ帰還出来るものの、帰還困難な状態が伺える。


 また、そうでなくても範囲が広い。


 水の流れの緩やかさからして、深度こそまだ1km~2kmの範囲だと思われるが、瑠璃と紅葉のここまでの歩行距離は入口から計測して40kmを優に越していた。


 当初、整備された街の中を移動するのには、転移門と呼ばれる街の各所に設置された門によって空間を転移して移動していた為、街中の広さはあまり実感出来なかったが、実際に徒歩で歩いてみるとこの広大さである。


 しかも、これはこの街の一区画の中の更に一部の範囲であり、その一部ですら別に端から端まで踏破したというわけでもなく、本来の広さは今来た距離の数十倍はあるのであろう事を伺わせる。


(街で人がまばらだったのって、もしかして単に街が広すぎたからなのかなぁ……)


 そんな妙に現実味を帯びた疑問を脳に浮かべつつ、それでも獣人である瑠璃と紅葉にはまだまだ体力に余裕がある為、探索を続行していく。


 実際、時間としては探索を始めてからまだ数時間程度しか経っていないのだ。


 これでシロを無事に発見すれば、探索にもう数時間かかるとしても今日中に依頼が達成できる。



 だが、紅葉には、こうした状況で更に依頼を中断したくなる理由があった。



(うぅ……、なんかムズムズする……)


 その変化に最初に気付いたのは、戦いの最中。


 強力な膂力りょりょくを必要とする度に紅葉は自身の躰に違和感を覚えていた。


 そうした違和感は始めは少しずつだったものの、今でははっきりとわかるものになっている。


 そうして、紅葉はその違和感の正体を再度確認する為、ストレッチをする振りをして自分の身体を確かめる。


 そして、やはり確信する。


 ……身体が完全に男になっているのである。


 紅葉はその事実に気付いてからは、時折水路に溜まった水の反射する水面を鏡代わりに確認していたが、顔は元々そういう顔立ちなのか可愛らしい犬耳美少女のまま変わりなく、外見についても元々着ていたセーラーブレザーがそこそこ厚手な上に下に付けているのが伸縮性のサポーターの様なタイプのブラだった為、ぱっと見た感じの外見は特に変わっていないのだが……。


(触られるとバレるなぁ……)


 明らかにその胸部が減少していた。


 元々の姿での紅葉の胸囲は女性体で言えば平均的かそれより少し大きい程度だったものが、今では完全に真っ平らなのである。


 代わりに全身の筋肉がかなりがっしりとして、胸が無くなった分動きやすくもある為、戦闘においてはこちらの方が数段有利ではあるのだが、如何せん瑠璃がどう反応するかが解らず、紅葉からは言い出せない。


 また、隣にいる瑠璃はその体格からすれば胸囲は大き目な方だが、そもそも全体的に女の時の時点で一回り大きかった紅葉の方が全体的な胸囲としては大きかった為、見比べると違和感にも更に拍車がかかる。


 そうした事情から紅葉としても積極的に瑠璃を助けに行きたい訳ではないのだが、未だに瑠璃が何度も危険な目に遭うので助けに行かざるを得ない。


「よっと……」

「あの、だから紅葉さん、いちいち助けなくて大丈夫ですってば」

「いや、だって危なっかしいし……」


 そうして助ける紅葉に対し、瑠璃は毎度拒絶を示すが、それはどうも強がりではなく本気で言っているらしい。


 だが、それを裏打ちするかの様な事実があるのも事実だ。


 試しに紅葉は瑠璃が危険になった時、何回かはわざと助けずに見てみていたが、そのたびに瑠璃はその危険を何らかの方法で回避しており、実際、瑠璃は全くの無傷だった。


 それだけでなく、紅葉が貸した銃の命中精度は百発百中どころか、複数の敵に向かって乱射した時にもその全ての光弾が正確に敵の急所を射抜き、度重なる水路生物の襲撃の中でも一切傷を負っていない。


(今日借りたばっかりの銃であそこまでの精度……そして回避力、ね……)


 そこに何らかの絡繰りがある事は明らかだが、その力は不気味な程に不明である。



 一方、紅葉は純粋に強かった。


 自分が何者なのか、それは紅葉の記憶にこそ存在しない様だが、身体はしっかりと覚えているらしい。


 その身のこなしは確実に一線級、いや、相手の動きを感知しては先読みし、相手が動き出す前にとどめを刺すその動きはもはや通常の兵士の枠組みですらない。


/(特殊部隊……いや、それにしても……)/


 風祭紅葉は何処かの国、または世界の特殊部隊の一員である。先程から見る紅葉の動きや使用している装備の質から見ても、その可能性は大きくあった。しかし、今はその可能性すらが覆されようとしている。……そう、強すぎるのだ。


 瑠璃はそれまでの旅先でそういう特殊部隊と呼ばれる部隊と遭遇した事があり、更にその戦闘を間近で見た事もある。いや、戦った事すら、ある。


 しかも、その時の部隊は確か魔神の部隊だった。それも複数の。それよりも今、目の前にいる紅葉の方が間違いなく強いのだ。それはこの短時間で惨殺された水路生物の死骸の多さからも伺える。


 瑠璃も銃を撃ってはいるが、何分戦闘時にはナイフ持ちの紅葉が前に出て戦い、その敵のほとんどを解体して進んで行く為、瑠璃の撃破数は全体の2割程度のものだろう。


 通路の脇には何時の間にか死骸の山が出来ているが、この8割方は紅葉の戦果である。


 瑠璃はとある事情故に、自分は安全であるという絶対的な確信がある為、そうした紅葉に恐れを感じる事は無かったが、それでも自分とは違う種類の強大な力を前に、素直に畏敬の念を抱く事は出来た。凄い、ただそれだけの事ではあるが、これは瑠璃にとっては大きな事であった。


 そうして互いを観察するにつれ、二人の中には多くの疑問と得体の知れない力に対する不信感を含むものの、それだけではない純粋な興味に似た疑問の様な奇妙な感情が生まれていた。


(なんなんだろこの子……)

/(なんなんでしょうこの人……)/


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