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地の文「なんか私が見える小娘が主役みたいですよ?」  作者: 咏柩
第一章『異界からの来訪者』
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第二十三話「はじめてのくえすと」


「無理ゲが過ぎる……っ!?」


 出されたどう考えても超高難易度の依頼に対し、紅葉の口からつい素でツッコミが出る。


 ……が、綾夢と瑠璃はこぞって首を傾げて再度依頼書を確認し、そしてやはりわからない、という様に頭上にクエスチョンマークを浮かべる。


「うん? いや、別に良いんじゃないですかね? 文字は読めませんけど、写真からしてこれって単なるドラゴンの駆除依頼ですよね?」


 依頼書を見ながら綾夢にそう尋ねる瑠璃に対し、綾夢も首を縦に振って肯定しつつ答える。


「そうなうね。近隣の都市に異界からエンシェントドラゴンが大量発生したからそれを駆除してくれって依頼なう。歩合制で1体駆除する毎にだいたい10億ヴィスト。いまなら入れ食いだから狩り放題なう」


「うん。やっぱりお得ですし、良いんじゃないでしょうか?」


 そう言いつつ、再度紅葉に依頼書を見せる二人の様子は至って真面目であり、これが初心者に高難易度クエストをぶつけるというツッコミ待ちの使い古された一発ギャグの類ではない事が感じ取れる。


(あ、真面目な奴かこれ……、え、ほんと……?)


 そんな馬鹿な、と内心思いつつも、一応再度勧められた手前、無下に断るのも何なので紅葉は綾夢に詳細を尋ねる。


「……ちなみに、大群って書いてある気がするんだけど全部で何体ぐらいいるんです?」


 いぶかし気に顔を顰めながらそう尋ねる紅葉に対し、綾夢は「なう?」と、不思議そうにしながらも依頼書の裏に掛かれた詳細文を確認し、その数を告げる。


「えーっと……。うん、少なくとも兆は下らないなうな」

「いや!? それもう世界の危機だよね!?」



 再度の頭おかしい発言に再び紅葉は素でツッこむ。



「何言ってるなう? こんなの軍が出撃したらあっという間に狩り尽くされるなうよ?」


 が、やはり反応は芳しくなく、むしろ紅葉の側に場違い感が漂う。


 そこで紅葉は一つの可能性に行きつく。


「あれ? もしかして私と認識が違うのかな……」


 そして、認識を擦り合わせようとして、恐らく自分よりも感覚がこの世界のものに近いであろう瑠璃に尋ねる。


「……瑠璃、ドラゴンって知ってる?」


 そうして眉をひそめて口を三角にしながら話しかける紅葉に対して、瑠璃は同じく眉を顰めながら半眼で答える。


「私の知る限りではただのでっかい蜥蜴とかげですね。後、火とか吐きます」


 が、その認識はまだ紅葉のものと同じだったので、紅葉は再度もう少し踏み込んで尋ねる。


「私の知ってるドラゴンもそれなんだけど、なんか違う気がする。ドラゴンって一匹で国とか滅ぼすよね?」


 ここで否定してくれれば彼女らの言っているドラゴンは紅葉の知るものとは違うただの火吹き蜥蜴なのである。


その言葉に対し、瑠璃と綾夢は顔を見合わせた後に応える。


「そうですね」

「よくある事なうね」


 残念ながら彼女らの知るドラゴンは紅葉の知っているドラゴンと一致する様だ。


「おかしいな。同じものの事を言ってる筈なのに意見が一致しない。えっと、他に依頼はないんですか?」


 ここで紅葉はどうも自分の感覚が周囲と違っているのであろうという事に気付いた為、せめてもっとマシな依頼は無いものかと会話の方向性を変更する。


(そもそもミステリアス魔界人や上位種族の店のボスと同じ感覚を持とうっていうのが間違いだった……)


 そうして、その依頼に妙に危機感を抱く紅葉に対し、綾夢はしょうがないので別の依頼を選びなおす。


「ふぅむ? んー、そうなうな……。色々あるけど、おすすめとしてはこんな所なうね」


 そう言いつつ、綾夢は掲示板から他の幾つかの依頼書を取り外して二人に手渡す。


「ふむふむ、なんか全体的に駆除や討伐系の依頼が多いですね?」


「場所が近くで即日報酬だから簡単なのなう。後、最近は何故か魔物や動植物が凶暴化してるから依頼自体が多いって言うのもあるなうな」


「とても理にかなってる……、けど……」


 出されたのはどれも高難易度の依頼ばかりで紅葉にとっては何処まで行っても気が乗らない。


 そんな中、多少場違いにも比較的安全そうな依頼が紅葉の目に留まる。


「ん、これは? 愛玩動物保護……。私も全部は読めないけど、これ良くない? どう? 瑠璃」


「いや、読めないのでわかりませんけど。マスター、これの詳細は?」


 依頼書は全て深淵語と呼ばれるこの世界の共通言語である為、同一系列語の冥府語しか読めない紅葉は半分ぐらいしか理解出来ず、言語系統が全く違う物質界語と魔界語しか読めない瑠璃は写真や挿絵でしか判断出来ない。


 そして、この依頼書には地図らしきものしか載っていないので瑠璃は全くわからなかったらしく、綾夢に詳細を求める。


「なうなう。これは迷子のペット探しの依頼なうね。捜索からしなきゃいけない割とめんどくさいやつだけど、依頼相手がお嬢様だから報酬は弾む感じの依頼なうね」


(! お嬢様からの高額依頼……!)


