第二章第六十六話「世界企業と戦争稼業」
ただの自己紹介の筈が……、何故か明かされる軍国と武装国家。
そんな自己紹介に、瑠璃と紅葉は何かしらの違和感を覚えつつも、自己紹介は次のアリシアへと進む。
(いや、アリシアさんって確か……)
そうして、紅葉は続くアリシアの物騒な肩書を思い出そうとするが、それよりも前に、アリシアがその肩書をオブラートな実務表現で包み混む。
「ん、私ね。名前はアリシア。フルネームはアリシア・ルート・ラ・クライシスよ。知ってると思うけど、民間警備会社ネットワーク・クライシスの社長をやってるわ。警備に保全、街の治安維持は弊社にお任せあれ。よろしくね♪」
そして、それに重ねる様に、レティアが自身の自己紹介を加え、そのかなり実体となる部分が省かれ、その安全方面に誇張された実務表現を補強しつつ、しれっと自分達の自己紹介を終わらせにかかる。
「そして、私はレティア・クランシェル。お嬢様の側近兼護衛をさせて頂いているメイドで御座います。では、私達は以上ですので次は黄昏さんお願いします♪」
そうして、レティアはにこやかな笑顔で座ったままお辞儀をしつつ、自己紹介をその隣の黄昏と呼ばれた、何処かで見た事のある気がする軍人へと移そうとするが、その軍人は、同じく笑顔でしれっとネットワーク・クライシスの実態情報をばらしつつ、二人の自己紹介を続行させる。
「と、いう、警備会社風の表の顔を持つ、軍事企業のお二人ですね♡ 通常業務はテロリストや反社会勢力の殲滅に抹殺、未承認国家への武力介入、及び国家解体と国家の統治執行圏外における重犯罪者の追跡と皆殺し、でしたよね?」
だが、その実態となる、極めて物騒な通常業務に対して、一瞬、空気がぴたりと止まるものの、すぐさまアリシアがツッコミを入れる。
「いや、私とレティアが折角流したのに何ばらしてんの!?」
いや、真実なんかい。思ったよりヤバい人でしたね、闇のお嬢様。
とはいえ、そうした黄昏の説明は今回に関してはやはり必要なものの様で、驚くアリシアの横でレティアは目を瞑って溜息を付きつつ、やれやれと両手を顔の横で広げながら、その詳細開示を受け入れて、アリシアの方を宥める。
「いやまぁ、今回の会議的に私達は保全より武力行使の方がメインになる可能性が高いですから仕方ありませんね。諦めましょうか、お嬢様」
「え、えぇー……。はぁ……、そんなに軍事の方がメインになっていったら、また私のネットワーク・クライシスが物騒な組織だって噂が広まるじゃない……」
「ご安心ください。元々物騒な組織ですよ。ネットワーク・クライシス」
「いや、それは何を安心しろというの!? そんなつもり無いからね!?」
アリシアが何か騒いでいるが、その隙に隣のセラフィリアに説明して貰った所によると、ネットワーク・クライシスとは、以下の様な組織である。
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世界企業『ネットワーク・クライシス』
本業はアリシアの言う通り、保全と警備を主とする警備保障会社であり、表向きは傭兵や冒険者といった種類の臨時雇用者を集めて仕事を手配する様々なギルドや冒険者の店と呼ばれる組織の中枢体の一つ。
だが、それと同時に、独自の技術とそれによる兵器工廠を世界中に展開し、数多の企業私兵を抱えた、創誓世界全域に兵力を持つ創誓世界最大の軍事企業。
大国や地域大国を含む数々の国の一部または全ての防衛を担い、あらゆる場所と地域に傘下となる軍閥を築いて政治干渉まで行う創誓世界のバランスオブパワーの一角だが、あくまでもアリシア個人が所有する単一の私営企業であって、国家ではない為、国の柵に囚われず、独自の企業理念を元に行動し、国家を無視して戦争に介入したり、場合によっては自ら戦争を引き起こして国家と対立する事すらある。
