第十四話「武器による平等」
(これは、不味い……)
場所は役所。目の前にはそこで何故か受付をしていた軍人。そして自分の目の前には何気なく取り出した銃。
あまりに自然に自身と一体化していたが故につい、何も問題のない物として机の上に置いてしまったが、これは紅葉の元居た世界ではそもそも一般では所持を禁止されていて、何らかの特殊な職業に就いている者しか所持する事を許されなかった品物だ。
そして仮に一般に所持が認められていたとしても、今はタイミングも悪い。ここは神社に見えるがれっきとした役所であり、目の前にいるのは雰囲気こそ優し気ではあるものの、どうみても表情筋が死んでる明らかに戦闘慣れしていそうな軍人。
もはや自首しに来た様にしか見えない。
紅葉の頭には瞬時に行く通りものバッドエンドシナリオが流れたが、それを目の前の職員の台詞が打ち砕く。
「あら、良い銃ですね。しかもエネルギー転換式の対物連射銃ですか。こんな代物が作れるなら元の世界は一般的な常世界よりかなり高いレベルの文明を持つ高度文明世界の可能性が高いですね」
(あれ?)
どういうわけか、紅葉の予想に反して目の前の職員は全く動じていなかった。
それどころか瑠璃も含めて周囲の誰もがその事に何も気を止めていない。そこで、紅葉はようやく気付く。
そう、外だけでなく、役所の中でも皆何かしらの武器を携帯しているのだ。
そして、そんな和やかな雰囲気の中で何故か突然青ざめた紅葉に対し、瑠璃が不思議そうに話しかける。
「えっと、どうしました? 紅葉さん。なんか顔色悪いですけど」
「あ、いや、ついよく確認せずに銃出しちゃったんだけど、これって銃刀法違反になったりしないのかなって……」
「銃刀法?」
「治安維持の為に武器を制限してたりとか……」
「武器の制限? あぁ、そういえば厳重区画とかだとそういう事もありますね。周囲の人が普通に武器を携帯しているので大丈夫だと思っていましたが、確かにその辺りの事も少し聞いておきましょうか」
そうして事情を察した瑠璃が紅葉の肩に手を置いて紅葉の疑問を代わりに聞く。
「すみません、そういえばこの世界での武器の扱いってどうなってるんですか? 周囲を見た所皆さんそこそこに武装してらっしゃるみたいですけど……何か武器に制限があったりはしますか? 特定の区画では持ち込める武器のランクを下げる必要があるとか」
その質問に対し、職員の側でも紅葉の世界の事情を察したのか、「あぁ」と軽く頷きつつ答える。
「いいえ? 武器兵器全般は何時でも何処でも持ち込んで頂いて大丈夫ですよ? 当然それで暴れたり何か犯罪を犯すようであれば逮捕案件ですが、単純な携帯・所持だけであれば問題ありません。持ち込みに制限のかかる火薬庫などの特殊なエリアは元々関係者以外立ち入り禁止ですしね」
それを聞いて瑠璃は紅葉に話しかける。
「ふむ、この世界は魔界と同一方式みたいですね。何処でも武装の有無は自由。武装されて困る場所にはそもそも認可された者以外は立ち入り出来ない。そういう方式みたいです」
それを聞いた紅葉は不思議そうに瑠璃に尋ねる。
「魔界もそうなんだ……。もしかしてそれって結構な数の世界で当たり前なの?」
しかし、瑠璃からすれば紅葉のその質問の方が意外だったようだ。そう、これは瑠璃と紅葉の間でも常識が違う点なのだ。
「うん? それはそうでしょう。獣人は元々ある程度強い種族だからあれですけど、元が弱い種族や子供とかだと武器を持たずにどうやって危険から身を護るんですか。自分より元々種族的にある程度強い種族が襲って来たりしたら対抗出来ませんよ?」
他種族共生型の世界において爪や牙を持つ種族とそうでない種族では刃物を持っているかいないか程度の戦力の違いがある。これに対し生まれた時から爪や牙を持つ種族の側を規制する事は種そのものへの弾圧であり、抵抗を生む為、大抵の世界では弱い種族の側に強化の余地を持たせ、弱い種族も強い種族も平等に強い武器を持つ事により力の拮抗状態を保っているのである。
そうした事情を瑠璃の言葉と空中の文章から把握した紅葉はそれでも残る疑問を職員に尋ねる。
「なるほど……。でも無条件に武器が持てるのって大丈夫なんですか? 生まれ付き獰猛な種族とかも結構いると思うんですけど」
武器による平等には幾つかの欠陥が存在するが、これはその一つ。生まれ持つ性質が凶暴な者、すなわち悪人が平等に武器を持ってもいいのか? という質問である。
事実、武器による平等には、貧富の差による装備武器の性能差や同性能の武器を持つ場合数に勝る方が有利になるという数的戦力差などの問題もあるが、それらは先天的な不平等を後天的なものに変更するという意味では目的をクリアしている。
だが、先天的に危険な者にまで平等に武器が供給されるとすれば、それは単に危険を増大させるだけである。それは問題があるのではないか? そうした紅葉の疑問に対し、職員はそれを理解しないとでも言いたげに首をかくんと横に傾げ、機械じみた真顔で答える。
「そうですね。獣人などですと肉食獣の方だとそういう傾向はあるかもしれません。でもその中にもおとなしい方もいますし……。そこは個体差によるものなので少なくともこの国では如何な存在もその性別、種族、国籍、身分によって差別される事はありませんよ」
その答えは先天的危険を認めない主張。そうした博愛主義的論理が職員の口から告げられる。
が、次の台詞でその根源的論理が変わる。
「ただ、処罰されるのは、それらの要素に関わらず、
『その本人が 何かしらの罪を犯した場合 だけ』
ですので安心してくださいね?」
どんな者も罪を犯すまでは悪人ではない。だが、罪を犯せば即刻処分する。そういう論理。それは極めて正しいが、正しすぎるが故に融通も利かず、逃げ道も無い執行理念である事を意味する。
そして、それを告げる職員のお姉さんの言葉は、台詞そのものはとても柔らかで優しかったが、その中央部分だけは途轍もなく冷徹で冷酷な声色だった気がする。こころなしかその瞳も血の様に赤く煌めいた様に見えた。
(あ、ちゃんとした法治国家だこれ……)




