第二十二話「認識識別」
「まぁそれはさておき、とりあえずまずは身分証を出すなう。Notカラーだけど認証済みって事はもう役所で身分登録は済ませたんでしょ?」
割と大仰なオーラを出したにも関わらず、すぐにそのオーラを霧散させ、傀寓綾夢は気さくな態度で接客に移る。恐らく素がこうなのだろう。
そうした綾夢の切り替えの早さに多少混乱しながらも、瑠璃も紅葉も言葉の意味は理解出来ているので、先程作った身分証を提出し、ついでに瑠璃は綾夢の言葉の気になった部分を聞いてみる。
「Notカラーはわかりますけど……。認証済み、ですか?」
Notカラーについては役所神社での説明にて、12段階の色職と呼ばれる社会的地位において初めに与えられる最下位であると判明しているが、認証済みというのは何の事だろうか?
「あ、そこからなうか。まぁ黄昏の奴は聞かない限りは答えてくれないなうからな。おけおけ、それじゃ私が説明するなう」
そう言って綾夢は提出された身分証をカードリーダーに通して返却した後、自身の身分証を取り出して瞳の前に翳す。
「まずは自分の身分証の裏側をこんな感じで目の前に翳して、右側のボタンを押してみると良いなう。何が見えるなう?」
「「?」」
綾夢のその行動に対し、瑠璃と紅葉は頭に疑問符を浮かべて顔を見合わせつつも、言われたとおりに行ってみる。
「「!」」
すると、緑色だった身分証の裏側が透明化し、カードの内部に映る綾夢の姿が虹色の影絵で表示される。
「……なんか綾夢さんが虹色で表示されました」
「うん、私と瑠璃は青色だね」
紅葉は早速、自分を透かして見たり、ちらっと瑠璃の方にカードを向けて瑠璃を透かして見たりし始めるが、どうやら人によって表示が違うようだ。
「まぁそういう事なうな。この身分証には相手の色職を判断する機能がついてて、基本は相手のレアリティの影絵が、クラリティーとNotカラーはクラリティーが白黒の格子模様の影絵が、Notカラーは青色の影絵が表示されるなう。そして、認証について言うなうと、身分証をまだ登録していない状態でも、実は身分的にはNotカラーだから身分証を翳すと影絵は青色で表示されるんなうけど、そこに大きく『未登録』の文字も一緒に表示されるなう。そこで見分けが付くなうな。ちなみに、私は電光コンタクトに同じ機能があるからそれで見分けれたんなうなうな」
「なるほど……」
(あぁ、それで緋色のお姉さんはあのカードを掲げてたのか……)
そこまで説明した後、綾夢はその更なる使い方を説明する。
「ついでに言うと、この身分証診断は生命体であれば何にでも使えて、知性体でない動植物とか相手に使うと青い逆三角形でオブジェクトとして表示されて、魔物や重犯罪者、賞金首みたいな相手は赤い逆三角形でエネミーとして表示されるなう。こうした機能から、この世界では、この身分証診断は敵味方判別の一種のマナーみたいなものになってるなうから、誰に使っても問題無いし、なんならここの客達を見回してみても良いなうけど、逆に診断される場合は診断を拒否すると疑われるから原則拒否しちゃダメなう。おけー?」
「あぁ、はい。了解です」
「ん、動植物は青三角で物体。赤三角は敵。誰に使っても良いけど、使われても拒否厳禁。紅葉覚えた」
そう言いつつ紅葉は言われた通りに周囲の客達を身分証を翳しながら見回して見る。
(!!)
