第二十六話「暗がりと獣」
時刻は午後1時頃。
本来であれば未だ太陽の光が強く輝く時刻だが、生憎、周囲を全て閉ざされた廃棄水路の内部には一切の光は差し込まない。
「そういえば紅葉さん。私は猫なので暗闇の中でも問題無く見えるんですけど、紅葉さんは懐中電灯とかなくて大丈夫だったんですか? 犬なら猫と同じく輝板があるので大丈夫でしょうけど……」
瑠璃は紅葉の背中にある赤い翼を見ながらそう尋ねる。どうやら紅葉が本当に犬の獣人なのかどうかが怪しくなって来たらしい。
もっとも、紅葉としても自分が本当に犬の獣人なのかどうかは定かでないが。
「んー、とりあえず今の所は普通に見えてる。外とあんまり大差ない感じ」
恐らく通常の犬と同じものかはともかく、紅葉にも暗視能力はあるのだろう。二人はもう既に、この地下水路に入り込んでからかなり奥深くに入り込んでおり、周囲には光源らしきものは何もないが、二人共特に問題無く水路を進む事が出来ている。
しかし、瑠璃としてはやはりまだ懸念があるらしく、少し離れた所で人差し指と中指と薬指を立てて紅葉に見せる。
「じゃあこれは?」
「立ってる指が3本で折ってる指は2本」
「……ちゃんと見えてるみたいですね。っていうかそんなに詳しく言わなくても聞いてるのは折ってる指の本数ですとか意地悪言ったりはしませんって」
その答えに瑠璃は関心と呆れ半分に答えるが、紅葉の方にはそういった意図はなかったらしく、瑠璃の返答に小首を傾げる。
「え? いや、だってそれ6って意味だし、指の数と合わなくなるかなと思って」
「6? ……あ、ハンドサインが違うんですね。私は3って意味で出してたつもりだったんですけど……」
「うん? ……! あぁ、そこも世界によって違うのか。私も気を付けないとだね」
もっとも、紅葉のそれは軍のハンドシグナルに当たるのだが、それはこの二人には知る由は無い。
(軍のハンドシグナル……ね)
「しかし、片手で6が出せるんですか。私の知ってるハンドサインだと6からは両手が必要なのでそっちの方が便利かもしれませんね。ちょっと教えてくださいよ」
「おk」
そうして、二人が和気藹々と水路を進んで行く最中。
ふと、
紅葉の瞳に不穏な影が映り込む。
「危ない瑠璃!」
「わぷ!?」
―ギィンッッ―
瑠璃を抱えて脇道に飛び込みつつのナイフ一閃。
その一撃は正確に襲撃者と思われる影の眉間を貫き無力化した。
……が、そこで紅葉は気付く。
腕の中に先程庇った筈の瑠璃がいない。
その事実にこめかみから一筋の汗を垂らしつつ紅葉が周囲を確認してみると……。
瑠璃は何時の間にか襲撃者の真横にまで移動し、何かしらの金属製の巨大な刃の様なものでその胴体を引き裂いていた。
「……あれ?」




