第二章第六十三話「冥道要塞冥府主催大会議」
四方の角に玄関が据えられた大会議室。
その内部は10m×10mの正方形の畳敷きであり、一枚2m×1mの畳が全て縦向けに、同一方向の四居敷きで敷かれている。
四方の壁には、それぞれ同一の、何も置かれていない床の間があり、北西と北東の上側、南西と南東の下側には、それぞれの角に裏が銀の黒網が張られた縦格子の間仕切りがあり、その仕切りと繋がる形で、西側の角と東側の角にそれぞれ上下に一枚づつの一本引きの襖がある為、それがそれぞれ格子裏の玄関とその先の通路に繋がるものであるとわかる。
そうした、几帳面なまでに上下左右を対称に作られた部屋は、戦略的に言えば、有事の際、それぞれが安全な方向から撤退する事を見込まれてのものではあるが、それと同時に、この部屋の中で行われる会議が座席の優劣で左右されず、それぞれ平等な立場で意見出来る様に取り計らわれてのものでもある。
それを象徴する様に、個々人が座る為の座布団も恐らく今はまだ会議が始まっていないという事も相まってか、各方面の床の間の前、角にある玄関を避けた壁側に十二枚ずつ並べられており、今は西側の南端にレルゥシャとセラフィリアが、南側の中央付近に聖成伽とアリシアとレティアが適当に座っている。
とはいえ、席の指定自体が無いわけではないらしく、全てがほぼ対称なこの部屋の中で、北に面する床の間にだけ、四角く高い塔の様な置時計が置いてあり、その存在を主張している。
恐らく、あれが主催や議長側が座る方向なのだろう。
(なるほど、全ての角に均一に出入口があるのなら上座も下座もないか……。でも、会議の進行を務める主催や議長は必要だから、その場所には目印となる置物がある、と……)
そんな事を、紅葉が中空の文も見つつ認識した所で、黄泉から声が掛けられる。
「それで? 貴女達は何しに来たのよ? 話の流れ的になんかレルゥシャが連れて来たみたいだけど……、単なる見学って訳じゃないんでしょう?」
そうして、腕を組んで首を傾げ、片眉を上げつつ片手を顎に当てながら、不思議そうに問う黄泉に対し、位置的に紅葉より黄泉に近かった瑠璃は「あっ」と、ここに来た目的を思い出して、ぽんと自身の指先を合わせつつ、その目的を告げる。
「そうでした。実は今朝の『観測知性』の件で、幾つか新しい情報が出て来て対処出来るかもしれないので黄泉さんに報告しに来たんですよ」
そうして、よくよく考えればこんなメンバーのいる国に対してその情報は些事で不要では? と、紅葉であれば一瞬考えてしまいそうな今回の報告を、瑠璃は特に何も考えず、普段通り話して報告する。
それに対し、紅葉が一瞬考えた様な無能な上司であれば、重鎮の揃う重大な会議の場に、そんな些細な報告を持ち込んだ者を叱責するという様な事態も有り得たが、当然、黄泉は無能ではなく極めて有能な上、立場どころか存在そのものが何段階も違うにも関わらず、腰を低めて目線を合わせてくれる者なので、瞬時にその情報から瑠璃と紅葉の今までの行動と努力を推察し、怒る事なく、むしろ遠回しに褒めつつ、瑠璃と紅葉を共に会議に参加させる方針を決める。
「あら、それは朗報。ふむ、『観測知性』、か……。それはこの会議の内容に結構関わって来るわね……。じゃあ、せっかくだし会議の中で聞くから座って?」
……かなり遠回し過ぎて解り難いが、「朗報」、つまり良い知らせを持って来たと褒めたのである。
その事に気付いたのは、中空の文を読んでいる紅葉と黄泉に近い者だけで、当の話していた瑠璃は褒められた事に気付かなかった様だが、好感的ではあったらしく「はーい♪」と上機嫌に、近くで席の空いている南西玄関付近の壁隅へと向かう。
だが、その何だかおかしな点のあった黄泉の言葉に、一瞬遅れて気が付いた瑠璃は、席に向かおうとして振り返った直後にもう一度振り返り、黄泉に尋ねる。