 その綾夢の言葉にこれぞ安全な高額依頼、と紅葉は目を輝かせるが、同時に別の方向性で瑠璃も目を輝かせる。


「ほう、お嬢様。詳しく聞かせてください」


「なんか違う所に喰い付いてないなう?」


 とはいえ、それは紅葉も気になるので聞き流しておく事にする。このフェチ野郎。


(!? なんで罵られたの!? それに私のは普通……。……? あれ、そういえば私、女だよ、ね? ……あれ?)


 やはりここでも紅葉の意識には矛盾が生じているが、そんな紅葉と瑠璃の性癖はよそに綾夢は依頼の詳細を説明する。


「これの依頼主はアリシア・ルート・ラ・クライシス。ネットワーク・クライシスっていう民間警備会社の創設者兼現在最高司令官のお嬢様なうね。なんでも最近の動植物の凶暴化の影響でペットが逃げ出したらしいなう。今回の依頼はそのペットを探し出して連れ戻して欲しいってものなうね」


「? 民間警備会社(PMC)のお嬢様からの依頼、ですか?」


 だが、それを聞いた途端、瑠璃の目付きが変わり、その依頼の不審点に瑠璃が指摘を入れる。幾らお嬢様という単語に惹かれていたとしても、それだけで自身の保身を忘れる様な事は無いらしい。そう言う所は真面目なのだ。


「それはまた、何故? PMCなら部下ぐらいいるんじゃないんですか?」


「うん。それは簡単なう。ペットの逃げた先の立地が悪い。この依頼書に載ってるのはその場所の地図なうな」


「? 捜索依頼なのに地図?」


 確かに依頼書には地図が載っていたが、よく考えれば探索依頼に対してそれは明らかに不審である。場所がわかっているのならば自分で行けば良い。とはいえ、これには何かの事情があるらしいので、瑠璃も紅葉も綾夢からの説明に真剣に耳を傾ける。


「そのペットが逃げ込んだ場所はここ、港湾区の廃棄された大型地下水路の中なう。この国だとPMCは軍隊扱いだから、物流の要である港湾区では行動が物凄く制限されるんなう。もちろん地下水路なんかにもテロ対策の関係で入れないなう。それで外部に委託されてるんなうな」


「なるほど、法律の関係ですか。それなら安心ですし、確かに美味しい仕事ですね」

「そういうことならこれで良いんじゃない? 個人的にはドラゴン退治よりこっちが良い」


 これで瑠璃は乗り気になり、紅葉としても安全そうな依頼は他に無かった為、瑠璃の気が変わらない内にこれに決めようとする。


 そうして二人がこの依頼に決定しようした所で、綾夢から一応の確認が入る。


「でも大丈夫なう? 地図はあるけど港湾区は結構広いなうよ? 何か探索系の能力でも持ってるなう?」


 確かに、場所がわかっているとはいえ、広い区画であるのならばそうした能力は必須であろう。


 そうして首を傾げる綾夢に対し、瑠璃が答える。


「探索系とは少し違いますけど、私はありますよ? 紅葉さんはどうです?」


 瑠璃にはそうした能力があるらしい。また、聞かれた紅葉も記憶が無いので自身に探索系の能力があるかどうかはわからないものの、単に捜索するというだけであればその身体に妙に染み付いた感覚からある程度の自信があり、それが口を突いて現れる。


「あぁ、それなら大丈夫。水路なら海底神殿で慣れてるし」

「は? 海底神殿?」


 自身の記憶は無いが世界の記憶はある。そして紅葉は水底の道を知っている。


「うん、海底神殿。……あれ? 湖底要塞だっけ? まぁとにかく大丈夫」


 その紅葉の自信に先程とは違い瑠璃と綾夢の方が困惑するが、二人共了承した為、依頼は正式に受令される。


「謎いなうね。まぁ大丈夫なら良いなう。はい、これ。依頼書と探知機。ペットの名前はシロで金プレートの付いた黒い首輪してるからみればわかると思うよ。仮に探索系能力が当てにならなかったとしてもその探知機を頼りに進んで行けばいずれ見つかるから安心して? お勧めした依頼で失敗されるとかないないなうからね。説明書は裏に刻印されてるから読むと良いなう」


「裏? おや、深淵語。紅葉さん読めますか?」


「んー、なんとなく」


「まぁ単純な形式だから読めなくても感覚でわかると思うなうよ。後、無いとは思うけど、どうしても無理そうならそれを壊せば緊急事態扱いで救援隊が派遣されるなうから、安心して行って来ればいいなう。ぐっどらっく!」


 そうして綾夢にエールと共に深淵語で書かれた依頼書と探知機が手渡され、二人は早速初めての依頼に出発するのであった。


(迷子のペット探し……、初めての依頼としては定番、かな……?)


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