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地の文「なんか私が見える小娘が主役みたいですよ?」  作者: 咏柩
第一章『異界からの来訪者』
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第十八話「分岐と選択」


(上位三番目の上流貴族!?)


 なるほど。どうやら異世界人でも特に区別は付けないというのは本当らしい。異世界人に対して何らかの区別がなされる世界でなら、自分達と同じ異世界人の<来訪者>であるらしいあのお姉さんが此処までの職色に登る事はまず出来ないだろう。


(いや、単にあのお姉さんが凄いって話かもしれないけど……)


 少なくとも実例がある。それもこの職員には知り得ない範囲の所で。その為、この話については信用して良いだろう。


 瑠璃もそれに気付いているらしく、先程から紅葉の脇腹を片手でつんつんしつつ、もう片方の手を机に付く振りをしてその小指で表の<ブラッディ>の部分を指している。


(軍務が美味しいっていうのは本当って事か……)


 実際、未だ自分の状況すらほとんどわからない状態だが、一般に比べて情報量の多いであろう軍で活動し、情報集めついでに功績を上げつつ権利を獲得していくというのは実に理に適っており、瑠璃も何故かそちらの軍務をやりたそうに無意識に耳を高く立てて期待のオーラを醸し出している。


 だが、そんな瑠璃とは裏腹に、ここで紅葉には一つの不安要素があった。


(『誰かが仕組んだ必然』、か……)



 本当に、これでいいのだろうか?



 あたかも初めから準備されていたかの如く、すいすい進む諸事情と御誂おあつらえ向きの任務。そしてなんとなく漂う余裕。


 きっとそのまま流される様に進んで行けば自分達は様々な功績を上げ、栄誉と権利を得る事が出来るだろう。


 そんな得体の知れない確信に似た気配。



 しかし……。



(……なんでだろ。何も、何も問題は無い筈なのに、このままじゃダメな気がする)


 そして、存在しない記憶の片隅で、誰かの叫び声が聞こえる。


『金があれば!!』『力があれば!!』『名誉があれば!!』『権威があれば!!』


 そう叫ぶ誰かの慟哭。


 それはきっと、あらゆる者の願いだろう。


 ……だが、それがあって、一体その先はどうなるのだろうか?


(…………この辺で一度逸れとくのが正解、かな……?)


 それに、その中空の文章に書かれた警告文と何故か脳裏に響いた声による不安要素の他にも懸念はある。


 瑠璃の事だ。


 初めは相互の益を考え、結果、得になると思って手を取ったし、ここまでも二人の力を合わせる事で円滑に事が進んだというのはある。



 だが、そもそもこいつは、何者だ?



 目が覚めたら、何時の間にかいて、空間の歪みから落ちて来た紅葉を介抱してくれたという少女。


 名前は御砥鉈みとなた瑠璃るり、種族はネイヴ、魔界系列世界からの異世界人で紅葉と同じ来訪者。


 そうした上辺だけの情報であれば、紅葉は知っている。しかし、そこには重要な情報が欠けている。


 この女、御砥鉈瑠璃は一体何の為にこの世界に来たのか。また、その目的は何か。


 その情報を風祭紅葉は知らない。


 少なくとも瑠璃の方からは何も言って来なかった。


(隠してる感じは無いから聞けばすぐに答えてくれると思うんだけど……)


 だが、自身の足場もまだ確立出来ていないのに地雷を踏むわけにはいかないので、紅葉の側から聞くのはもうしばらく躊躇ためらわれる。


 しかし、そのまま『誰かが仕組んだ必然』とやらに固定されたルートを迂闊うかつに進み続けるのも危険だ。


(となると……)



「ねぇ、瑠璃。まずは簡単なのからにしない……? まずはこの世界の事、ある程度知ってからにした方が良いと思うんだけど……」


 そう瑠璃に打診して恐らくルート固定されているであろう軍務からの軌道を変更する。


 その様子は、傍から見れば何も変わらない、平静なもの。


 ただし、見る者が見ればわかる。耳を前方に伏せ、瞳孔を開けた、明らかな警戒の表情。



 その紅葉の犬科特有の表情を見分けたのかどうかは不明だが、瑠璃は何かを察し、紅葉の提案をあっさりと受け入れた。


「んん? そうですね。まぁ焦る必要性もありませんし、地道にまずは情報収集というのも良いかもしれませんね?」


 また、職員のお姉さんも瑠璃とは違う反応だが、何かを察し、今まで以上に興味深そうに細目で紅葉を一瞥した後、それ以上は軍務について宣伝せず、今度はより面白そうなものを見つけたかの様なにこやかな笑顔を浮かべながら、軍務とは最も離れているであろう民間の依頼所を選択候補にあげて瑠璃に説明し始める。



 ……それと同時に、何処かで誰かが驚き、誰かが笑った気がした。




 その目に見えない水面下で行われる得体の知れない攻防に、紅葉は耳をピクピクと震わし、静かに迷いながらも思考を回転させる。


(あーもうっ……! この時点で一体幾つの陰謀が張り巡らされてるんだっての……っ!)


 何も見えないしわからないが、渦巻く気配は豊かに告げている。


 もう、物語は始まっているのだと。

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