特に、世界政府ヴィールドからの領土承認を得て運営している正当国家に対しては慇懃丁重に振舞うが、ヴィールドからの承認を得ず、勝手に土地を占有して建国された国に対しては当たりが強く、政権の動向によっては唐突に宣戦を布告して、国家解体戦争からの軍事裁判による人民選別、戦犯者の生物兵器実験室送りなども頻繁に行う。
そんな企業体質から、その全権支配者であるアリシアに付けられた渾名も「回避不可能災害」や「血塗れ熾天使」など、割と不名誉なものが多い。
無論、ヴィールドによって定められた国際法は遵守している為、それらの行為は全て合法的なものではあるのだが、国際的にはあまり評判は良くなく、特に、そうした行為によってネットワーク・クライシスが常に狩り立てている非承認の国家に根付いた犯罪組織や国家そのものが根腐りしている犯罪国家の類にとっては、何処へ逃げても追って来る咎人狩りの殺し屋集団としての認識が強い。
ちなみに、紅葉達が登録したジャンク・ファーストに並ぶ、禊祓において最大手の民間依頼所であるメイド喫茶「ALSIEL」はネットワーク・クライシスの中継地点の一つである。
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そんなネットワーク・クライシスの表の顔と裏の顔を知った瑠璃と紅葉は、驚くと同時に、別々の場所に感想を得る。
(うっわ……、完全に闇の政府じゃん……)
/(メイド喫茶の方もアリシアさん関連だったんですか……、あれ? もしかして私、RTAし過ぎでアリシアさん関連のイベントかなり取りこぼしてますかね……?)/
そうして、二人は別々の場所を注視したにも関わらず、「むぅ……」と同じ様に顎に手を当てて考え込んだ為、アリシアはそれを不評と見て、自身の組織に付いた悪評に「ぐぬぬぅ……!」とばかりに拳を握り固めて地団太を踏む。
「くっ……! 私は合法的に悪人達からお金と命を徴収してるだけなのに何故!」
そして、そんなアリシアを、従者のレティアは「いや、まぁ……」と宥めるが、アリシアにその声は届かず、アリシアはむしろ聞いてもいないのに、そうした戦争行動の弁解的な企業方針を語り始める。
「ちゃんと慈善事業として、お金の無い老若男女にも無償で武器を貸し与えて傭兵として生きる道を与え、至る所で犯罪の兆しを見つければ傭兵を差し向け、調査の後、犯罪が確認されればすぐヴィールドに討伐令状請求して派兵するという治安も守れて雇用も確保出来るクリーンな事業展開をしてるというのに……っ!!」
「そういうところです、お嬢様。良い事ですけどね」
そうして語られたそれは、要するに貧民を傭兵とし、悪人に差し向ける事で雇用と企業利益を生み出す一石二鳥の企業方針な訳だが、その合理性とその後得られる利益自体は賞賛に値するものの、基本的に獰猛で物騒な所は何も変わっていない。
いや、むしろ理念がそれであるなら、悪化した。
うん。そういうところだぞマッドお嬢様。
そうして、ネットワーク・クライシスだけでなく、そもそもアリシアがヤバい奴である事が再確認された所で、自己紹介は次に進み、先程の自己紹介流しを防いだ、常夜の補佐官と思われる軍人へと自己紹介は進む。
だが、その軍人に関しては、瑠璃と紅葉の二人共、何処かで見た事がある様な気がしており、その既視感は、その軍人が自身の自己紹介に際し、目深に被った帽子を取り、糸目だった瞳を開けた事により、解消される。
「では、次は私ですね。お馴染み緋煉皇国役所神社の市民課担当。紀愁黄昏です。所属は『世界政府ヴィールド』。緋煉国内、及び緋煉従属国や緋煉の傘下国にある役所神社には全て私が配備されてますので、今はそれ程馴染みがなくても、すぐに慣れると思いますよ♪」
にこやかな笑顔で流暢に話された、その正体は……、
「「受付のお姉さん!?」」