そして、その中、フードコートの客席にこちらを見つめる二人の黒い影を見つける。
(レアリティブラック……! 店長のが虹色のオーロラで上位二番目の支配階級だったから、それより上の最上位支配者……)
その二人は同じテーブルに相席しており、知り合いである事が窺えるが、それ以上の情報は無い。
(片方は黒髪赤眼で左右非対称な上に後ろ髪が一部だけ異様に長いテール髪……。来てる服は赤黒の、戦闘服……? もう片方は黒髪緑眼、服は……、やたらと防御が厚そうだけど、一応巫女服……? 上は白いのに袴は黒くて全体的に赤が混じってる、っと。特徴的な二人だし覚えといた方が良いかな……)
よく見ればかなり奇妙な出で立ちをした二人組だが、実際に身分証による診断を経なければ一切感知出来なかった事を見るに、この身分証診断は極めて効果の高いものである事がわかる。
が、マナー違反ではないとはいえ、いつまでもじろじろと周りを見続けているのはやはり不審な気がするので、その辺りで身分証を下ろして話を再開させる。
「ん、満足した」
「そうなうか? と言っても、その機能は都市とのデータリンクによるものだから、都市の内部か、外壁の1000km圏内なら使えるけど、それより外に行くと都市衛星との通信機能の関係で使えなくなるから注意するなうなう」
(あぁ、使用出来る場所に制限があるのか……)
「おk、理解」
「理解が早くて助かるなう」
そうして、身分証とそれによる認識システムを説明した綾夢は、次に店の受注システムを説明し始める。
「それじゃ、早速この店の受注システムと依頼の話に移るけど、基本的に依頼はデータ受注になるなう」
そう言いつつ綾夢はカウンターからタブレットパソコンに似た平たい板状の受付用携帯端末を取り出し、店のホームページ画面を見せる。
「これがこの店のホームページで、常時依頼はこの受注ページに纏められてて、このページには手持ちの携帯端末からアクセスするか、店内のネットカフェにあるコンピューターからアクセス出来るなう。もし、手持ちの端末が異世界産で対応してない場合は時間が空いた時にでも、ここの受付で加工依頼出せば一律10万ヴィストで引き受けてるから半日もすれば使える様になるなう。ヴィストはこの世界の統一通貨の単位ね」
/(統一通貨、ね。世界中で同じ通貨が使われてるって事ですか……)/
「この常時依頼はだいたい討伐、捕獲、納品、配達、護衛の五種類で、常に同じ依頼が出されてるなう。ほとんどの受注者が受けるのはこっちの依頼なうな。空いた時間に少し働いて報酬が得られるから便利なう」
(なるほど……定期便の護衛に日刊誌の配達。納品は品が用意出来ればそれで良いのか……。卸売りとかにも使えるかも……?)
「次に、向こうの掲示板群に張り出されてるのが、期間限定の即刻依頼なう。常時依頼と違ってその時にしか無い依頼だし、特殊なのも多いけど報酬が高めだから、暇ならまずはそっちを見てみるのがお勧めなうな。日常に飽きた奴には気分転換にも丁度良いなう」
/(常時依頼が空き時間の小遣い稼ぎだとすれば、こちらは暇潰しの一攫千金って感じですかね……)/
「後は指名依頼と賞金首の討伐があるなうけど、今の所君達は無名なうから指名依頼は無いし、賞金首の討伐はまだ早いからこっちも無しなうな」
(賞金首とかもいるんだ……)
「最後に、これらの依頼はどれも難易度が振り分けられてて、自分の実力と大きくかけ離れた依頼は受けられないなう。まぁ当たり前なうな」
そこまで説明すると、綾夢は店用の携帯端末をカウンターに戻して立ち上がる。
「とりあえず、まずは掲示板から私が幾つかお勧めのクエストを選んでみるからそこから選ぶと良いなう。何かやってみたいのはあるなうか?」
そう言いつつ窓口から出た綾夢はちょいちょいと瑠璃と紅葉を手招きして、掲示板群へと移動する。どうやら即刻依頼の中から二人にお勧めの依頼を見繕ってくれるらしい。
そんな綾夢に対し、紅葉は「いや、特には……」とだいぶ遠慮した返答をしようとするが、割と欲望に正直な瑠璃に阻まれる。
「手っ取り早く大金が稼げて楽な依頼が良いです」
「ちょっ、瑠璃!?」
肝が据わっているというレベルではない。
「了解なう」
「あるの!?」
が、綾夢も綾夢でその要望を平然と受け入れた為、紅葉だけが色々と置いてきぼりにされた形になる。
(えぇー……)
そうして、紅葉が割と途方に暮れているのは無視しつつ、綾夢は二人を連れて掲示板群の端、受付群の近くにある、あまり人がいない掲示板の前に行き、真剣に選び始める。
「んー、君達へのお勧め、となるとー……」
(あ、選ぶのは真剣に選んでくれるんだ……)
そうした真剣な表情も数秒、綾夢は一枚の依頼書をマグネットから外して笑顔で見せて来る。
「こんなのはどうなうか?」
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急募!
『エンシェントドラゴンの大群駆除!』
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……………………どうしてそうなった。




