第三十話「暗闇迷宮」
細かな探索を止め、瑠璃が先導する道を進み始めてから数十分。
廃棄水路奥地の暗がりの中、瑠璃は宣言通り複雑な地下水路の迷宮を迷いなく己の直感で進んで行く。
その足取りに迷いは無く、発信機によるシロの生体反応はどんどん近くなっていく。
だが……。
「ねぇ、瑠璃ー。ちゃんと道とか覚えてる? 私そろそろわかんなくなりそうなんだけど……」
進む道程は明らかに過酷さを増しており、妙に小綺麗だった今までの道とは違って、崩落が激しく、戦闘も多くなっていた。
そうした事柄も含めて紅葉は瑠璃に懸念を言い現わすが、瑠璃には何らかの確信があるらしく、自信ありげに紅葉に返答する。
「大丈夫ですよ。道は覚えてませんけど、その辺りもなんとかなります。紅葉さんも覚えなくて平気ですよ」
「んー?」
紅葉にはそれが何なのかはわからないが、そこに何らか能力による裏付けがあるのが見て取れる。
しかし、それ故にわからない。
というのも、紅葉は言葉とは裏腹に今まで来た道のほとんど全てを把握して覚えており、そこからも瑠璃がその先の何処か、シロのいる場所を目指して進んでいるというのは理解出来てはいたが、それにしては行く道に脈絡が無さすぎる。
(……進んだ道は逸れたと思えば同じ方向の道に繋がってたり、大道から細道に入ったかと思えば細道を出た所でそれまでの大道が瓦礫で塞がってたり……確かに最短ルートを直進してはいるけど……)
感知系の能力であればここまで複雑なルートにはならないはずである。
また、問題はそれだけではない。
「おぅっ!?」
瑠璃が案外危なっかしい。
瑠璃の戦闘能力そのものは獣人特有の身体能力の高さもあり、控えめに言って極めて強いのだが、瑠璃は罠や事故、また殺気を伴わない攻撃に対する警戒心が薄い。
それはこの険しくなった道程においては致命的であり、先導の為に先行している瑠璃が何らかの罠、また崩落などの事故に見舞われる数はこれでもう数度目になる。
そうした罠や事故に見舞われる度、瑠璃は難なく躱して平気そうな顔をしているが、紅葉としては気が気でなかった。
「っと、瑠璃大丈夫?」
「あ、っと、大丈夫ですけど……紅葉さんは?」
「ん、問題ない」
「そ、そうですか。それは良かった……。あの、ありがとうございます」
「ん……」
そうして、崩落した足場から瑠璃を抱えて別の通路に飛び移った後、紅葉は考える。
(たぶん危険な道も迂回せず直進で進み続けてるんだろうから、当然と言えば当然だけど……)
流石にこの探索方法は最善とは言い切れない気がする。具体的に言うと危険がより危ない。
そこで、紅葉は瑠璃に探索方法の変更を求める為に声を掛けようとしたところ、腕の中で何故か真っ赤になっていた瑠璃の方から先に声がかかる。
「あ、あの、でも紅葉さん! 助けてもらっておいて悪いんですが、私の事は助けなくて大丈夫ですから! 私の場合必ずどうにかなりますんで!!」
そうして、瑠璃は紅葉の腕の中を飛び出し、困った様にわたわたと両手を前で振りながら紅葉に話すが、紅葉にはその意味がわからない。何度も危険な目に遭っているというのに、逆に助けないでくれとはどういう事なのだろうか。
(自己犠牲……って感じでも無さそうだけど……)
が、やはり意味が解らないので紅葉は却下する。
「うん、やだ」
「えぇ……?」
その返答を聞いた瑠璃は眉をハの字にして項垂れるが、紅葉としてはそういうわけには行かない。
「まぁ、瑠璃は猫だから高い所から落ちても私より平気なんだろうけど、たぶん種族としては私の方が丈夫だからまた危険になったら庇うよ?」
そう、まっすぐと言い放つ紅葉に対して、瑠璃は少し俯きつつ小声で答える。
「そういう事じゃないんですけど……」
が、その言葉は紅葉には聞こえない。というか聞こえてはいるが聞いていないので、そのまま瑠璃の手を掴んで通路の奥へと進む。
「ほら、行くよー。こっちで良いの?」
「え? あ、違います。たぶんあっち」
「あれ?」
少し締まらなかったが、多少仲は深まったようだ。