「……って、え? 私達って完全に部外者ですし、大会議って、この国の首脳会談ですよね? 私達も参加するんですか? っていうか参加して良いんですか?」
そうして尋ねる瑠璃に対し、黄泉はあっけらかんと答える。
「良いんじゃない? それに貴女達がここにいる、という事は、それだけで大会議に参加出来る資格は満たしてるし、『観測知性』の事に関しても、彼女達が一緒の場所で会議した方が効率良いわ。そんなに難しい事じゃないから興味が無くても、話だけでも聞いて行きなさい」
「え、いや、まぁ……、こんな面子での首脳会談とか、割と興味しかないので参加して良いなら、是非にでも?」
「よろしい」
そうして納得した瑠璃が他のメンバーのわちゃわちゃと居る、部屋の南方、壁際辺りに向かい、アリシアの隣の聖成伽の隣の席に座り、紅葉もそれに続いてその更に隣の南方西端付近の席に座った辺りで、
黄泉と常夜から遅れて三人の、三人のー……、なんだ? 金髪巫女一人、スーツの上から赤い袢纏を羽織った黒髪女一人、何処かで見た様な軍服姿の紫髪女一人が部屋の北西、紅葉達や黄泉達が入ってきたのとはまた別の玄関口から入って来て、その内の一人、袢纏スーツの女が黄泉に今回の資料らしき端末を渡して話始める。
「今回の資料が出来ましたわ♪ 黄泉様。こちらが『輝石作戦』の概要と計画累進、そしてこちらが『彼岸作戦』の計画書になります。後、例の『観測知性』に関する資料はこちらに……」
「なるほど……、ありがと怨嗟。ふむ……、『稀石』と『彼岸』の方は順調として……、やはりあの兎は危険か……」
「そうですね、黄泉様。あぁ! 今日もお顔がよろしいです♡」
「はいはい」
そうして、黄泉はその袢纏スーツの女と、常夜は他の金髪巫女と紫髪軍服の女と話し込むが、それも暫くした後、その五人が北側の壁に二枚の掛け軸を掛け、部屋の中央の二枚の畳に、中央に黒い彼岸花の刺繍が施された、金の縁取りを持つ深紅の絨毯を敷きつつ、その周りに座布団を並べて、黄泉が号令をかける。
「ん、準備完了。そして、そろそろ時間ね。はい、みんなー。今回の席順と会議の方向性が決まったから、全員、掛け軸に表示された指定の席……、というか座布団に着きなさい。あ、瑠璃と紅葉は今回レルゥシャとセラフィリアの賓客扱いになるから、そっちで二人の間ね」
「「はーい」」「はい、ありがとうございます。黄泉様」「ん」
そうして、一行と共に号令を受けた二人は、促されるまま、号令の直前、北側の壁、床の間の左右に掛けられた、左右の壁を一面ずつ覆う、幅広の巨大な掛け軸に映し出された席順に従い、部屋の中央の二枚の畳を囲む様に四方四枚ずつ、正方形の形で計十六枚の座布団が並べられた座席の、西側に位置する一辺に、北側から順に、レルゥシャ、紅葉、瑠璃、セラフィリアの順で着席し、北の一辺には、西から順に、その列の中央二枚に、黄泉と常夜が並んで座る。
そして、その黄泉と常夜の隣には、それぞれ二人の補佐官と思われる袢纏スーツの少女と紫髪の軍人が座り、最後に、西側と北側に偏る形で、東側ではレティアが紫髪の軍人と斜めに隣り合う様に座った後、アリシアがその隣に座り、南側の列には聖成伽の補佐官と思われる金髪巫女がセラフィリアと斜めに隣り合う様に座った後、聖成伽がその金髪巫女の隣に座る事で、全員の着席が完了する。
そうして、全ての者が着席し、ほんの少しの沈黙と静寂が訪れた所で、北側の床の間に置かれた、巨大な置時計が鐘を鳴らし、会議の始まりを知らせる。
―ボーン…………ボーン…………ボーン―
「……ん。ではここに、大会議こと、冥府主催の局地緊急首脳会談を開催する運びとします」
(…………局地緊急首脳会談?)
そして今ここに、その単なる大会議とは、些か以上に毛色の異なる会議が始まるのであった!




